第10話 第1回元男達のガールズトーク!
エアコンにやられたのか、風を引いてしまいました……体調には気を付けてたつもりなんですけどね。
皆さんも体調には気を付けてくださいね。
『目覚めの小鳥亭』にて。
日曜日の朝、私は以前晴彦と一緒にやって来た喫茶店へとやってきていた。
とある人物に呼び出されたから来たわけだけど……どうやらまだ来ていないようだ。
「いらっしゃい」
店主に待ち人がいることを伝え、あまり目立たないように隅っこの方の席に案内してもらう。その方が都合がいいだろうし。
とりあえずコーヒーを頼んで目的の人が待つことにする。
それから五分ほどして、人が喫茶店に入ってきた。
「こんにちはー! 待ち合わせなんですけど」
聞き覚えのある声、そこにいたのは夕森だった。
しかし、それは私の待ち人ではなかった。まぁ目的は夕森も同じだろうけど。
「あれ、レイちゃんじゃん。あ、すいませんオレンジジュースお願いしまーす」
私を見つけた夕森がこちらに来てそのまま正面に座る。店主がオレンジジュースを置いていったその次の瞬間、彼女は『夕森雪』の仮面を取り払った。
「なんだよ、お前もあいつに呼ばれたのか?」
「そうだけど。いいの? 周りに人がいないわけじゃないのに」
「ははっ、大丈夫だろ。みんな自分のお喋りに夢中だ。こっちの会話なんか聞いちゃいねーよ」
「まぁ、あなたがいいならいいけど。あと、足開いて座らないで」
「なんだよお前。そんなとこまで気にするようになってんのかよ」
「違う。普段から気を付けてないと不意にでることもあるでしょう」
「学校の先生かよ。まぁ言いたいことはわかるがな」
「それと。いい機会だから言っておこうと思うんだけど」
「なんだよ」
「ゲームのシナリオに関係のないところで晴彦を遊びに誘うのはやめて」
「あ、なんで知ってんだよ」
「スマホ」
「……お前、晴彦のスマホ勝手に見たのかよ」
「冗談だよ。晴彦から誘われたって聞いたの」
「冗談ならもっとわかりやすく言ってくれ。わかんねーだろ」
「そんなことないと思うんだけど」
「っていうかよー。あいつ遅くねぇか」
「確かに、もう約束の時間は過ぎてるし」
まぁ細かい時間を決めてたわけじゃないけど。性格的に一番先に来ていたそうだって思ったんだけど。
「やぁ、待たせたみたいだね」
なんて考えていたらやっと来たみたいだ。
「遅いですよ。生徒会長」
そう、今日この喫茶店に私を、私達を呼び出したのはこの人だ。
「遅刻遅刻―。今日は生徒会長様の奢りだな」
「まぁ、奢るのは別に構いませんが。すいませんね。少し先に学校に行く用事がありまして」
「別に構いませんけど。それにしても今日はなんの用なんですか?」
「簡単に言うならこれからのことだよ」
「これから?」
「晴彦君に他の女子が近づかないようにするように頼んだよね」
「あぁ、そうだな」
「そうですね」
昼ヶ谷さんと連絡先を交換したその日の内に私達は一つのグループを作った。その名も『HKD』、晴彦囲い込み同盟だ。その目的は晴彦に私達以外の人が近づくのを阻止することとだ。
「成果は上々だと聞いてるよ。夕森さんは様々なグループを回ることで晴彦君に近づこうとする女子に釘を刺し。朝道さんが学校ではすぐそばにいることで女子を牽制する。これで晴彦君は私達以外に近づくことはない」
「そうだけどよー。ここまでする必要があんのか?」
「この世界はただ単にゲームの世界じゃない。一つの油断が大きな違いを生みかねないんだ」
「そう言われてもなー」
昼ヶ谷さんの言いたいことはわかる。けれど少し警戒しすぎな気もする。
「あの、何かあったんですか?」
「……風城先生だよ」
「風城先生?」
「あの先生は、ゲームには存在しなかった」
「それはただ単に描写されてなかっただけじゃ……」
「ボクは、『アメノシルベ』を相当やりこんでるよ。キャラクターはモブの名前まで全て覚えてる。晴彦君と夕森さんの出会いのシーンで出てくる保険医にはちゃんと名前があるんだよ。その名前は赤坂、風城じゃない。保健室の記録を見て驚いたよ」
「それだけですか?」
「確かに、見てもらう保険医が違った。それだけの違いだけど、それだけの違いが出たのは確かなんだ。すべてがゲーム通りに進むわけじゃないという証明でもある」
バタフライエフェクトじゃないけど、小さな違いがやがて大きな違いを生んでしまうかもしれない。そういうことか。
「この先生はゴールデンウィーク明けの1年生と2年生合同の校外学習にも同行することが決まってるんだ。警戒はしておいてね。それに、今わかっているのが風城先生だけで、もしかしたら他にも出てくるかもしれない。不確定要素はできるだけ少なくしたいんだよ」
「めんどくせぇな。っていうかふと思ったんだが、この3人の内の誰かが晴彦とイベント起こしたときに邪魔したりできんじゃねぇのか?」
「それは無理だね」
「あ? なんでだよ」
「すでに確認済みなんだ。ね、朝道さん」
「う……」
確かにそうだ。それは以前確認している。
「どういうことだよ」
「まぁ、それは置いとこうよ。できないとわかっていればいいの。それで、伝えたいのはそれだけなんですか?」
「そうだね。まぁでもせっかくだし、もう少し何か話そうか」
