第138話 零音とめぐみ
久しぶりに主人公達を出した気がするのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
零音とめぐみは揃って屋上へとやってきていた。
雨咲学園の校舎の屋上は普段から解放されていて、昼休みには多くの生徒達の憩いの場となっていた。もちろん、落下防止のためのフェンスはしっかりと設置されているのだが。
いつもは賑やかなその場所も、今は零音とめぐみの二人しかいない。晴彦は教室に残っていた。
そして、二人の間に流れる空気はけして優しいものではなかった。
「何の用かな」
めぐみに問いかける零音の瞳はどこまでも冷たかった。まるでめぐみと話すことを拒否しているかの様に。
「この間の……月曜日のこと覚えてる?」
もちろんめぐみもそのことには気づいていた。いつものめぐみであったならば、零音から冷たい目で見られるだけで動揺し、何も話せなくなっていただろう。しかし、今のめぐみは違った。零音に冷たい目で見られて感じたことは恐れでも戸惑いでもなく、寂しさと悲しさ。
零音から拒絶に近い感情を向けられたことに対するものではない。零音がそんな感情を持ってしまったことに対する寂しさと悲しみだった。
「月曜日……あぁ、うん。覚えてるよ。それがどうかしたの?」
「その時の答えを……言いに来たの」
「…………」
「…………」
零音とめぐみの視線がぶつかり合う。零音はめぐみの考えを読もうとするように、めぐみは自分の想いを伝わるように、お互いに目を逸らさない。
少しの沈黙の後、先に目を逸らしたのは零音だった。
「……そう。でもそれはもういいかな。話ってそれだけかな。だったら私教室に戻るね」
そのまま踵を返し、屋上から立ち去ろうとする零音。
「私は、日向君のことが好き」
しかし、めぐみのその一言に足を止める。
「それが井上さんの答えなの?」
「ううん。違うよ」
「? どういうこと?」
「日向君のことが好き。でも私は朝道さんのことも好き。だから、私の答えは……どっちも、だよ」
「何を言ってるの?」
零音の言葉にわずかに苛立ちが混じる。晴彦の事を好きだと言ったかと思えば、今度は零音のことが好きだと言う。零音にはめぐみが理解できなかった。
「私が言ったのは、私と友達を続けるか、それともハル君のことを好きな気持ちを通して私の敵になるのかの二択だけ。どっちもなんて選択肢はないよ」
「どうして?」
「どうしてって……そんなの決まってる。私は私からハル君のことを奪おうとする人と友達にはならない。なれるわけない」
「私はそうは思わないよ。日向君のことを好きな気持ちを持ったままでも、朝道さん友達でいることはできると思ってる。私ね、決めたの……何も諦めないって。どっちも捨てないんだって」
たとえ愚かだと言われようともそれがめぐみの選んだ答えだ。そしてそれは、零音と対極の答えでもあった。
めぐみは捨てないという答えを出すことで再び立ち上がる強さを得た。零音は切り捨てることで想いを貫く強さを得た。
零音はそんなめぐみの言葉を聞いて、より一層苛立ちを募らせる。それまではなんとか平静を保てていた心に波紋が生じる。それはやがて大きなうねりとなり、零音の心をかき乱した。
「ふざけないで! 何かと思って聞いてたらそんな都合のいい話あるわけない! わかってないようだから教えてあげる。いい? 選べない人は失うだけなの! 失って苦しむだけ。だから何か一つを選んで、他を捨てなきゃダメなの! より大事な方を選んで、そうしないと全部失うの!」
零音の脳裏をよぎるのは夢に出てきた光景。零音が中途半端な決断をしてしまったから、零音は親友を失った。もしあの時親友への想いだけに準じることができていたならば親友を失うことはなかったと、今でも零音はそう思っている。
「都合のいい話を望んで何が悪いの?」
「……は?」
「都合のいい話だって、確かにそうだよ。他の人が聞いたって朝道さんみたいにバカにされるかもしれない……でも、望まなかったら可能性だってゼロになっちゃうんだよ。たとえどんなに可能性が低かったって、諦めなかったら可能性はなくならない!」
今まで出したことのないような声で叫ぶめぐみ。それがどんなに無謀なものだったとしてもめぐみは諦めたくなかった。
「朝道さんの勝手な理屈を私に押し付けないで!」
「っ!?」
めぐみに言い返されると思ってなかった零音は思わず面食らう。
それと同時にめぐみの強い意志を零音は感じていた。
「どうして……」
「?」
零音の心にドロドロとした感情が湧いて来る。夢を見た影響か、めぐみの意志にあてられてか……はたまたその両方か。
「どうして……あなたが私の前に立つのよ!!」
そう叫んだ零音の瞳には、憎悪の感情が込められていた。
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そこは暗い空間だった。
そこに晴彦はポツンと一人でいた。
あたりの全ては暗く、周囲には明かりになるようなものはないのに自分の姿だけははっきりと見えていた。
「あぁくそ! なんなんだよここは!」
四方八方を塞がれているのか、ある程度進むと壁のようなものに当たって進めなくなる。
そんなわけのわからない空間に晴彦はずっといた。
「もうどんくらい時間経ったんだ? なんでか腹も減らないし、トイレも行きたくならないからまだマシだけどさ。でもいい加減気が狂いそうな気がする」
はぁとため息を吐き、座り込む晴彦。
この場所にいる時間は一時間のようにも、一日のようにも、さらに長いようにも感じられる。
「なんとかここから出ないと……」
焦燥感ばかりが晴彦の中に募るが状況が好転する気配もない……と思っていたその瞬間だった。
晴彦の正面、何もなかったはずの空間に突如として扉が現れ、ゆっくりと開かれる。
その扉の先から現れたのは一人の少年だった。扉が現れたことと、見知らぬ少年が現れたことの両方に晴彦は驚く。
「日向……晴彦か?」
「な、なんで知ってるんだよ」
「今はどうでもいいだろう。単刀直入に聞く。ここから出たいか?」
「そりゃここから出れるなら」
「ならついてこい」
そう言って少年は歩いていってしまう。晴彦は慌ててその少年の後を追いかける。
「おい待てよ! っていうか、お前誰だよ」
「そういえば言ってなかったか。俺は冬也だ。宇崎冬也。冬也でいい」
突如現れた少年はそう名乗った。
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次回投稿は2月14日21時を予定しています。