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第127話 彼女は夢を見る5

二つ連載していると書く楽しさは二倍。でも書くのにかかる時間は二倍以上になった気がします。

時間管理がこれまで以上に大切になりますね。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「さぁ最後の夜の始まりだよ」


 深夜、とある家の外にいた少女が小さく呟く。


「最高で最悪な夢の続きを見に行こう」




□■□■□■□■□■□■□■□■




「最近不審者の目撃情報も出ている。極力一人で帰らないこと。できれば友達とかと一緒に帰るようにな。それから——」


 帰りのホームルーム。少年のクラスの担任が連絡事項を話している。しかし今の少年には聞こえていない、というよりも右から左という状況だ。

 その原因は単純で、朝に起きた出来事……転校生がラブレターを受け取るということがあった。それ自体はそれほど珍しいことでもない。何度もあったことだ。しかしいつもと違ったのは、今回に限って転校生がラブレターの主の話を聞くと言っているということだ。

 話を聞きに行くと言っていたのは放課後。そしてもう放課後になってしまった。


「…………」


 本当に行くのか、などと言えるはずもなく少年はただ転校生の方を見る。何かを考えるように目を瞑る転校生。ラブレターの少女のことを考えているのか、それとも他の何かについて考えているのか。それは少年にはわからない。

 しかしいいようのない不安が少年の中に渦巻いていた。

 

「それじゃあ今日はここまで。あんまり遅くまで残らずにさっさと帰れよ」


 担任がそう言って教室を出て行くと、それまで静かだった教室が騒がしさを取り戻し、ゾロゾロと帰って行く。

 少年もいつものように転校生の元へと向かう。


「……行くの?」

「ん、あぁ。そうだな」


 おずおずと問いかけると、返ってきたのは肯定。少年にとって一番望ましくない答えだった。別に転校生と誰が付き合おうとも関係はないはずだ。それは転校生の自由で、少年の関与するべきところではないのだから。


「だから先に帰っててくれ」

「え?」

「お前の事待たせるのも悪いしな」


 転校生からしたら何気なく言ったことなのかもしれない。しかし、少年は足元が崩れ去るような感覚を味わっていた。

 かつて憧れた兄のような存在に見捨てられた時と同じ、いやそれ以上に酷い感覚。目の前がグラグラと揺れ、自分が立ってるのかどうかすら少年にはわからなくなっていた。


「? ど、どうしたんだ?」

「っ!? い、いやなんでもないよ」


 ここでいつもの少年ならば転校生のことを待つと言っただろう。しかし今の少年にはそんなことを言う余裕はなかった。


「うん、わかった……それじゃ、また明日」

「おう、また明日な」


 そう言って教室の入り口で別れる二人。離れる転校生の背を少年はジッと見つめていた。明日になればその横に知らない人が立っているのかもしれない、そんな考えを振り払うように転校生から視線を逸らし、少年は家へと帰っていった。






□■□■□■□■□■□■□■□■


 その日の夜、少年はベットに寝ころんだまま転校生のことを考えていた。明日からどうなるのだろうとか、もしあの人が彼女になってたならこれからどうなるんだろうとか、そんなことばかりだ。

 少年の望みは今のままであること。何も変わらず、転校生と、その妹と一緒に過ごせればそれでいい。それだけでいい。

 でも少年は理解していた。自分の想いで転校生の行動を縛るわけにはいかないということを。


「宿題……やらないとな」


 ずっと考えていてもしょうがないと思った少年はベットから体を起こして勉強机に向かおうとする。ちょうどそのタイミングで少年のスマホが鳴る。

 スマホの画面を見てみれば、それは転校生の妹からの着信だった。普段電話してくることなどほとんどないだけに、珍しいなと思いながらも少年は電話に出る。


「もしもし? どうしたの?」

『あ、○○さん! お兄ちゃんが、お兄ちゃんがっ——』

「え?」


 そこで話された内容を、少年はよく覚えていない。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 場面が急激に切り替わる。

