第119話 昼ヶ谷雫を見つけ隊5
表現の引き出しを増やしたい。そのためにもしっかり勉強しなければと思っているのですが……言うは易く行うは難しというやつですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「ここまで来たらいいだろう」
トイレを通り過ぎ、保健室の近くまで連れて来られた依依。
「お前達も、そこにいるんだろう。さっさと出てこい」
「う、バレてる」
「先生鋭いですね」
さすがに心配でついて来ていた花音と弥美の二人が廊下の角から出てくる。
「あんなあからさまについて来てるのに気づかないわけがないだろう。まったく」
呆れたように息を吐く彩音。
「それで、なんのためにあんな三文芝居してたんだ」
「あ、やっぱりバレてました?」
「依依ちゃんの演技上手かったけどなー」
「確かに上手だったけど、それと信憑性があるかどうかは別でしょ」
「あれで気付かないのはバカだけだ」
「ですよねー」
「でも先輩達気付いてなかった気がするけど」
「……訂正しよう。あれで気付かないのはバカかお人好しだけだ」
「先輩達が気付かなくてホント良かったです。えぇ、ホントに。心底そう思います」
「だが、トイレまで行ったらさすがに気付かれただろうな。もしそうなったら……あいつ怒らせたら怖いぞ」
「……気付かれなくてよかったです」
「それはいいから、早く理由を話せ」
「日向先輩なら会長のこと知ってるかな、と思って。あの様子じゃ朝道先輩は話してくれそうにないし。あと聞けるのは日向先輩しかいなかったので」
「なるほど。それであの三文芝居で日向と朝道を離そうとしたわけか」
「あのー、三文芝居って何度も言わないでください。どんどん恥ずかしくなってきたんですけど」
「依依ちゃんの三文芝居でいけると思ったんだけどなー」
「そうね。途中までは依依の三文芝居で上手くいってたわけだし」
「もうわざと言ってるよね!」
「怒らなくてもいいって。上手な三文芝居だったから」
「その言葉すごい矛盾してるの気付いてる?」
「お前達は本当に……まぁいいがな」
「うーん……でもどうしよっか。先輩達はもう帰っちゃっただろうし」
ここに来ていよいよ雫を見つけるために手掛かりを失ってしまった花音達。
悩んだところでなかなか考えなど浮かばない。そんな彼女達の様子を見ていた彩音は少し思案した後に口を開く。
「生徒会長……か。そういえば見た気がするな」
「えっ!?」
「ホントですか!」
「あぁ、白い髪の女生徒と裏手にある森の中に入って行くのをな」
「白い髪……」
「最近あの森に生徒が出入りしている姿をよく見るからな。もしかしたら何かあったのかもしれないな」
「先生、ありがとうございます!」
「あ、ちょっと花音! すいません、失礼します。行くよ依依」
「え、私も行くのー」
いきなり走りだした花音を追いかける弥美。そしてその弥美に再び引きずられるようにして依依達は離れていった。
その姿を見届けた彩音は誰もいない虚空に向かって呟く。
「これくらいのお節介は許してほしいものだな。別に朝道達に直接何かしたわけじゃないんだから。それに、その方がお前にとっても面白いものが見れるかもしれないぞ。なぁ——神様よ」
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「裏手の森……あんまり来たことはないけど、ここだよね」
「うん。そうだね」
「ねぇ、私帰っていいかなー」
「ここまで来たならもう最後まで一緒に行こうよ」
「だから何度も言うけど、お金にならないことはしたくないのー。さっきのは特別なんだから」
「依依ちゃんってホントにお金好きだよね」
「そりゃそうだよー。お金があったらなんでもできるんだから。断言できる。この世にお金が嫌いな人間なんていない」
「まぁそりゃお金は大事だけどさ。お金だけじゃないでしょ人生って」
「中学生に人生語られてもねー。それに、お金だけじゃないって言うけど他に何があるっていうのさ」
「それはほら、愛とか」
「ふんっ」
「鼻で笑われた!?」
「お金があったら愛も手に入るよ」
「それで手に入れる愛ってなんだかなぁ」
「どんな形だって愛は愛。それに金の切れ目が縁の切れ目って言うし、お金があるに越したことはないのは事実でしょー」
「そうだけど」
「花音も依依も、そんなくだらないこと話してないでここからどうするか考えないと」
「あ、そうだった」
「依依も、ここまで来たなら——しっ、二人とも隠れて」
誰かが近づいて来る気配を感じた弥美が二人に隠れるように指示する。
隠れた三人の近くに、買い物袋を持った生徒が二人やって来る。
「いま、誰かの話声が聞こえた気がしたんだが」
「気のせいでしょ。こんなところに誰かがやって来るわけないじゃない」
「……そうだな」
「それよりも早く会長の所に持ってこーよ。霞美様に怒られる前にさ」
「あぁ」
離れていこうとする二人。しかし、女生徒の言った「会長」という言葉に反応してしまった花音が足元にあった小枝を踏んでパキッと音を出してしまう。
「誰だっ!」
(なにやってるのバカ!)
(ごめーん!!)
(ちょっと、こっち来てるよ!)
焦る三人のもとに、音を聞き逃さなかった男子生徒がゆっくりと近づいて来る。
「確かにこっちから聞こえたぞ」
あと少しで花音達が見つかると思ったその瞬間、
「あぁもう、何してんの! 早くして!」
「……そうだな。すまない」
もうあと少し、という所で男子生徒が引き返す。
完全に離れるまで息を押し殺し続けた花音達は、二人の気配が無くなったのを確認してホッと胸をなでおろす。
「もう、危ないじゃない」
「だってぇ~」
「まぁ見つからなかったんだからいいってことにしとこうよ」
「……そうね。そうしましょう」
「あの人達、会長って言ってたよね。やっぱりお姉さまのことかな」
「たぶんね」
「もしかしてこの森の中にまだお姉さまがいるんじゃ」
「その可能性は考えられるかも。あの人達に捕まってる……とか? まだ確証はないけどさ」
「じゃあ早く助けにいかないと!」
焦って走りだそうとする花音の首根っこを弥美が掴む。
「慌ててもしょうがないでしょ。さっきの人たち、こそこそ隠してるみたいだったし。もし見つかったら絶対に大変なことになる。いるのがあの人達だけとは限らないし。行くなら慎重にいこう」
「あ、うん。そうだね」
「依依も。逃げようとしないで一緒に行くよ」
「あぅう……見つかったー」
「この森の中に入って日が暮れたら最悪だし。慎重に、でも迅速に行こう」
「おー!」
「……おー」
こうして花音達は、雫を探して森の中へと足を踏み入れるのだった。
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次回投稿は1月19日21時を予定しています。