第149話 前に進むために
後、大体三話か四話くらいかなーと想定してます。まぁあくまで予定なのでその通りに進むかはわかりませんが。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「なぁ零音。聞かせてくれ。お前にとって……この世界は現実か?」
そう問われた零音は一瞬固まってしまう。そして、晴彦はこの問いを零音に対してしたが、雫と雪もまた晴彦の問いについて考えていた。自分ならどういった答えを出すかということを。
問われた零音はこれまでのことを思い出しながら、そしてめぐみへと一瞬目を向ける。
「私にとってこの世界は……最初は、来た当初はゲームの世界だった。いきなりこんな世界に送られて、わけがわからなくて……でも今はもうきっと違う」
ゲームの世界。元の世界に戻るまでの仮の世界。ずっとそう思って過ごしてきた。しかし、気付けば今の零音にはこの世界に大切なモノが増え過ぎた。
この世界の家族や、めぐみの存在。そして何よりも晴彦との思い出が。最初は元の世界に帰るための攻略対象としてしか見ていなかったはずなのに、いつしか心を奪われていた。
「私にとってこの世界は……現実だよ。嘘の世界なんかじゃない。でも……だからこそ私はここにいちゃいけないんだって思うの」
「……どういうことだ?」
零音の言葉に、一瞬安堵の表情を見せた晴彦だったが、その続きの言葉を聞いて怪訝そうな顔をする。
「私は……ハル君が思ってるような人じゃないの。ハル君が思ってるよりもずっとずっと汚い。嫌な奴なの。私には……忘れてはならない罪があるのに。それすらも忘れそうになるくらいこの世界は優し過ぎるから」
零音にとってこの世界は眩しかった。自らの罪を、冬也のことを忘れてしまいそうになるほどに。しかし、零音にそれが許容できるはずもなかった。昔の零音が。元の世界にいた頃の零音が冬也のことを忘れるなど許すはずがなかった。
泣きそうな顔をして言う零音。晴彦はその原因を冬也との一件を知っている。少しの時間しか一緒に居なかったが、零音がこんな顔をしている時に冬也ならばどんな言葉をかけるのか。それを晴彦は考えていた。
(零音の心はまだ冬也の一件に囚われてる。冬也のことを忘れさせたいわけじゃない。でも、いつまでもそのままでいることを冬也が望んでるはずがないんだ。なぁ、そうだろ冬也)
「なぁ零音。さっき言ったよな。俺さ、神様以外にももう一人会って来たやつがいるんだよ」
「え?」
「宇崎……宇崎冬也」
「っ!?」
その名前を聞いた瞬間、今度こそ零音の頭が真っ白になる。
「どうしてその名前を知ってるの!」
「だから言っただろ。会って来たんだよ」
「嘘! そんなことあるわけない!」
思いもよらぬ名前が出てきたことで動揺を隠せない零音。晴彦はそんな零音にむかって努めて静かに、優しく話しかける。
「零音が嘘だと思うのも無理ないけど。で、本当の話なんだ。そして俺は、零音の過去に何があったのかも知ってる。お前が何に苦しんでるのかも……知ってる」
「そんな……」
「なぁ零音。お前は冬也のことで苦しんでるみたいだけどさ、そんなお前の姿を見て冬也がどう思うか考えたことあるか?」
「え?」
「冬也が言ってたぞ。俺のことで気に病むなって。なぁ零音。お前の知ってる冬也は、お前が苦しみ続けることを望むような人間か? 違うだろ。あいつはお前のことを心配してた。何より、後悔してた。零音を苦しめてしまっていることを」
多くの記憶を見てきた晴彦だからわかる。冬也がどれだけ零音のことを心配しているのかということが。過去の記憶に縛られて前に進めない零音のことを救ってやれないことへの悔しさが。
「冬也……」
もちろん、冬也がどんな人間であるかなど零音がわかっていないはずがない。なによりもずっと冬也の傍にいたのだから。
「冬也のことを忘れろって言ってるんじゃない。お前の苦しみをすぐに捨てろって言うわけでもない。そんなことはできないだろうから。でもさ、冬也の想いを、言葉を受け入れる努力ぐらいはいいんじゃないか? 零音。もう前を向いて進んでもいいんだよ。何よりも冬也がそれを望んでるんだから」
零音に向かって手を伸ばす晴彦。その手を取っていいのか悩みつつもおずおずと手を伸ばしかける零音。
しかし、この場に一人だけ、それを許さない人物がいた。
「ふざけたことを抜かすな!」
それまで事態を見ているだけだった霞美が、怒りのままに立ち上がり叫んだ。
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次回投稿は3月6日21時を予定しています。