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第136話 雫達の戦い 後編

思いつかない時は無理に書かずに、別のことをした方が気分転換になって良いということに気付きました。気分転換って大事ですね。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 それは雫と奏の昔の話。

 ゲーム趣味を公には隠している雫にとって、数少ないゲームを一緒にしてくれる相手というのが奏だった。


「ちょっ、なんで今の空後が読めるのよ!」

「ふふ、お嬢様の動きは読みやすいですから」

「くぅ……もう一回、もう一回よ!」


 『貝乱闘対戦』で全戦全敗を喫した雫が悔しさを滲ませながら奏にせがむ。


「もうダメです。これ以上仕事をサボったら旦那様に怒られてしまいますから」

「あなたの主は私でしょう」

「えぇ、ですが雇い主は旦那様ですので」

「むぅ……勝ち逃げなんて卑怯よ」

「このまま続けてもお嬢様に負けるとは思いませんが」

「何よそれ」

「私は誰よりもお嬢様のことを理解しておりますので」

「それじゃあ私一生勝てないじゃない」

「そんなことはありませんよ」

「?」

「私がお嬢様のことを理解してるように、お嬢様が私のことを理解すればよいのです」

「私が奏のことを?」

「お嬢様もいずれ昼ヶ谷の者として人の上に立つのですから。私程度の人間のことは理解していただかないと困ります。それとも、お嬢様には難しいですか?」

「む、できるわよ! やればいいんでしょ! 今に見てなさい。奏の考えなんてすぐに全部読めるようになってやるわ」

「ふふ、いつかそんな日が来ることを楽しみにしてますね」

 

 ふてくされる雫のことを奏は微笑ましそうに見つめていた。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 

 奏の攻めに防戦一方の雫達。すでに花音達は倒れ、残るは雫一人となっていた。状況を打開しようと雫がなんとか隙を作りだそうとしてもあっという間に看破されて潰されてしまう。


「お嬢様の考えは筒抜けですよ」


 挑発するように雫のことを見る奏。悔し気に奏のことを睨んだところで状況は変わらない。少しづつ取れる手段が減っていくなかで雫は少しずつ焦り出していた。


「昔言ったはずですよ。お嬢様のことを一番理解しているのは私だと。そんな私にお嬢様が勝てる道理などないんです」

「くっ」

「残念です。もう少し強くなっているかと思ったんですが。これ以上は無駄ですね。もう終わらせることにしましょう」


 勝負を終わらせるべく、雫に一気に詰め寄る奏。いよいよ捕まるかと思われたその瞬間、その間に割って入る人影が一つ。


「いくら奏さんでも、これ以上お姉さまのことを好きにはさせません!」

「っ!」


 予想外の乱入にとっさに後ろに下がる奏。割って入って来たのは奏が倒しておいたはずの花音だった。


「おかしいですね。しばらくは動けないようにしておいたはずなのですが。技の入りが甘かったでしょうか」

「そんなことないですよ。今だって足はフラフラしますし、できるならこの場に倒れ込みたいくらいです」


 花音の言った言葉は嘘でもなんでもなく、今の花音は立っているだけでもやっとといった様子だった。しかし、それでも雫を助けるために起き上がってきた花音の根性に奏は呆れたように笑うしかない。


