第117話 昼ヶ谷雫を見つけ隊3
何を言われてもへこたれない強い精神が欲しい。そう思う今日この頃。弱くはないと思うんですけどね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「ちょ、や、弥美ちゃん! どうしたの急に」
「あ、ごめんごめん」
しばらく歩いてから弥美が握っていた花音の手を離す。
「どうして急に行っちゃったの。もっと聞くことあったのに」
「なんか……あの先輩嫌な感じしたから」
思い出すのは零音のこちらを見る冷たい目。晴彦に接していた時の優しい雰囲気とは全く違う。晴彦以外の全ては敵だと言わんばかりの目をしていた。
「嫌な感じ……まぁ確かにしたけど」
「それにあの先輩、知ってるよ」
「知ってる?」
「会長のことも、白い髪の女の子のことも……あの人は知ってる」
人を観察するのが得意な弥美だからこそわかった。会長がなぜ連絡なしに休んでいるのか、白い髪の女の子がどういった形で絡んでいるのか、そのことについて零音が知っているのはほぼ間違いないと弥美は考えていた。
(あぁ、なんかすっごい嫌な予感する。ろくなことに巻き込まれない予感が)
花音の無茶に巻き込まれてきた弥美だからこそ働く直感。今回の一件が今までのものとは比べ物にならないくらい面倒な案件であるということが。
(逃げたい。ちょー逃げたいけど……)
ちらりと花音の方を見る。
花音は少々行き過ぎなところはあるものの、善良な少女だ。それはずっと近くにいた弥美が一番よく知っている。
(男嫌いだったり、会長のこと好きすぎたり……面倒な子なんだけど)
それでも見捨てることができないから弥美は一緒にいるのだ。あるいは、それこそが花音の人徳なのかもしれない。生徒会長である雫も、花音からの熱烈アタックを受け続け、面倒だとは思っているのかもしれないが花音の事を嫌っているわけではない。
(この真っすぐな会長を支えるのが副会長の役目だよね)
「探すんでしょ」
どこか迷った表情の花音に弥美が言う。
「うん。でもこれ以上は弥美ちゃんに迷惑だし、あとは私一人でやるよ」
「はぁ、あのね。今日は生徒会の仕事あるのわかってる?」
「わ、わかってるけど」
弥美にため息交じりに言われ、焦った表情になる花音。ただでさえお昼休みをほとんど使っているというのに、これ以上探すというのであればそれは放課後しかない。しかし放課後には生徒会の仕事が、待っている。
雫を探したいという気持ちと、中等部の生徒会長としての責任感が花音の中でせめぎ合う。
クルクルと表情を変える花音を見て弥美は内心クスクス笑う。
弥美は止めるつもりはなかったが、花音の困る顔が見たかったのだ。
「冗談だよ。止めないから」
「でも仕事は?」
「……それは後で覚悟して」
これによって遅れる仕事に関しては弥美も極力考えないようにしていた。
「とにかく昼休みはもう終わっちゃうし、続きは放課後にしよう」
「そうだね」
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雨の降り続いているのをめぐみは一人部屋で眺めていた。
しかし、その目に映るのは雨の落ちる様子ではなく、月曜日に起きたことばかりだった。
零音から決断を迫られて、めぐみは何も決めることができず逃げ出した。
「私……卑怯だ」
零音から言われた時は頭が真っ白になって、何も考えることができなかっためぐみ。しかし、ずっと頭が真っ白なままでいるわけではない。時間が経てば経つほどに頭は冷静になっていく。
冷静になってしまえば次にやって来るのは大きな後悔だった。晴彦への想いも、零音への友情も貫くことができず、どちらも失った。
「やっとできた友達だったのに」
呟いて、後悔しても時間が戻ることなどありはしない。いや、時間がもどったとしても選ぶことができないだろうという風にめぐみは思っていた。たとえ何度繰り返そうとも、めぐみは逃げ出していただろう。
冷静になった今も、どう答えればよかったのかなどわからない。零音が晴彦のことを好きなのはめぐみも知っていた。だからこそ二人の関係に立ち入るつもりなどなかった。
ただ二人の傍で、みんなと一緒に過ごせればそれだけでよかった。
だが、もうその望みが叶うことはない。零音の手によってその望みは壊されてしまった。
「学校……行かないと」
自分の内心から目を逸らすためにめぐみは先のこと考え始めた。
月曜日の一件以降、めぐみは学園に行かずにずっと部屋にこもっていた。
両親にも弟の秋嘉もめぐみのことを心配し、気にかけていたがめぐみ自身が話す気にならずになにも言わないままだった。
「お母さん達にも心配かけてるし、勉強も遅れちゃうし……あはは、やることいっぱいだなぁ」
空笑うめぐみ。無理に笑おうとしてもその笑顔に力が入っていないのが自分でもわかる。
「部屋の本も片付けないと」
ちらりと部屋の中に目を移せば、そこには散乱した本の山。
何十冊あるかわからない。床の上はほとんど本で埋まっていた。
「……読んでも読んでもわかんなかった」
めぐみが本を読み続けていたのは知りたかったから。どうすればよかったのか。何が正しかったのかを。
今まで知りたいことは全部本を通じて学んできためぐみ。しかしどの本にも載ってはいなかった。友情と恋心を秤にかけた時の決断の方法など。
どの本の登場人物もめぐみのように弱くはなかった。強い心を持っていた。
それはどれほど望んでもめぐみには手に入らないものだった。
「強い心があったら、選べたのかな」
その時だった。
ピンポーンと家のチャイムが鳴る。
「? 誰だろ」
家には誰もおらず、めぐみは部屋を出てインターホンへと向かう。
「荷物とかなら……悪いけど居留守でいいよね。ってえぇ!?」
思いもよらぬ人物が映っているのをみためぐみは思わず素っ頓狂な声を上げる。
『やっほ~、ボクだよボク。双葉だよ~』
驚くめぐみとは対照的に、のほほんとした表情で双葉は玄関に立っていた。
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次回投稿は1月16日21時を予定しています。