第128話 終焉の金曜日1
さぁいよいよ最後の一日の始まりです。気合い入れて書きあげていくのです!
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
金曜日の朝。空は分厚い雲に覆われていた。晴れ間の見える隙間すらなく、またいつ雨が降り出してもおかしくない様子だ。
そんな中を朝早くから走る人影が一つ。雪である。
自分の体と心に気合を入れ直すように、いつもより長い距離をいつもより早いペースで走る雪。家の前に戻ってきた時にはヘトヘトで、荒い呼吸を整えるように数度深呼吸を繰り返す。手に付けていた時計を確認して、ふっと表情を緩める。
「なんだ、オレまだまだ走れんじゃねぇか」
いつも走っている時でさえ自分の限界を意識して走っているつもりだった。しかし、その限界を無視して走ってみれば結果はどうだ。雪の体は問題なくそれについてきたではないか。
「オレはまだ先に行ける」
自分の考えていた限界がこんなにも容易く破れるというのなら、それは先日の零音との一件でも同じことが言えるだろう。無理だと思った。何も言っても伝わらないと諦めた。心を折ってしまった。しかし、自分が考えているよりも、見えているよりも先があるというならば先日感じた限界はまやかしなのかもしれない。
グッと拳を握りながら雪はそんなことを考える。
「鈴には感謝しないとな」
鈴は霞美から受けた洗脳が解けたというわけではない。ならば本来彼女は晴彦と零音の関係を邪魔しないはずだ。そんな状態にもかかわらず鈴は雪の所にやってきた。雪の背中を押すために。鈴の中にあった雪への想いが霞美の洗脳を越えたのかもしれない。実際のところは雪にはわからないが、それでも鈴が来たのは事実なのだ。その想いに雪は応えたいと思った。
「さぁ見とけよ朝道。お前が間違ってるってことを教えてやる。ぶん殴ってでもな」
学校の方を見つめながら雪は呟いた。
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「ん……朝?」
鳴り響くベルの音で雫は目を覚ました。
ふとお腹の上に妙な重さを感じた雫はその方向に視線を向ける。
「うへへ……お姉さまぁ……むにゃむにゃ」
「花音っ!?」
「うへあっ! な、なんですか! 敵襲ですか!」
叫んだ雫の声に驚き目を覚ました花音はバッと起き上がり周囲を警戒する。
そこでようやく雫はなぜ自分が花音と一緒に寝ていたのかということを思い出す。
それは昨日のこと、霞美の手から逃げきった雫達だったがそこで追手がなくなったわけではなく、このまま家に帰るのは危険だと判断し一番家の近かった花音の家へとやって来たのだ。山城は家に帰ったが、弥美と依依は雫と同様に花音の家に泊まっている。
「ごめんなさい花音、起こしちゃったかしら」
「ふぇ……お、おおおおお姉さま!? なんで私の部屋に、夢? これは夢ですか!」
「落ち着きなさい花音。昨日花音の家に泊まることになったでしょう」
「まさかこんなことが現実に起こるなんて……って、あ、そうでした」
「んぅ、なぁにー」
「もう朝なの?」
花音の声に釣られたのか、傍で寝ていた弥美と依依の二人も目を覚ます。
前日の逃走劇で全員疲れ切っていたため、ご飯を食べ、お風呂に入ったあとは全員死んだように眠っていた。
時計が指し示す時間は午前七時前。ちょうどよい時間だった。
「みんな起きなさい。学校に行く用意をするわよ」
「え、行くんですか?」
「当たり前じゃない」
雫が学校に行くというと驚いたような声を出す弥美。雫はさも当然といった様子で返す。
「昨日あんなことがあったばかりなんですよ? 危なくないですか?」
「昨日あんなことがあったから、よ」
「どういうことですか?」
「私はね、あれだけのことをされてはいそうですかと素直に許せるほど優しい人間じゃないわ」
そう言った雫からはっきりとした怒気を感じた弥美は思わずゾクッとする。
「必ず報いは受けさせる。彼女がどこにいるかはわかってるんだから、こちらから乗り込まない手はないでしょう」
「さすがお姉さまです」
「いやでも、どうするんですか? また素直に正面からいったら捕まるんじゃ……」
「私の予想が正しければ、今日は追手はこないはずよ。彼女が今日するとしたら守りを固めることのはずだから」
霞美はすでに雫が逃げ出したことを知っている。本当ならば前日のうちに捕まえたかったのだろうが、それができなかったならば次に考えるのは守りを固めることだ。当日に邪魔ができないように。しかし、それこそが雫の付け入る隙になる。
「守ることが攻めることよりも難しいということを教えてあげるとしましょう」
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めぐみは鏡の前に立つ自分を見つめていた。そこに映る自分は昨日までとなにも変わらない。それでもめぐみには昨日までの自分とは全く違う自分に見えていた。一番の理由はその目だろう。昨日までとは違う、決意を秘めた瞳。それがめぐみにとって大きな変化だった。
外見がどれだけ変わろうとも、精神が伴わなければ意味がない。ならば、そこにしっかりとした精神が伴ったならばどうなるか。その答えが今のめぐみだ。
「……よし」
静かに目を閉じためぐみは気合を入れ直す。これから彼女は学園へと向かう。零音に、答えられなかったあの日の問いの答えを伝えるために。めぐみ自身の想いをぶつけるために。
怖いという思いは確かにある。あの日の零音の目を思い出すといまでも足がすくみそうになる。それでも前に進むだけの力をくれたのもまた零音の存在だった。
「私は……もう何も諦めないよ」
そしてめぐみは学園へと向かうのだった。
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次回投稿は1月31日21時を予定しています。