「話すって何をだよ」
「そうだな……そういえば、君達は普段何をしてるんですか? 晴彦君と関わることがない時間とか」
「あー、オレはクラスの女子とか、中学の時の友達とかと出かけてたりするなー。オレには全然わかんないけど、服屋とかカフェとか、スイーツだとかに連れてかれるよ」
「そういえばこの間もクラスの女子と放課後に出かけてたね」
「あーあれな。っていうかお前も来いよな。声かけただろ」
「夜ご飯の準備とかあるし」
「別にいいけどよー。あいつらお前のこと誘え誘えってうるさいんだよ」
「そうなの?」
「自分たちで声かけろってんだ。めんどくせー」
クラスの全員と仲良くするというのはそれなりに大変なようだ。まぁ、私はほどよくな感じだからあんまりしんどさはないけど。
「お前は何してんだよ」
「ボクかい?」
「あー。確かに昼ヶ谷さんが何してるかとかわからないですね」
「ボクは生徒会長業務に追われてることが多いよ」
「そんなに仕事多いんですか?」
「必要があったから生徒会長になったけど。まさかこんなに忙しいとは思わなかったかな。まぁその分できることも多いけどね」
「うちって部活の予算とかも全部生徒会が決めてんだろ?」
「そうだね。どれだけあげるかは生徒会の自由だよ。それに、イベントの企画も自由にできる」
「すごいですね」
「その分、ボクが自由に使える時間は減ったけどね。朝道さんは何してるの? 君が一番わからないけど」
「私は……特に何もしないですね。まだクラスに一緒に遊ぶほど仲の良い子もいませんし。家にいる間は料理の練習とかすることがあるくらいです。基本的に何かすることがあると晴彦も一緒のことが多いです」
クラスに仲良くなってみたい子はいるけど、まだ声を掛けれてないし。あ、これは別にやましい気持ちがあるわけじゃない。というか、この体になって女性に欲情するようなことがなくなってしまった。これ、元の世界に戻ったら直るのかな。
「なんていうか、君もすごいよね」
「え?
「晴彦のことを知っているという点では朝道さんには勝てないだろうと思うよ」
「晴彦の好きなもんとか嫌いなもんとか、なんでも知ってそうだよな」
「それぐらいなら知ってるけど」
幼なじみなんだから当たり前だろう。むしろ長年一緒にしたら知らないことの方が少ないくらいだ。
「血液型はB型で、身長は173cm。得意な教科は国語。苦手なのは数学と英語。好きな食べ物はハンバーグ。上にチーズとか乗せると喜ぶよ。嫌いなのは納豆とかオクラ。あのネバネバした触感が苦手なんだって。趣味は特になし。ゲームしたり漫画読んだりするけど、そこまでだしね。最近ちょっとアダルトな漫画を買って、本棚の2段目の3列目に隠してた。将来の夢も特になし。昔は戦隊シリーズのリーダーになりたいって言ってたかな。そうそう昔見たホラー映画がトラウマで今でもお風呂場の鏡は見れないみたい。サンタさんは小学5年生まで信じてた。嘘ついてる時には髪を触る癖があって、隠し事をしてる時にはいつもよりも話すようになるんだよ。パソコンの秘蔵ファイルの名前は『宝箱』にしてたかな。遅寝遅起きが悩みみたいで昨日は夜の11時13分に寝て、今は……うん、まだ寝てるね。休みの日は11時から12時の間に起きることが多くて、昨日は11時7分に起きてたね。それから——」
「「ちょっと待て!」」
「どうかした?」
「いや、お前今の……ほんとか?」
「……冗談だよ?」
「今の間はなんだ!」
「はは、冗談ですって冗談。いくら幼なじみだからってそこまで知ってるわけないじゃない」
「そう……だよな。さすがに」
「さすがに今のがホントなら引きますよ」
実は結構ホントのことだったり……でも言わない方が良さそう。
でも長年一緒にいたらこれくらいわかると思うんだけどなぁ。最後の寝た時間とかは嘘だけどね。そこまでは把握してない。
「はぁ、なんか疲れた。ここってケーキとかあったよな」
「あるけど……好きなの?」
「好きっていうか……この体になってから甘いものが美味しいっていうか。元の世界にいた時はほとんど食べなかったんだけどな」
「それわかります。ボクもあんまり食べれなかったものが食べれるようになりました」
「そういえばそうだね。私もだ」
せっかくなのでケーキを食べることにしたんだけど、夕森がまさか5個も頼むとは思ってなかった。
「それ、大丈夫なの?」
「全然食えるけど」
「いや、そうじゃなくて体重とか」
「あー、オレ全然太らないんだよ」
「ボクもそうだね。まぁそれでも5個は食べないけどね」
「そんな馬鹿な……」
同じ攻略ヒロインだというのに、そんな違いがあっていいんだろうか。
「私の苦労を教えてやりたい……」
「ははっ、残念だったな!」
「こればっかりは体質ですから」
「くそぅ」
そうして一緒にケーキを食べる姿は、はたから見れば普通の女子高生の集団に見えた……かもしれない。
今回はガールズトークというタイトルだったのですが……もっとガールズトークしてもよかったかもしれないですね。第二回の時にはできるようにします。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月17日9時を予定しています。