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第151話 霞美の望んだ世界

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。


「霞美が……このゲームを作った?」

「そう。もともと私はそれなりに有名なシナリオライターだった……」


 それは霞美が元の世界にいた頃の話だ。霞美はシナリオライターとして働くかたわら、友人たちに誘われてフリーゲームを一緒に作っていたのだ。


「友達と……いや、あのクズ共と一緒にゲームを作っているなかで、私達の名前はどんどん売れていった。それこそ、作ったゲームが漫画化されたりするくらいには。そうした中で、私の中に作りたいゲームが生まれたんだ。だから私は、あいつらを友人だと思ってた愚かな私は相談して、そのゲームを作ることになった。それこそが『アメノシルベ』だった」


 霞美の最も作りたかったゲーム。それを友人達と作っていた霞美はそれまでの全てを込めて、全力で制作に励んだ。しかし完成目前になって、霞美は最悪の形で友人たちに裏切られることになる。


「でもあいつらは、私がシナリオを書きあげた時点で私のことを裏切ってたんだ! あいつらは、私の書きあげたシナリオを売ったんだ! ゲーム会社に!」


 霞美が何度か一緒に仕事をした会社だった。意見が合わないことが多かったためいつしか一緒に仕事をすることはなくなっていったのだが。しかし、シナリオライターとしての霞美は優秀であったため書いたシナリオを欲しがるものは少なくなかったのだ。


「それに気づいた私はあいつらを問い詰めた。なんで、どうして裏切ったのかって。そしたらあいつらはなんて答えたと思う? 金が欲しかった……だって。そのために、そんなもののために私の人生の集大成といってもいい作品は売られたんだ! しかもあいつらは私の作ったシナリオを変更してエンディングを変えたんだ!」


 もし霞美の書いたシナリオのまま売っていたならば、霞美はまだここまで恨みはしていなかったかもしれない。それでも許しはしなかっただろうが。しかしあろうことか霞美の仲間とゲーム会社は霞美の書いたシナリオを変えた。それが何よりも霞美には許せなかったのだ。


「『アメノシルベ』は鬱ゲーだったの。なのに、あいつらはそれをありがちなギャルゲーにしたんだ。私の書いた鬱要素をほとんど全部排除して!」

「た、確かにあなたの仲間のしたことは酷いけど……あなたが優秀なシナリオライターだったなら新しいものを書けばよかったんじゃ」

「新しいものを書けばいいとかそういう問題じゃないの。言ったでしょ。『アメノシルベ』は私の人生の集大成と言ってもいい作品なの。これ以上の作品は後にも先にももう書けない……『アメノシルベ』は私の人生そのものだった。だから完成させたかった。どんな手段を使っても、私の作った『アメノシルベ』を完成させて、この目で見たかったの。そして、そんな私の前に現れたのがあの胡散臭い神様だった」


 絶望に沈む霞美の前に現れた神は霞美に言った。「キミの望む世界に連れて行ってあげよう」と。普通ならそんな話は信じなかっただろう。それでも、その時の霞美は藁にも縋る思いだった。


「どうしても私は完成させたかった。私の物語を。だから私は受けたんだ。あの神の話をね。そして私はこの世界にやって来た。物語の進行役として、狐の役割を担うために」


 それこそが霞美がこの世界にやって来た経緯だった。


「それから私は物語を完成させるために動いた。私はあなた達がこの世界に来るずっと前からこの世界にいたの。順調だったはずだった。少しずつ準備を進めていたのに……お前達が来て全てが変わった」


 霞美は物語の中心人物である晴彦達のことをずっと観察していた。初めにおかしいと思ったのは零音達が小学生に上がる頃だった。その違和感が確信になったのは零音達が高校生になってからだった。


「お前達は私の想定した通りに動かなかった。初めから。校外学習の時なんかは特に。それでも過程はどうでもよかった。思った以上に動く羽目にはなったけど、それでも結末さえ同じなら良かったのに……もうめちゃくちゃだよ」


 霞美の望んだ光景は見られず、長い時間をかけてその果てに待っていたのは霞美の最も嫌う光景だった。これに絶望するなという方が無理だろう。

 今の霞美はかつて友人に裏切られた時と同じようにその心が絶望に染まろうとしていた。


「もういい。私の望む光景が見られないなら……私の思い通りにならない世界ならいらない。全部全部……壊れちゃえ」


 そう言って霞美は空に手を掲げた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月9日21時を予定しています。

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