第124話 めぐみの決意 前編
皆様のおかげで総合評価が1000を越えました! ありがとうございます!
これからも全力で頑張っていきます!
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
時は少し遡りお昼過ぎ、雨の中やって来た双葉を家の中へと迎え入れためぐみ。雨に濡れた双葉に自身の持っていた服を貸し、着替えている間になんとか部屋の中に散乱していた本を片付けることはできた。といっても、一時的に押し入れの中に放り込んだだけなのだが。
「とりあえずこれでよし……いきなりどうしたんだろ」
迎え入れたはいいものの、なぜ双葉がやって来たのかわかっていないめぐみの頭に浮かぶのは疑問符ばかりだ。
「なになに、エッチな本でも隠したの~?」
「ひゃわっ!?」
突然背後から聞こえた双葉の声に驚いためぐみは思わずその場で飛び上がる。
「せ、せせせせ先輩、いつの間に」
「さっきから声かけてたんだけどぉ、全然返事ないから勝手に入っちゃった~。ごめんねぇ」
「い、いえ。それはいいんですけど」
めぐみの動揺をよそに、双葉は物珍し気にめぐみの部屋の中をキョロキョロと見渡す。
「ここがめぐみちゃんの部屋かぁ。ホントに本が好きなんだねぇ」
「あ、あの。あんまり見ないでください。恥ずかしいので……」
「なんで~?」
「な、なんでってそれは……」
「ボクは好きだよ、この部屋。本が綺麗に並べられててちゃんと掃除が行き届いてて……うん、めぐみちゃんの部屋って感じだよぉ」
「うぅ……」
唐突に褒められためぐみは顔を赤くして俯いてしまう。
「部屋は自分自身の写し鏡。部屋には人格が宿るってね。ボクの部屋なんかもっとぐちゃぐちゃだし。恥ずかしがることないよぉ」
「あ、ありがとうございます……って、あ、そうじゃないです!」
「ん? どうしたのぉ?」
「あの、その、どうして今日は私の家に来たんですか?」
「あ、そっかそっかぁ。言ってなかったねぇ」
ポンと手を打つ双葉。めぐみの部屋の中を見ていてすっかり忘れていたのだ。
「めぐみちゃんさぁ、火曜日から学校休んでるでしょ」
「っ!?」
「そのことについてのお話だよぉ。とりあえず、なんで休んでるのかだけ教えてくれる~?」
「それは……」
「言いたくない?」
「…………」
ジッと押し黙るめぐみ。双葉はそんなめぐみの様子を見てやれやれと肩を竦める。
「まぁ、知ってるんだけどねぇ」
「えぅ! そ、そうなんですか」
「もちろんだよ。まぁ直球で言うけどさぁ。零音ちゃんでしょ?」
「……はい」
双葉から目を逸らしつつ、消え入るような声で返事をするめぐみ。
「零音ちゃんに会いたくない。ううん、会えないってところかなぁ」
「……それと私の家に来ることになんの関係があるっていうんですか」
「そこはボク自身の問題と言うかぁ……ま、ボクにもちょっと責任があるかなぁって思ったからさ。可愛い後輩達には元気で仲良くいてもらいたいしさぁ。その方が面白いものがいっぱい見れそうだし~」
「?」
「おっと話が逸れちゃったねぇ。でも本題に入る前にボクの話を聞いてくれる?」
「あ、はい。それはいいですけど……」
双葉の勉強机の椅子に座る双葉。目でめぐみにも座るように促す。わけのわからないまま双葉に促された通りベットの縁に座るめぐみ。そして双葉はクルリと椅子を回転させてめぐみの方を見て話し始める。
「本当は火曜日に来ても良かったんだけどねぇ。ちょっと調べたいことがあったんだぁ」
「調べたいこと……ですか?」
「そう、君のこれまでの人生についてって言うとちょっと大げさかな? まぁでもそうのへんのことだよぉ」
「なんでそんなことを」
「それはおいおい話すよぉ。まぁ結論から言うとねぇ、めぐみちゃん。君の人生は一言で言うなら、無味乾燥。味気ないって言うのがぴったりな生活を送ってたんだねぇ。君の小学校、中学校時代の同級生や先生。会える人には何人か会って来たんだけどぉ。みんな口をそろえたように言ってたよ『井上さん? あぁ、いい人だよね』って。でもそれだけ。誰一人として君との思い出を語った人はいなかった。語れる人はいなかったよぉ。君が良い人だというのは皆がみんな認めるところなのにねぇ。知っているのはせいぜい本が好きということくらいだった」
双葉の会って来た同級生の誰もがめぐみのことを嫌ってはいなかった。優しい人だったとか、いつも真面目だったとか。そんな当たり障りのない話ばかり。めぐみの家を知っているものすらいなかった。そしてそれは先生も同じ。問題を起こさない良い子だった。手を煩わされたことはない、そんな話ばかりだった。
「めぐみちゃんの好きな食べ物は、好きな本の名前は、嫌いな教科は……誰も、何も知らなかった。ボクの抱いた感想はねぇ……影、だよ。君はずっと影のように生きてきたんだねぇ」
「…………」
双葉の言葉にめぐみは反論できない。それが事実だったから。めぐみはずっと誰に対しても波風を立てないように生きてきた。友達が欲しいと思ったとしても、それを表に出すことは無く。静かに生活を送っていたのだ。
「あ、勘違いしないでねぇ。それが悪いことだって言ってるわけじゃないよぉ。むしろすごいことだと思うよぉ。誰に対しても悪感情を与えない。それは普通のことじゃないからさぁ」
双葉の会って来た同級生の誰もがめぐみのことを良い人だといった。誰もめぐみのことを悪し様に罵るような人はいなかった。
「めぐみちゃん。君は誰よりも人の感情を読み取ることに長けていたんだねぇ。だからこそ、その人を怒らせるような行動をとらない。対人関係において波風を立てない生き方をしてきた。ま、そのせいで友達もできなかったみたいだけどぉ」
「うっ」
ずけずけと言う双葉にダメージを受けるめぐみ。
自業自得な部分もあるとはいえ、友達のいない暗い中学生時代を過ごしたことを思い出してしまっためぐみは少しだけ涙目だ。
「ボクが聞きたいのはねぇ、そんな君がどうして零音ちゃんと友達になることを選んだのかってことだよぉ。今まで波風を立てないように生きてきためぐみちゃんが、入学当初から注目を浴びている零音ちゃんと友達になったのか……」
偽ることは許さないという目で双葉はめぐみのことを見据える。そんな彼女から目を逸らせないめぐみ。
「その理由を教えてくるかなぁ」
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は1月26日21時を予定しています。