第8話 放課後デート 後編
ちょっとずつ書くのに慣れて気がする今日この頃。といってもまだまだなのですが。
ササっとかけるようになりたいものです。
「さぁ着いたよ! 夜ご飯にはまだ早いし、それまでどこかで遊ぼっか」
放課後になり、俺と夕森さんはショッピングモールへとやってきていた。学校から数駅の所にあるショッピングモールで、最近できたばかりで色々な施設も入っているから、休みの日は学生で溢れているらしい。
「どうしたのハルっち? 何か元気ないけど」
「いや、元気がないというか、もうすでに疲れてるというか……」
朝にあった出来事を俺は思い返していた。
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「ねぇ、ハルっち。今日の放課後にアタシとデートしない?」
「…………は?」
いきなりの言葉に頭が真っ白になる。
え、今なんて言った? デート? なんでいきなりそんな話が。
それほど大きな声ではなかったはずなのに夕森さんの言葉はクラス全体に広がっていたようで、先ほどまで以上のざわめきが生まれる。
「いやだから、デートだよデート! 今日の放課後暇?」
「それは暇だけど……いや、そうじゃなくて、なんでいきなりデートなんだよ!」
「ほら、この間のことがあるじゃん」
この間? この間ってもしかして入学式の日のことだろうか。確かあの日の帰りに夕森さんが……ってあぁ、そうだ! 今度また何か奢ってくれるとかいってたあれか!
もうほとんど忘れかけてた。
「思い出した? あんまり遅くなっても良くないし、今日行こうよ!」
「……ちょっと待ってもらっていい?」
それまで黙っていた零音が会話に入ってくる。いつもと同じような笑顔なんだけど……なんだろう、いつもよりも迫力を感じる。
「んー? どうかしたレイちゃん」
「ハル君は今日私の夜ご飯の買い物に付き合ってもらうことになってるの。だからちょっとデートは無理かなーって」
「え、俺そんなの聞いてな——」
「それに前のことはお互いに不注意だったわけだし。もう気にしなくてもいいよ。ね、ハル君?」
「まぁ、確かにその時のことはもう気にしてな——」
「そういうわけにはいかないかなぁ。これはアタシの気持ちの問題だし」
「いや、俺の話を——」
「それなら別にデートじゃなくてもいいんじゃない?」
ダメだ。俺の話を聞いてもらえない。二人の言いたいことはわかるけどもう少し俺の話を聞いてもらいたい。っていうか当事者って俺だよね?
俺の介入する余地のないままに二人の会話は進んで行く。しかし、話は平行線でなかなか決着もつきそうにない。そうこうしているうちに始業の時間は近づいてくる。
「あー、もう。こうなったらさ、ハルっちに決めてもらおうよ」
「そうだね」
それまで言い合っていた二人がこちらに視線を向ける。
え、まさかこの状況で俺が答えを決めないといけないのか。
なんて答えるか悩んでいると、また以前のように目に痛みが走る。そして、
『ここは夕森さんとデートに行こう』
『零音の夜ご飯の買い物に付き合おう』
『いや、俺は友澤と遊びに行きたい』
また選択肢が俺の前に現れる。
またこれか……というか、三つ目の友澤と遊びに行くってなんだよ。今の状況でそんなこと言えるわけないだろ。
さっきまでは騒がしかったクラスメイト達も、俺がなんと答えるのか気になるようで全員こちらに耳を傾けている。
なんて答えてもよくなさそうだけど……ここは、
「それじゃあ、夕森と遊びに行こうかな」
「よっしゃ!」
「なっ……」
「これで決まりだね! 放課後はアタシとデートだ!」
「いや、デートってのはやめて欲しいんだけど」
クラスメイトの目が刺さりまくってるから。あと、そこの女子はいったいどこに連絡してるんだ。
俺が夕森さんを選んだのにはもちろん理由がある。もし今回断っても、夕森さんが諦めないならまた同じことが起きるかもしれない。それはちょっと避けたい。俺のメンタル的な問題でも。
それでも夕森さんを選んだ結果なのか、好感度が『23』へと上がった。
「それじゃあ今日の放課後。楽しみにしといてよね!」
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そして放課後。
俺は夕森さんに連れられてここにやってきたわけだ。
友澤からはなんか嫉妬の視線を向けられるし、クラスの人たちからは夕森さんと何があったのかちょくちょく聞かれるし。どっと疲れてしまった。
「はぁ、疲れた」
