第130話 終焉の金曜日 3
一時間で書ける日もあれば、半日使っても書けない日がある……不思議なのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
学園の近くに雫達の姿があった。
「ここまで何もありませんでしたね」
「追手か何かあるかもしれないと思っていたのだけれど」
「きっとお姉さまの威光に恐れ慄いてるんですよ!」
「ふふ、そうだといいんだけどね」
花音の家を出てから霞美の追手を警戒しながらやってきた雫達だったが、その道中は穏やかなもので、だからこそ雫は警戒心を高めていた。
「このまま何もなく学園に行けたらいいんだけどね」
「あれ、昼ヶ谷先輩じゃないですか」
そんな雫達の前に現れたのは雪だった。学園まで走って来たのか、制服は着ておらず代わりに運動着を着ていた。さすがに家から学園までは距離があったのか、少しだけ息が上がっていた。
「夕森さん。来たのね」
「えぇ、昨日はちょっと休んじゃいましたけど。ちょっと物申してやりたい奴らがいまして」
「奇遇ね。私も同じよ」
そんな雪の様子をみて、心配する必要はなかったかと安堵する雫。その時だった。
突如として町内放送の音が鳴る。
『ピンポンパンポーンってね、聞こえてるかなー』
突如ととして聞こえてきた霞美の声に雫達は思わず周囲を警戒する。霞美と直接会ったことのない雪も、そんな雫達の様子に何かを感じ、警戒を始める。
『うんうん、聞こえてるみたいだねー。よかったよ』
どこからかそんな雫達の様子を見ているらしい霞美。しかし雫がどれほど周囲に目を凝らしても見つけることはできない。
「いったいどこから……」
『あはは、警戒しても無駄だよー。私その近くにはいないし。もっとも、もう近づくこともないだろうけどさ』
声の調子から、ニヤニヤと笑っているであろうことがわかる霞美の様子に、雫は嫌な予感を覚える。
『なんでいきなりこんな放送してると思う? まぁわかんないだろうけどさ。答えはね、君達を捕まえるため。昨日は逃げられちゃったからさ……わかる? 私にも面子があるの。やられたならやり返す。絶対にね』
「それとこの町内放送を使うことになにか意味があるのかしら」
『もちろんだよー。さぁ、出てきてみんなー』
霞美がそういうと、雫達の周囲の家から人がぞろぞろと出てくる。どの人も一様に目の焦点が合っておらず、フラフラと歩いている。
『これが君達を捕まえるために用意した人員だよー。久しぶりに本気だしちゃった。雪もいるみたいだしちょうどいいよね』
これが霞美が雫を捕まえるために用意した人員。学園から半径200mにいる人たちを全員洗脳するという荒業。質を上げるよりも数を霞美は選んだのだ。恐るべきはそれを可能にする霞美の力。雫達の視界を埋めつくような人の山。その全てが捕まえるためにやってきているのだ。
『どうかな。このプレゼント、気に入ってくれた?』
「最高よ、このくそったれ」
『んふふ、ありがとう』
さすがに冷や汗を流す雫。霞美を舐めていたわけではないが、ここまでできるとは想像していなかった。しかし、想定していなかったわけではない。
「弥美、やりなさい」
「わかりました。えいっ!」
雫から言葉で、弥美は懐にしまっていた小型の煙幕爆弾を取り出して地面に叩きつける。
爆弾が地面に着いた瞬間、大きな煙がおこり雫達の姿を隠す。煙が晴れる頃には雫達の姿は消えていた。
『逃げたか……まぁでもこの人の数から逃げきれるかな? さぁみんな。捕まえるんだよ!』
霞美の号令と共に洗脳された人々は走り出す。
『さぁ学園に来れるかな? 誰も来させるつもりはないけどね』
こうして雫、雪と霞美の町を使った鬼ごっこの幕が開けた。
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誰も学園に来させるつもりは無いと霞美が宣言したちょうどその頃、めぐみは——
「思ったよりも早く着いちゃったかも」
教室にいた。
零音と話をするのだと気合いを入れて家を出ためぐみ。しかし時間を考えていなかった。そのため、いつもよりもずっと早くめぐみは教室にやってきてしまったのだ。
そしてこれは霞美の油断した結果である。霞美が警戒しているのは雫と雪の二人だけ。それ以外の人間、モブのことなど霞美は気にも留めていなかった。
「この時間ってまだ誰も来てないんだなぁ」
ここまでくる道中、誰にもすれ違わなかっためぐみ。それが霞美のせいであるということなど全く知らないめぐみは朝の誰もいない教室に不思議な雰囲気を感じてしまう。
いつもは喧騒に満ちている教室にいるのはめぐみ一人、満ちるのは奇妙な静けさ。それをめぐみは嵐の前の静けさのようだと思った。
めぐみ自身もわかっていた。これからしようとしている話し合いが穏やかには終わらないであろうことが。
それでもめぐみは自分の想いを貫くと決めたのだ。
ざわめく自分の心を落ち着けるようにめぐみは持ってきた本を手にしようとして、止める。いままでめぐみは何か緊張するようなことがある時には本を読んだりすることで気持ちを落ち着けていた。本の中の登場人物を真似ることで、めぐみに勇気を与えてくれたからだ。
しかし、今日だけはそれに頼るわけにはいかない。たとえ勇気がでなくても伝えなければならないのはめぐみ自身の言葉だからだ。
「……ふぅ」
体に緊張が満ちるのを感じながらめぐみは零音が来るのを待つ。
それからしばらく、めぐみの体感では果てしなく長い時間の後、教室の扉が開く。
入ってきたその人は、零音はめぐみの姿を見て驚きを隠せない。
「井上……さん……」
心臓が早鐘を打つ中、めぐみは努めて冷静を装い、口を開く。
「おはよう、朝道さん」
金曜日の朝の教室、お互いに様々な想いを抱えながらめぐみと零音は対峙した。
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次回投稿は2月3日21時を予定しています。