「確かにもう一撃でも入れたらすぐに倒れそうな雰囲気ですが……どうしてそこまでお嬢様を守ろうとするんです? そこまでする理由などないでしょう?」

「あります!」


 強く断言する花音。震え、崩れ落ちようとする体を支えるもの、立ち上がる勇気をくれるものの正体を。


「愛です!!」

「愛?」


 思いもよらぬ花音の返答に目を丸くする奏。しかしすぐに笑い始める。


「ふふふ、よかったですねお嬢様。愛されてるじゃないですか」

「花音、無茶よ。逃げなさい!」

「嫌です!」


 初めて雫の言うことに逆らった花音。たとえ誰に何を言われようとも、花音は雫の前に立ち続けただろう。それほどの想いが、花音のことを奮い立たせていた。


「素晴らしい想いです。しかし……だからなんだと言うんです。想いだけで勝てるほど、この世の中は甘くないんです」


 笑顔から一転、表情を消した奏は花音に詰め寄り再び倒れさせんと無防備だったわき腹に一撃を加えようとする奏。しかし、満身創痍だったはずの花音に攻撃を防がれる。


「おや、今のを防ぎますか。予想外です」

「私だってただやられたわけじゃありませんから」

「いい対応力です。中等部の生徒会長をやっているだけのことはありますね。しかし……」

「きゃあっ!」

「対応するのが少し遅かったですね。どうです。まだ立ち上がりますか」

「あたり……まえ……です!」


 容赦なく蹴り飛ばされた花音だったが、それでもなお立ち上がろうと踏ん張る。

 しかし、体は花音の思った通りに動きはしない。


「はぁ……もういいでしょう。しばらく寝ていてくださ——っ!」


 花音に止めの一撃を入れようとした奏。しかしその直前に背後から気配を感じてバッと飛び退く。


「花音に……なにしてくれてんのよ」

「あなたもですか。どうやら私はあなた達のことを見くびり過ぎたようですね。私もまだまだです」


 立ち上がった弥美の姿を見てため息を吐く奏。苦し気な様子だが、それでもしっかりと立ち上がり、服の中に持っていた催涙弾を奏に投げる弥美。


「花音が立ってるのに、副会長の私が無様に寝てるわけにはいかないでしょ。花音を支えるのが私の仕事なんだから」

「それもまた素晴らしい想いですね。あなた達が良い関係であるのが伺えます。ですがそれでどうするのですか。満身創痍の二人と、無傷の私。勝てるような作戦でもあるのですか?」


 そうしている間に再び立ち上がる花音。奏は花音と弥美に挟まれる形になる。しかし、奏に焦る様子はまったくない。


「作戦なんて」

「いりません!」


 一気呵成、短期決戦しか勝機はないと飛び掛かる花音と弥美。まさしく最後の力を振り絞って戦いを仕掛ける二人の姿を雫はただ見ているしかなかった。


「どうして……」


 雫から見てもわかる。奏と二人の間にある絶望的な力の差が。それでも二人は息のあったコンビネーションで奏に立ち向かう。

 それは花音と弥美が互いのことをよく理解しているからこそできる芸当だった。それが、奏と二人の間にある力の差をカバーしていた。

 花音が奏に向かって拳を放てば、弥美が奏の足元をはらう。


「良い攻撃です。お互いのことをよく理解しあっている。お嬢様とは大違いですね」


 しかし、そんな二人の攻撃すら淡々と捌く奏。その途中にただ立ち尽くしている雫に向かってチラリと視線を送る。まるでなにかを試すかのように。

 その視線に、雫は奇妙な違和感を覚える。


(今どうしてボクのことを……何か、何かがおかしい気がする)


「お嬢様が私のことすら理解してみせると言ったのは嘘でしたか」


 その一言に頭が沸騰しそうになった雫だったが、その前にあることに気付く。


(いや待って……そうだ。そもそもおかしいじゃないか。奏の力を考えたら、ボク達はもう全滅しててもおかしくない)


 気付いた瞬間、雫の中に浮かぶ一つの答え。この状況を打開するための方法。

 迷っている時間は無いと、雫は自身の心を奮い立たせて奏の前に立つ。


「お姉さま?」

「花音、弥美……下がっていなさい」

「今度はお嬢様ですか。いいですよ。いい加減終わらせましょう」


 向かい合う二人。雫はただジッと奏のことを見つめる。


「大丈夫ですよ。すぐに終わりますから——ふっ!」

「お姉さまっ!」

「会長っ!」


 悲鳴に近い声を上げる花音と弥美。そして飛び掛かってきた奏に対して雫は——


「っ!?」


 何もしなかった。防御の姿勢をとることもなく、避ける素振りすら見せず、ただ立っているだけ。だというのに、奏の拳は雫に当たる直前で止まった。


「……やっぱり、そういうことなのね」

「……ようやく気付きましたか」

「ど、どういうことですか?」

「単純な話だったの。奏は……洗脳なんかされてない」

「えぇ!?」


 それこそが雫の出した答え。霞美に洗脳されているという考え自体が間違っているのではということ。


「じゃあなんで私達に攻撃してくるんですか!」

「それはおそらく……私ね、奏」

「ご名答です。これは私からお嬢様に対する試験でもありましたから。お嬢様が私のことを……他の人のことをどれだけ理解しているかということを測るための。もしダメなようでしたら本当に捕まえてしまうつもりでしたよ」


 しかし、雫は最後の最後で答えを出し、奏のことを信じた。他人のことを理解し、信じるということ……それは雫に足りなかったことの一つだ。


「まぁ赤点ギリギリの及第点といったところでしょうか」

「本当にダメかと思ったじゃない」

「ふふ、私はお嬢様ならできると信じていましたよ」

「本当に?」

「えぇ、前に言ったじゃないですか。お嬢様のことは誰よりも理解しております、と」


 そう言って奏は優しく笑い、雫は若干照れくさそうな顔をした。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は2月11日21時を予定しています。

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