「あー、ダメなんだよ。ため息ついたら幸せが逃げるって言うし」
「そうなんだけどさ。それで今日は何するの?」
「今日はぜひハルっちに食べさせてあげたいご飯があるんだけどさ。まだちょっと早いかなって」
確かにまだ時間的には五時にもなっていない。夜ご飯を食べるにしても六時過ぎくらいだろうから、まだ一時間以上は余裕がある。
「まぁせっかくショッピングモールに来たんだし、色々見てみよっか」
「そうだな」
「よし、それじゃあまずはあの店に突撃だー!」
走り出す夕森さんに連れられて最初に入った店は雑貨屋だった。
「ねぇねぇ、見てこれ。ちょっと可愛くない?」
「可愛い……というか、不気味な気がする」
「えー。そうかなー」
夕森さんの差し出してきたのは熊のキーホルダーだった。でも、頭だけか異様に大きかったり、腹の部分から何かはみ出していたりしている。俺には可愛いとは思えないんだけど、こういうのも可愛いというのだろうか。
「じゃあこれは? 『返り血ウサギ』のキーホルダー。アタシこれ結構好きなんだー」
「そ、そうなんだ」
確かにこれは可愛いと思う。ただし、手に鈍器を持っていなければ。ハンマーを持っていたり、メイスやトンファーなど様々なものを持ち、体はところどころに赤く塗ってある。顔が可愛いだけにものすごくギャップはあるかもしれない。俺はちょっと怖い。
「これアニメとかもやってるんだよ。家族を狼に食われたウサギが、復讐するために旅に出るの。そこで様々な鈍器や仲間と出会って力をつけてく物語なの」
「へぇ」
なにそれ怖い。そんな重い感じの話なのにこんな可愛い顔をしてるのか。
「子供番組なんだけどね」
「そんなの絶対見せちゃダメだろ!」
「アハハ、冗談だよ冗談。深夜アニメなんだけど結構人気なんだよ。今第三期やってるの。もし興味あるなら一期から見せてあげるよ」
「まぁ、また機会があったら」
「今年の映画化も決まってるし。見といて損ないと思うよ」
映画化まで決まってるのか。そんなに人気だと聞くとちょっと気になってしまう。また機会があったらホントに見てみようかな。
「よし、それじゃ次の店に行こう!」
そして、やって来たのはペットショップ。犬や猫や鳥など、様々な動物がいた。
俺の家は犬とか飼ってないから、こういう所に来ると飼いたくなってくる。自分一人で世話をできる自信がないけど。
ミニチュアダックスフンドやチワワなど様々な子犬やスコティッシュフォールドやマンチカンなど様々な子猫がいっぱいいて、いるだけで癒されるような気がする。
「おー、可愛いな」
「ホントだよー。アタシの家には犬がいるんだけどさ、もうずいぶん大きくなっちゃってさ。可愛いんだけど、子犬の頃が懐かしいなー」
「犬飼ってるんだ」
「うん、ゴールデンレトリバーなんだけどね。大きいし力も強いから散歩も大変なんだよねー」
「そうなんだ。俺は何も飼ってないから羨ましいな」
「大変なことも多いけどね。楽しいのは確かだよ。アタシ動物好きなんだ。自分に正直で、やりたいこと、言いたいことは全部言ってくれるからね。……人みたいに嘘だらけじゃないし」
「夕森さん?」
「どうかした?」
一瞬、夕森さんの雰囲気が変わったように感じたんだけど……気のせいかな。今はそんな感じしないし。
「いや、ごめん気のせいだったみたい」
「そう? ならいいけどさ。あ、みてみて。あっちにインコがいるみたいだよ!」
鳥のゾーンに行くと、これまた様々な種類がいた。鳥は全然詳しくないな。見たこともない名前の鳥がいっぱいいる。
「このインコ、アインって名前なんだって。喋ったりするのかな? こんにちは!」
『こんにちは!』
「喋った!」
「おぉ、ほんとだ! すごいな」
『こんにちは! こんにちは!』
「へぇ。喋ってるのみたの初めてだなー」
「俺も初めて見た」
「初体験ってやつだね。私の初体験はハルっちだったかー」
「……その言い方は良くない気がする」
「えー、なんでーどうしてー。アタシわかんなーい」
「その目は嘘だ! 絶対わかってるだろ!」
「ホントにわかんないなー。ハルっちは初体験って聞いて何を想像したのかなー?」
ニヤニヤと笑いながら夕森さんが言う。
嘘だ。絶対わかって言ってるだろ。
どう言ったものかと考えていると、さっきまでいた子犬や子猫のところが騒がしくなる。どうやら何かに向けて吠えてるみたいだけど……どうかしたんだろうか。
しかしちょうどいい。これで話題を逸らせる。
「何かあったのかな。ゲージに入れられてる犬まで吠えてるし」
