第129話 終焉の金曜日2
寒くて布団を被りながら書いてたら、気付けば寝ているという……布団の魔力ですね。恐ろしいです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです!
「~~~♪」
朝、零音は鼻歌を歌いながらお弁当の用意をしていた。
今までにないほど上機嫌な零音。そこにやって来たのは霞美だ。音もなく突然現れた霞美だったが、零音は驚きもしない。
「鼻歌なんて歌っちゃってご機嫌だね」
「あぁ霞美。どうしたの?」
「どうしたのっていうか……驚かないんだ」
「もう慣れちゃったし」
「そっかぁ慣れちゃったかぁ。やり過ぎもよくないってことだね」
「そうね。驚かせたいならほどほどにしないと」
「今度からはもっと別の方法にするよ」
「別に驚かせてほしいとは言ってないけどね」
「それは残念」
「それで、なんの用なの?」
「んー、まぁ朝ごはんをもらいに来たよって言うのと、お知らせかなぁ」
「朝ごはんはいつものこととして…・・お知らせってなに?」
「ちょっとねー。下僕達が情けなかったせいで逃げられちゃったんだよね。雫に」
「そうなの?」
「そうなのって……ずいぶん軽いね」
「あなたがそうやって言って来るってことはもう何か対処したんでしょ?」
「なんでそう思うの?」
「だって霞美、あなたは自分の失敗を隠すタイプでしょ。話すのはちゃんと対処できた時だけ。そう思ったんだけど、違った?」
「……あながち間違ってないのがムカつく。その通りだよ。逃げられたけど、もう対処はした。雫達が学園に来ても問題ないようにね」
「なら私が心配することなんて何もないかなって」
「それは信頼されてると思っていいのかな」
「信頼? ははは♪ おかしなこと言わないで。私があなたのこと信頼するわけないでしょ」
「ひどっ! まぁいいけどさ」
「あなたは何か目的があって私に手を貸している。私にも私の目的があってあなたの手を借りている」
「そうだね。それで聞きたいんだけどさ。決まったの? 晴彦と結ばれた後どうするか」
霞美からのその問いに一瞬だけ肩をピクリと揺らす零音。しかし次の瞬間には笑顔に戻って言う。
「もちろん。もう決まってるよ」
「そう。ならよかった。それじゃあ今日という日が上手くいきますように」
「いきますように」
そう言った霞美は零音から朝ごはんを受け取ると、現れた時と同じようにふっと姿を消すのだった。
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お弁当を作り終えた零音は、晴彦の事を起こしに行く。
今日はいつもと違い、自分の家ではなく晴彦の家でお弁当を作っていた零音。朝ごはんの用意だけでなく、洗濯も掃除も済ませている。
音を立てないように慎重に階段を上った零音は、そのままゆっくりと晴彦の部屋の扉を開ける。
中では零音の予想通り、晴彦がぐっすりと眠っていた。その枕元へと向かった零音は起こすわけではなくただただジッと零音の顔を眺める。
「ふふ、可愛い」
しばらく見つめていた零音が呟く。その声音には紛れもない愛情が満ちていた。
「ねぇ晴彦。私は晴彦のこと好きだよ。ずっとずっと昔から好き。でも私が馬鹿だったから、その想いから逃げて、怖がって……」
悔恨に満ちた表情。晴彦への想いを認められなかった自分への憤りと、一抹の寂しさを滲ませている。
「もしもっと早く気付けてたら……逃げてなかったら、こんなことにはならなかったのかな。もっと別の道が……ううん、今さらだよね」
たとえどれほど望んだとしても時間が巻き戻ることなどありはしない。それを誰でも知っていることで、零音はそのことを身に染みて感じたことがある。絶対に巻き戻らない時間に絶望した経験が。
「誰にも晴彦のことは渡さないよ。絶対に。今度こそ、私は離さないって決めたから。ずっとずっと傍にいるから……だから、だからね」
不意に零音の頬を伝って落ちる涙。しかし零音はそれに気づかない。
「私と一緒に……死んでくれるよね、晴彦」
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「うーん、あの様子だと零音はもう大丈夫かなー」
零音から朝ごはんを受けとった霞美は自身の家に戻っていた。
「零音は完全に壊れてたしねぇ……って、壊したのは私か」
たははと笑いながら自分で自分につっこむ霞美。
「さぁ零音。夢をちゃんと終わらせにいこう」
酷薄な笑みを浮かべて霞美は言う。
「その時君は満足するのかな、それとも後悔するのかな。でもそんなのはどっちでもいい。私が教えてあげる、最高で最悪なバットエンドをね」
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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2月2日21時を予定しています。