第9話 生徒会長再び
サブタイトルって難しいですよね。実は一番悩むところだったりします。おかげでなんか味気ないサブタイトルなちゃなってますが……これも学んで直していきたいですね。
とある日の放課後のこと。
日直だった俺は先生に出す日誌を書くために教室に残っていた。
零音は用事があるらしく先に帰り、雪さんは今日は気付けばいなくなっていた。友澤も軽音部の部活があるとかで行ってしまった。
「ふぅ、これでよしと。そういえば学校で一人になるのって久しぶりかも」
高校生になってからは特に一人になる機会が減ったかもしれない。朝は零音と一緒だし、学校に来たら雪さんや友澤がそばにいる。中学の時は俺が零音といることに嫉妬する奴も多くて男子で仲良くできた奴はほとんどいなかったし、女子達の中には俺が声を掛けると顔を青くして逃げる奴までいたしなー。なんでなんだろうか。零音がいなかったら本格的に引きこもってたかもしれん。
「まぁいいか。さっさと行こう」
もう教室には誰も残っていない。思ったより集中して書いてたみたいだ。
もうかれこれ入学してから二週間近くなるわけだけど、まだこの学園の広さには慣れない。
さすがに職員室に行くのに迷いはしないけど。
学園にいたらあの夜野とかいう人も普通に見つかるかと思ってたけどさすがに簡単に見つからないか。どっかにはいると思うんだけどなぁ。この間出てきた選択肢みたいなのものがなんなのかも知りたいし。
なんて考えている間に職員室にたどり着いた。
「太田先生、日誌もってきました」
「おぉ、日向か。机に置いといてくれ」
「わかりました。っていうか先生机の上汚いですね」
机の上には書類が散乱していて、どこに置けばいいのかわからないレベルだった。
「いやーすまんな。どうにも片付けるのが苦手で。これでもまだマシなんだが」
「これでマシって。普段どうなってるんですか」
「まぁまぁ、また片付けておくから今は気にするな」
「はぁ、そうですか」
俺も片付けるのが得意とは言えないが、ここまでひどくはない。普段ちゃんとしてる先生がまさか片付けるのが苦手な人だとは思わなかった。
「それじゃあ、これで失礼します」
「おう、気を付けて帰れよ」
さてさて、これで俺の用事は終わったわけだけど、このまま素直に帰るかどうするか。まだ時間はあるしなぁ。といっても、行きたい場所があるかと聞かれるとないんだけどさ。
「あれ、日向君じゃない」
「え?」
声の方向を見てみると、そこにいたのは生徒会長の昼ヶ谷先輩だった。
「昼ヶ谷先輩!」
「えぇ、私の名前覚えていてくれたのね」
「いや、自分の学校の生徒会長の名前を忘れはしないですよ」
すごく綺麗な人だし。一度見たらなかなか忘れないだろう。というか、友澤が言ってたことだけどウチの学校は女子のレベルが高いらしい。
その中でも昼ヶ谷先輩は男子の人気ランキングで一位なんだとか。
「昼ヶ谷先輩も俺の名前覚えててくれたんですね」
「そりゃそうよ。一度会った人の名前は忘れないわ」
「それってすごくないですか」
「こんなものは慣れよ。誰にでもできるわ」
そんなことはないと思う。俺なんてまだちょっと名前覚えきれてないクラスメイトとかいるし。
「それより、日向君は職員室に何か用事があったんじゃないの?」
「あ、いえ。もう終わりました。日直だったんで日誌を持って来たんです」
「あら、そうだったの」
「昼ヶ谷さんは?」
「生徒会の用事でね。資料を貰いにきたんだけど……日向君はこの後暇かしら?」
「え、はい。特に予定はないですけど」
「そう。ならもしよかったら。生徒会室まで資料を運ぶの手伝ってくれないかしら。」
「それぐらいなら全然いいですよ」
「悪いわね」
昼ヶ谷先輩が受け取った資料はとても多くて、確かに一人で運ぶにはしんどい量だった。
生徒会室に行ってそのまま帰ろうとしたのだけど、お礼がしたいからと止められて結局そのまま生徒会室にいることになった。
「重かったでしょう? ごめんなさいね」
昼ヶ谷先輩が紅茶とお菓子を俺に出してくれる。すごくいい匂いだ。
「大丈夫ですよ。それよりも、他の役員の方はいらっしゃらないんですか? あんなに量があるなら手伝ってもらえばよかったのに」
前回来た時も見なかった気がする。まぁ確か前回の時は巡回に行ってるとか言ってたけど。
「他の役員はみんな帰ったわね。そもそも今日は集まる予定もなかったし」
「そうなんですか?」
「この資料も私が次の会議に向けて調べておきたいことがあったから出したものだし。さすがにこの量は予想以上だったけれど」
「へぇ、真面目なんですね」
「え?」
「あ、いや別に昼ヶ谷先輩が不真面目だと思ってたとかじゃなくて、その……」
「ふふっ、大丈夫よ。わかってるわ」
「すいません」
「それに私は別に真面目なわけじゃないわ。早めにできることならすぐに終わらせておきたいだけよ」
「いや、それもなかなかできることじゃないと思いますけど」
少なくとも俺にはできない。夏休みの宿題とかもなかなかできない。いつも零音に怒られてやるんだけどさ。
「意識の問題よ。今やるか後にやるか、どちらの方がメリットが大きいかを考えるだけ。今回は今やった方がいいと思ったの」
「そういうものなんですね」
「いい、日向君。目的の為にできることは全てしておくべきなの。何が必要かを考えて、打てる手は打っておく。それが望みを叶える一番の近道になるの」
