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第125話 めぐみの決意 中編

いつもより短めです。めぐみの過去話なので中編にするかどうかも悩んだのですが、ここで入れておこうと思います。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 四月、入学式当日のこと。


「うぅ、すごい人だよー……」


 どこを見ても人、人、人。めぐみはここにいる全員が同じ学園の生徒であるなどとても信じられなかった。家族と談笑しながら体育館へ向かう人。友達と一緒に体育館へ向かう人、その誰もがこれからの高校生活への期待に膨らんだ表情をしていた。

 そんな中で少数居る一人で来ている生徒。その一人がめぐみだった。

 めぐみの胸中にあったのは多くの生徒と同じように期待。そしてそれを覆って隠してしまうほどの不安だった。

 

「はぁ、ホントに大丈夫かなぁ」


 高校に入ってからは心機一転したいと髪形を変えてみたりしためぐみだが、それで中身まで変われば苦労しない。結局めぐみは中学生の頃とほとんど変わらず自分に自信のないままだった。

 めぐみがため息を吐いたその瞬間だった。


「ハル君見て! 桜が綺麗に咲いてる!」

「おぉ、ホントだな」

「写真撮ろうよ写真!」

「あとでいいだろ。入学式遅れるぞ」

「もー、大丈夫だよ。ほら、こっち来て」

「はぁ、しょうがないな」


 やれやれといった様子で少年が少女の願いに応じる。

 その様子を見ていためぐみは、その少女にに見とれていたのだ。物語から飛び出してきたかのような少女。周囲にいる誰よりもその少女が輝いて見えた。


(光だ……)


 今までめぐみが生きてきた人生の中で、誰よりも輝いて見えたのだ。激しく高鳴る胸。目の前の少女こそが物語の主人公なのだとめぐみは直感的に感じた。

 どんなに望んだとしてもめぐみがなれない存在。そんな存在が不意にめぐみの目の前に現れたのだ。

 めぐみは息を呑んで二人の姿を見つめる。


「でもどうしよ。私が撮ると桜綺麗に入らないよ。あ、そうだ!」


 なにかを思いついた少女がキョロキョロと周りを見渡し、めぐみと目が合う。

 目が合ったことに驚いためぐみはビクッとしてそのまま固まってしまう。

 

「っ!?」

「すいませーん」

「は、はひ!」


 緊張のあまり声が裏返るめぐみ。

 

「あの、写真撮って欲しくて……って、大丈夫ですか?」

「だ、だだだ大丈夫です!」


 少女に心配げに見つめられ、緊張と動揺でめぐみは顔が真っ赤になる。


「大丈夫ならいんですけど。それで、写真撮ってもらえますか?」

「は、はい。わ、私でよければ」


 少女からスマホを渡されためぐみは、緊張で震える手を必死に抑えて写真を撮る。

 何枚か写真を撮っためぐみは震える手で少女にスマホを返す。撮った写真を少女が確認している最中、めぐみはまるで裁判で判決を待つ被告人のような気持ちを味わっていた。


「うん、綺麗に撮れてる。ありがとね」

「っっっっ!?」


 少女に笑顔を向けられためぐみはその笑顔の眩しさに頭の情報処理能力が追い付かなくなり、固まってしまう。

 少女が何か言っているが、めぐみにはそれに反応する余裕もない。

 かろうじて覚えているのは『楽しい学園生活にしようね』と言っていたことだけ。

 気付けば少女はいなくなり、めぐみは一人になっていた。

 

「え、あ、時間!」


 ようやく立ち直ってみれば、周りには誰もおらず、入学式目前の時間になっていた。

 慌てて走って体育館へと駆け込み、恥ずかしい思いをしてしまっためぐみだったが、その胸中を占めるのは先ほど出会った少女のことばかり。


「綺麗……だったな」


 思わず呟くめぐみ。


「また……会えるかな」


 これが、めぐみと少女——零音との出会いだった。

 零音にとっては他愛もない出来事だったのかもしれない。記憶にもとどめていないほど他愛のない出来事だったのかもしれない。

 しかし、めぐみにとってはそれまでの人生のどんな出来事よりも零音との出会いは心に刻み込まれたのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は1月27日21時を予定しています。

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