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エピローグ 取り戻した日常

今回で第一章は終わりです。いやー、長かったのです。

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 月曜日の朝。先週までとはうってかわって快晴の青空。先週は大活躍だった傘も今は傘立てへとしまわれ、その役目を終えていた。

 眩しい日差しが降り注ぐ中を零音と晴彦は学園に向けて歩いていた。


「いい天気だね」

「あぁ、ホントに。鬱陶しいくらいの快晴だ。少しくらい曇ってくれてもいいんだけどな」

「えー、天気いい方がいいよー。洗濯物もよく乾くし」

「考えることが主婦くさいな」

「主婦目指してるもの」

「は!?」

「なーんてね。冗談だよ。びっくりした?」


 驚く晴彦の顔を見ていたずらっぽい笑みを浮かべる零音。それは今までの零音があまりしてこなかったような表情だ。


「な、なんだ冗談かよ。いきなりそんなこと言われたらびっくりするに決まってるだろ」

「ふふ、冗談だよ……今はね」

「え?」

「それよりもさ、ハル君ちゃんと今日の英語の宿題やってるの?」

「……英語の宿題?」

「あ、その反応。やっぱりやってないんだ」

「いやいや、なんだよ宿題って俺知らねーぞ!」

「うーん、やっぱり覚えてないかー。まぁしょうがないけど。この宿題出されたの先週の木曜日だし」


 先週の木曜日。つまりちょうど晴彦が洗脳されていた時である。そして、晴彦は洗脳されていた期間の記憶があやふやだ。うすぼんやりとした記憶はあるがそれだけで、宿題のことはすっかり記憶から消していた。慌てて鞄の中を確認し、ノートを見る晴彦だがもちろん宿題はやっていない。それどころかノートもほとんど取っていない。


「あの時の俺は何してたんだよ……」

「あはは……まぁそれは私も悪い所あるから。今回は特別に宿題見せてあげる」

「マジか!」

「今回だけね。ノートも後で写させてあげるから」

「……なんか妙に優しいな。お前ホントに零音か?」

「な、私が悪いと思って言ってあげたのに! じゃあいいよ。見せてあげないから。一人で頑張ってね」

「あぁ嘘嘘! 嘘だから! ごめんなさい! だからどうか宿題だけは……」

「むぅ……次はないからね」


 その後も、他愛のない話をしながら二人は歩く。以前と同じ、戻ってきた日常だ。もし変わったところがあるとするならそれは零音だろう。


(零音……よく笑うようになったな)


 隣で楽しそうに話す零音の事を見ながら晴彦はそう感じた。今までも零音はよく笑っていたが、以前までとは違いその笑顔から影が消えた。無理をしていない、年相応の優しい笑顔だ。それを見れたことが晴彦には何よりも嬉しかった。

 そして、変化があったことがもう一つ。


「それでそう、昨日めぐみがね——」


 前日の日曜日、零音、雫、雪、そしてめぐみの四人で話し合いの場が設けられた。その場に晴彦はいなかったので、どんなことが話し合われたのかは知らない。零音もその時のことを話しはしない。しかし、その話し合いのあと零音はめぐみのことを「井上さん」から「めぐみ」と呼ぶようになった。二人の距離が近くなった証拠だろうと晴彦は思う。

 あの一件はまだ完全に解決したわけでもないし、それはこれからの話になるのだろうが、それでも確かに得たものもあった。

 零音とめぐみだけではない。晴彦と零音の関係にも変化があったのだから。


「ハル君、聞いてる?」

「ん、あぁ聞いてる聞いてる」

「ホントにー?」

「ホントだって。それよりもさ。聞きたいことがあるんだけど……いいか?」

「ん、なーに?」


 それは晴彦が何度か聞こうとして、結局聞けていなかったこと。しかし、このまま悶々としてしまうくらいならと、晴彦は覚悟を決めて口を開く。


「零音って結局……冬也のこと好きだったのか?」

「え?」

「あ、いやほら。だからどうってわけでもないんだけどさ。その、ちょっと気になったって言うか。いや、言いたくないなら別にいいんだけど」

「ふーん……」


 そんな晴彦からの問いかけに、少しだけ考え込む仕草を見せる。それから零音は口を開く。


「好きだったよ」

「っ、や、やっぱり」

「友達として、だけど」

「へ?」

「いや、だってそうでしょ。今は女の子だけど、冬也と一緒だった頃の私は男だったんだから。冬也のことは好きだったし、大事に思ってたけど……それはあくまで友達としてだよ」


 その言葉を聞いた瞬間に、晴彦は少しだけホッとしてしまう。冬也のことを気にしないと言っても、そこはそれ。複雑な男の心情というものだ。


「あ、もしかしてハル君私が冬也のこと好きなんじゃないかって心配したの? 嫉妬とかしてくれた感じ?」


 少しだけ嬉しそうに零音は晴彦に詰め寄る。一方の晴彦は少しだけ図星をつかれて挙動不審になってしまう。


「ば、別にそういうわけじゃねーよ!」

「えー、そうなの?」

「だいたいお前はどうなんだよ。俺のことどう思ってんだよ」

「それは……うーん、今教えちゃってもいいんだけど……それは約束破ることになっちゃうし」

「約束?」

「こっちの話だよ。それよりハル君は知りたいの? 私がハル君のことをどう思ってるか」

「そりゃ……知れるなら知りたいけど」

「そっか。でもごめんね。今は教えられないの」

「なんだよそれ」

「ごめんね。でも、知りたいなら一つだけ方法があるよ」

「方法?」

「私の心を奪って」


 少しだけ先を歩く零音が振り返ってそう言う。


「奪う?」

「私のことだけ見て、私のことだけを考えて、そして……私の心をもう一度奪って。私が晴彦のこと以外考えられなくなるくらいに」

「……零音?」

「なーんてね。冗談だよ」

「また冗談かよ!」

「でも全部が全部嘘ってわけでもないよ。ハル君が私の気持ちを知りたいなら、その方法は一つだけ」


 そして零音は、今まで晴彦が見てきたどの笑顔よりも魅力的な笑顔を浮かべて言った。


「私のことを攻略してくれますか?」



第一章最後まで読んでくれてありがとうございます!

途中無茶苦茶になってしまう部分もありましたが、それでも最後までお付き合いいただけて感謝です。

まだ物語は終わったわけではありません。私の思い描くハッピーエンドはまだ先にありますから。

第二章は一週間ほどしてから再開したいと思います。

それでは、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!


それではまた第二章からもよろしくお願いします!


次回投稿は3月23日9時を予定しています。

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