語る昼ヶ谷先輩の顔はすごく真剣で、ここではないどこかを見ているようだった。
「す、すごいですね。俺にはそこまで考えるの難しそうですけど」
「あら、ごめんなさい。変なこと言っちゃったわね」
「そんなことないですよ。すごく参考になりました」
「ならいいんだけど」
「いつも資料一人で運んだりしてるんですか?」
「そうね。役員達は他の仕事があったりするし、私は一人で仕事してることは多いわ」
「でも、資料を運ぶのくらい友達に手伝ってもらったらいいじゃないですか」
俺としてはなんとなく言った言葉だったのだが、その言葉を聞いた昼ヶ谷先輩の様子が変わる。
「と、友達……ね」
「どうかしました?」
「いえ、なんでもないの」
「あの、もしかして先輩友達がいな——」
「いるわよ! 友達ぐらいいるわ。えぇもう多すぎて困るくらいよ」
いない。もしかしなくても、昼ヶ谷先輩友達いないのか。
まずい、まさか友達がいないなんて思ってなかったからなんて言えばいいのかわからない。
「そ、そうですよね。昼ヶ谷先輩に友達がいないなんてことあるわけないですよね」
「当たり前でしょう。私は生徒会長なのだから」
生徒会長であることと友達がいることは関係ない気がするんだけど。
「それにもう何だったら、俺だって友達みたいなものですよね!」
「え?」
「え?」
まずい、さすがにこれは調子に乗りすぎた。先輩と友達なんていうのはまずかったかもしれない。
「すいません、俺と先輩が友達がなんていうのは失礼でした」
「……ほんとかしら」
「え?」
「日向君。あなた、本当に私と友達になってくれるの?」
先輩に真っすぐ目を見られて逸らせない。その表情はさっきと同じくらい真剣で答えをはぐらかすことは許さないと言われているようだった。
「そりゃ、俺なんかでよければ友達になります……けど」
「言ったわよ。後からやっぱり無しとかいうのはダメよ。もう録音もしたから」
「いつの間に録音なんかしてるんですか! というか、そんなことしなくても嘘じゃないですよ。でも先輩こそいいんですか?」
「もちろんよ。嬉しいわ、日向君」
先輩に向けられる笑顔に思わず胸がドキッとする。美人の笑顔は心臓に悪い。
「それじゃあ私と日向君はこれで友達同士というわけね」
「そうなりますね」
「それじゃあ連絡先を交換しましょう」
「うえぇ!」
「友達なら知っておくべきでしょう?」
それはいいんだけど。どうしよう。友澤あたりに知られたらすごく面倒なことになりそうな気がする。うーん、まぁ大丈夫か。
バレることはないだろうと思い連絡先を交換する。
「ふふ、これでいつでも連絡ができるわね」
ここまで嬉しそうだとなんていうか、こっちまで嬉しくなるな。って、そういえばこの生徒会室には資料を運びに来ただけだった。
資料をまとめると言っていたし、あんまり長いするべきじゃないだろう。
「すいません先輩。あんまり長いしても迷惑ですし、俺これで失礼しますね」
「あら、結構時間が経っていたのね。気付かなかったわ。こちらこそごめんなさい。ひきとめちゃったみたいで」
「いえそんな。お役に立ててよかったです」
「前にも言ったことだけど、いつでも生徒会室にいらっしゃい。私は基本的にここにいるから。友達なのだし、遠慮しなくてもいいわよ」
「わかりました。何かあったら頼らせてもらいますね。それじゃ、失礼します」
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「それじゃ、失礼します」
そう言って彼は部屋を出ていった。しばらくの後、足音が遠のいたのを確認したボクは椅子にもたれながらため息を吐いた。
「ふぅ、さすがに疲れましたね」
一応は想定内に物事が進んだと言える。
ゲーム内の『昼ヶ谷雫』は友達がいないということをきっかけに晴彦と関係を深めていく。今日のこのイベントは起こるべくして起きたことだ。それでも本格的に晴彦と関わる最初のイベントであるわけだし、緊張したけれど。
晴彦がどのタイミングで職員室に来るかわからなかったので結構待つことになってしまったのが計算外といえば計算外だ。
「まぁ、友達がいないのは本当のことなんですがね。今の世界でも、元の世界でも」
慕ってくれる人はいる。でもそれだけだ。ボクと対等であろうとする人はいなかった。この世界にきてもそれは変わらないらしい。いや、違うか。同じだったからボクは『昼ヶ谷雫』が好きになったんだ。家に縛られて友達がいない。作れない。そんな彼女にボクは共感した。
まぁそれはそれとして。これでボクも本格的に参戦できるというもの。ゲーム外の部分で一番関わりやすいのが幼なじみの朝道零音。次点で同じクラスの夕森雪。学年の違うボクは晴彦がボクに繋がる選択をしなかったらそもそも関われない。
晴彦がボクの所に来るようにするために、打てる手は全て打っておくべきなのだ。それが目的の一番の近道になる。
「さぁ、ここからが本番ですよ」
今回は生徒会長のターンでした!
生徒会長だけ学年が違うと出しづらいというか、出番少なくなりがちなので、なんとか増やしていきたいですね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。また次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月16日9時を予定しています。