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第147話 洗脳が解ける時

失敗したなーと思ったことも含めて作品。それを糧にして技術を向上させていきたいのです。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「さぁ晴彦、主人公としての務めを果たさないとね。ヒロイン様がお待ちだよ」


 霞美がそう言うと、それまで虚ろだった晴彦の目に光が宿る。


「あれ、零音?」

「……うん」

「なんで俺屋上に……なんかあったっけ?」


 晴彦は零音のことだけを見て話す。この場には雫や雪達もいるというのに、まるで見えていないかのように。


「ううん。何もないよ」

「そうか。ならいいんだけど」


 それからしばらく、他愛のない話を続ける零音と晴彦。特に零音はこれが晴彦との最後の会話になるとわかっているからか、一つ一つの話を噛みしめるように会話を続ける。しかし、話せば話すほどに、目の前にいる晴彦が自分の好きになった晴彦ではないのだということがわかってしまって辛くなる。

 泣きそうになる気持ちをグッと堪えながら晴彦との最後の時を過ごす零音。


(これは私のせい……この事態を招いたのも私。だから、私が終わらせないといけないの)


 そして零音はいよいよ腹を括り、晴彦に切り出す。


「ねぇハル君、聞きたいことがあるんだけど……いい?」

「ん、なんだ?」

「ハル君は……ハル君は、私の事どう思ってる?」

「どうって……そりゃ、大事な幼なじみだけど」

「それだけ?」

「それだけって……いや、それだけじゃない。俺は。俺は零音のことが——うぐっ!」


 霞美に仕向けられた通り、零音に告白しようとする晴彦。しかし、その途中で突然頭をおさえて苦しみ始める。


「? どうしたの晴彦。さっさと始めなさい」

「ハル君?」


 様子の変わった晴彦に指示を出す霞美と心配そうに見つめる零音。

 ジッと見ているしかなかった雫達も、晴彦の様子が変わったことに気付く。


「様子が変わったわね」

「どうしたんだろ」

「……もしかしたら、日向君が抵抗してるのかもしれないです」

「抵抗?」

「きっとそうです。あの人の洗脳に抵抗して、戦ってるんです」

「……なるほど。一理あるかもしれないわね」

「だったら今がチャンスってこと? 今ならハルっちにアタシ達の言葉が届くかもしれないってことだよね」

「かもしれないわね」

「よし、そうと決まったら……ハルっち! 聞こえてるでしょ! そんな奴の洗脳なんかに負けないで! 戻ってきてよ!」

「晴彦! あなたならそんな洗脳なんかに負けるはずないわ! 戻って来なさい!」

「日向君、お願い! 戻って来て!」


 必死に晴彦に対して呼びかける雫達。それを見た霞美は邪魔させまいと狐狼達を雫達にけしかけるが、それは奏に防がれる。


「お嬢様の邪魔はさせません」

「くっ……晴彦! 何してるの! 早くしなさい!」

「う、ぐ、あぁああああああっ!」


 苛立ちのままに叫ぶ霞美だが、晴彦は動き出すことはなく頭をおさえたまま苦しんでいる。


「ハルっち!」

「晴彦!」

「日向君!」


 晴彦に届くようにと必死に名前を呼ぶ雫達。一方、零音は動けない。はっきりと言ってしまえば戸惑っていた。今まさに目の前で晴彦が苦しみながらも洗脳を解こうとしている。晴彦に戻って来て欲しいという思いもある。しかし、晴彦が洗脳を解くということは、今まで零音が晴彦にしてきたことがバレるということでもある。そうなってしまった時に晴彦がどんな目で零音のことを見るか……それを想像するだけで零音の心は苦しくなった。

 そんな想いに挟まれて、少しの間逡巡していた零音だが、やがて決心する。


「ハル君、お願い……私がこんなことを言う資格も無いけど……戻ってきて!」

「零音っ!」

「ごめんなさい霞美……許されることじゃないってわかってる。でも。それでも私はやっぱりハル君にはハル君でいて欲しい」

「この、裏切り者が! 晴彦がお前のしたことを知ったら絶対に許したりしない! 晴彦から捨てられることになるんだぞ!」

「かもしれない……でも、それでもなの」


 晴彦に見捨てられる、想像するだけでも零音は胸が張り裂けそうだった。しかしそれすら零音は自分の自業自得だと思っている。全てを受け入れる覚悟を決めていた。


「だから……だからお願い、戻ってきて晴彦!!」





□■□■□□■□■□■□■□□■□■□


 その頃、晴彦も自分自身と戦っていた。

 神といた精神世界から自分の肉体へと戻された晴彦が目にしたのは、零音や雫達。そして霞美と見たことのない獣だった。全く状況が呑み込めないままに零音に声を掛けようとするが、体は思ったように動かない。それどころか、晴彦の発しようとした言葉とは全く違う言葉ばかり口にする。

 なんとかしようともがいていると、零音が晴彦に聞いて来る。「ハル君は、私のことをどう思ってる?」と。

 神の手によって晴彦は零音の真実を知った。抱える孤独を知った。苦しみの根源を目の当たりにした。

 そんな零音に対して、今の晴彦が持っている想いは様々だった。それを口にしようとしても体も口も思ったようには動かない。それどころか、零音に対して告白の言葉を口にしようとする。


(ふざけるな! 俺じゃない俺が零音に告白しようとしてんじゃねーぞ!)


 頭に血が上った瞬間、晴彦は自分の体に纏わりついていた何かの一部を引きちぎったような感覚に襲われる。するとどうだろうか、それまで動けなかった体の主導権を少しだけ取り戻す。

 それでもまだ完全ではなかった。まだ体は思い通りには動けない。

 そんな晴彦に届けと言わんばかりに雫が、雪が、めぐみが……そして零音が晴彦に言葉をかけてくれる。

 それが晴彦の心に大きな力を与えてくれる。


(俺の体を……返しやがれ!!)


 最後の力を振り絞った晴彦。

 自分を縛っていた何かが壊れる感覚と共に、体の自由を取り戻す。


「あぁあああああああっ!」

「ハル……君?」

「れい……ね……」

「ハル君……なの?」

「……あぁ、たぶん……だけどな」


 そして晴彦は霞美の洗脳を振りほどき、元の世界へと帰って来たのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月3日21時を予定しています。

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