「あー、あれは……うん、気にしなくてもいいんじゃないかな。っていうか、もうそろそろいい時間だね! そろそろ行こっか」
「え、あ、うん」
今の反応、夕森さんは何か知ってるんだろうか? まぁいいか。話題は逸らせたみたいだし。
ペットショップを出た俺達はいよいよご飯を食べに来たわけなんだけど……。
「ここなのか?」
「うん、ここだよ」
そこはカツ丼屋だった。なんていうか意外だ。もっと別のお店を想像してたんだけど。
「おじさん! 来たよー!」
入るなり夕森さんは大きな声で店主に声を掛ける。
「おう、来たね嬢ちゃん! 用意できてるよ」
「お、それじゃあさっそくお願いします!」
用意? 用意ってなんだろうか。
理解する間もないままに席に案内される。
「フフフ、楽しみだねー」
「あの、俺なんもわかってないんだけど」
「まぁまぁ、もうすぐ来るからさ」
と、話をしていると店主が料理を持ってくる。
「……は?」
「来たー!」
「待たせたね」
店主が持ってきたのは、いったい何人前あるのかわからないくらい大きなカツ丼だった。
「カップル限定カツ丼チャレンジ。時間内に食べきったら次回無料券をプレゼントだ」
カップル限定カツ丼チャレンジって、なんだそれは。いや、確かにカツはハートの形に並べられているけれど。
「どういうことだよ夕森さん」
「あははー、ゴメンね。アタシこれ見つけたときからどうしても食べてみたくてさ」
つまりあれか。俺はこれを食べるために利用されたということか。
「あ。でもでもお詫びの気持ちがあるのは嘘じゃないからね!
「いやまぁ、それはいいいんだけど……食べれるのか?」
どう見たって二人で食べる量じゃない気がするんだけど。
「それはまぁ、アタシに任せてよ」
キラリと目が輝いたと思った次の瞬間、ものすごい勢いで夕森さんが食べ始める。
みるみるうちにカツ丼が減っていく。
「ハルっちも食べないと無くなっちゃうよ?」
「あ、うん」
俺も負けじと食べ進めるが、それ以上の速さで夕森さんは食べていく。
あの体のどこにこの量が入るのだろうか。
周りにいた他のお客さんも夕森さんの食べっぷりに驚いている。
そして、
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした」
「美味しかったねー」
「うん、美味しかったけど」
完食できてしまった。カツ丼は美味しかったけど、それ以上に夕森さんの食べる姿が印象的だった。
「夕森さんってすごい手食べるんだな」
「うん。食べるの好きだし。いっぱい食べても太らないんだよねー」
どうやら夕森さんは食べ歩き好きなようで、いろんな店で大食いや早食いみたいなことをしているらしい。
「まぁ、あんまり体によくなさそうだからたまにしかしないけどね」
たまにでもできるだけすごいと思うけどな。
「よし、それじゃあ帰ろっか」
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カツ丼を食べ終えた俺達はショッピングモール出て駅へと向かっていた。
「うんうん、今日は楽しかったよ!」
「うん、俺も楽しかったかな。夕森さんの意外な一面を知れた感じがする」
「むー、ねぇねぇ」
「どうかした?」
「その夕森さんってのやめない? せっかくこうやってデートまでしたんだからさ。雪でいいよ?」
「いや、それはちょっと」
「なんでよー。ほら、リピーターアフターミー、雪」
「だからあの、夕森さんのことを名前で呼ぶのは」
「ゆ・き」
「……せめて雪さんで勘弁してください」
「んー。まぁいいでしょう!」
あー、恥ずかしい。でもまぁ、慣れていくしかないだろう。
「それじゃあアタシこっちだから。次にデートするときはハルっちから誘ってね」
「それはちょっと荷が重いです」
「意気地なしー」
「意気地なしで結構」
「アハハ、それじゃあまた明日ね!」
「おう、また明日」
こうして俺の大変だった一日は終わった。
でもまぁ、雪さんと少しは仲良くなれたかな。だったらあんまり悪くない一日だったかもしれない。
でも明日になったらまた友澤が騒ぐだろうか。
そんなことを考えながら、俺は家に帰った。
雪ちゃんデート後半戦。
ちなみに雪ちゃんは食べても太らないというより、食べたら胸に栄養がいくとかそんな感じの子です
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。また次回もよろしくお願いします!
次回投稿は8月15日9時を予定しています。