 そこは転校生の葬式だった。

 転校生が告白を受けたその日、帰り道で転校生は不審者に襲われ一緒に居た少女を守って刺されたらしい。まるで現実味のない話。しかし今少年の前で行われている葬式がこれは現実なのだと如実に訴えかけていた。

 少年は目の前で起こっていることを受け入れられずにいた。つい先日まで一緒にいた。これからも一緒にいると思っていた人がなぜこんなことになっているのか。考えても答えなど出るわけがない。


(オレが……オレが一緒にいれば助けられた?)


 そんな少年がたどり着いた結論。それは自分が一緒にいなかったせいではないのかということだった。あの日、転校生が告白を受けたことに動揺せず、いつものように一緒に帰ると言っていれば転校生は助かったかもしれない。それができなかったのは、少年が逃げたからだ。気付けば少年はそんな思いに呑まれていた。


(オレの……せいだ。なにが友達だ、親友だ……)


 絶望の中で、少年は目の前が真っ暗になるような感覚を味わっていた。

 そんな少年の前に転校生の妹が現れる。


「あ……」

「…………」


 いつもの明るかった様子など微塵も感じられない。

 泣きはらしたのか、目元は真っ赤になっている。ジッと少年のことを見つめる瞳に、少年は何も言えない。

 気まずい沈黙が満ちる中。やがて少女が口を開く。


「……どうしてですか」

「え?」

「どうしてあの日、お兄ちゃんと一緒に居てくれなかったんですか」


 やがて少女はキッと少年のことを睨みつけて詰め寄ってくる。


「いつも一緒にいたのに! どうしてあの日は一緒にいなかったんですか!!」


 泣きながら少年のことを責める少女。それが筋違いな怒りであるということは冷静であればわかることだろう。しかし、今の少女には、そして少年にもそんなことを考える余裕はなかった。ただただ転校生を失った痛みだけが二人の心を支配していた。


「どうして……どうして……」


 やがて泣き崩れる少女。

 少年の瞳にも涙が溢れていた。


(そうだ……オレのせいだ。オレが一緒にいたらあいつは死ななかったかもしれない。オレが一時の感情で傍から離れたから……ずっとそばにいればよかったんだ。何があっても、ずっとそばに)


 この瞬間、少年の心の歪みは決定的なものになってしまった。




□■□■□■□■□■□■□■□■


 

 そして再び場面は切り替わる。そこは見知らぬ真っ暗な空間だった。

 少年は少年ではなくなり、彼女になっていた。

 そしてその空間には彼女の他にもう一人、転校生が立っていた。


「あ……」


 それがおかしなことであるということに気付かない気付けない。彼女はただ呆然と目の前に立つ転校生を見つめていた。


「ここは寒いんだ。ツラいんだよ……」

 

 ゆっくりと彼女に近づいて来る転校生。彼女は思わず後ずさるが、壁のようなものに阻まれてそれもできない。


「わかるだろ。一人は寂しんだよ。お前なら、この苦しみを理解してくれるだろ?」

「それは……」

「お前もこっちに来てくれよ。晴彦と一緒にさ。そんでまた昔みたいに一緒に遊ぼうぜ」

「私は、私は……」

 

 そこで彼女は目を覚ました。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 声にならない悲鳴で彼女は目を覚ます。

 さきほどまで見ていた夢を鮮明に覚えていた。夢は彼女の中にあったトラウマを完全に呼び起こしていた。


「はぁ、はぁ……」


 荒い呼吸を整えるように胸を抑える。完全に思い出してしまった痛みは確実に彼女のことを蝕んでいた。


「そうだよね……寂しいよね」


 夢の中で転校生に言われたことが彼女の中に刻みこまれる。


「待ってて。もうすぐ、もうすぐ私もそっちに行くから」


 彼女は——零音は渇いた瞳でそう呟いた。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は1月30日21時を予定しています。

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