第115話 昼ヶ谷雫を見つけ隊1
ボーっとしてると不意にアイデアが思いつくことってありますよね。でもそのままボーっとし続けて忘れるという。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
花音と弥美の二人が雫を探すためにまずやって来たのは高等部の校舎だった。
まず雫の教室に行ってみた二人だったが、聞けば休んでいると言われ、詳しい理由は知らないとのことだった。
「これ普通に体調不良で休んでて連絡も見てないだけとかじゃないの?」
「でもそれなら生徒会にも連絡が回るはずでしょ。お姉さまは連絡なしに休みなんてことしないんだから」
「まぁそっか。会長なら連絡しないってのは考えられないよね。花音ならまだしも」
「私だってしないよ!」
「前に欲しい本の発売日だからって私達に連絡もせずに帰ったのはどこの誰だっけ」
「うっ」
「生徒会会議があることを忘れてさっさと帰って会長に怒られたのはどこの誰だっけ」
シラーっと弥美から目を逸らす花音。そんな花音を弥美はジトーっとした目で見る。もっとも、弥美の目は長い前髪で隠れているので見えないのだが。しかし、花音も雰囲気で弥美がどんな目で見ているのかというのは伝わっていた。
「と、とにかく次に行こう。ほら、早くしないとお昼休み終わっちゃうし」
「……はぁ、そうね。そうしましょう」
しぶしぶといった様子で頷く弥美。
時間が無いのは事実であったし、これ以上問い詰めたとしても花音がのらりくらりとかわすのはわかりきっていたからだ。そもそも昼休みに中等部の生徒会室にいたのは仕事があったからで、弥美としてはどんな形であれ早く終わらせてしまいたいのだ。
しかし、これで諦める弥美ではない。いつか機会を見て今回の件も含めて追及してやろうと心に固く誓うのだった。
「次は一応高等部の生徒会室行ってみよっか。たぶんいないだろうど」
「そう思うのに行くの?」
「優菜先輩とかはいつも生徒会室にいるらしいから。何か知ってないかなって」
「あー、田所先輩かー」
弥美はその名前を聞いて若干苦い顔をする。
「どうかしたの?」
「……あの先輩ちょっと苦手で」
「え、どうして? 優しいよ」
「それはそうなんだけどね。なんかこう、たまに身の危険を感じると言うか……なんというか……気のせいだと思うんだけどさ」
生徒会副会長の優菜と、中等部生徒会副会長の弥美。似たような立場にいるので、弥美は仕事を教えてもらうことも多い。その時に優菜から邪な視線を感じることがあるのだ。最初は気のせいだと思っていた弥美だったが、それがずっと続いていくうちに苦手意識を持ってしまったのだ。
花音と弥美は、というよりほとんどの人は知らない。優菜が度を越した女の子好きであるということを。生徒会としての醜聞を避けるために雫が使える手段は全て使って隠しているのだ。
「言ってる間に着いたけど……どうする?」
「どうするもこうするも着いたなら「すいませーん」——ってもう開けてる!? 心の準備くらいさせてよ!」
「え、ダメだった? どうせ開けるんならいいかなーって思ったんだけど」
「ダメに決まってるでしょ!」
「入り口で騒いでどうしたの?」
「あ………いえ、なんでもないです。こんにちは田所先輩」
「こんにちは。それでどうしたの? 二人揃ってくるなんて珍しいじゃない」
生徒会室に突入してきた花音を後から回収しにくる弥美というのがいつもの光景だ。揃って来ることはそうそうない。
「あの、お姉さまはいますか?」
「雫? いないわよ。いつもは連絡くらいしてくれるんだけどね。今回は連絡なし。電話してみたけど繋がらないし」
「優菜先輩も連絡とれないんですね」
「も、ってことはあなたも?」
「はい」
「はぁ、困ったもんね」
「誰か知ってそうな人いないですかね?」
「うーん……心当たりもないしねぇ。まぁ、そんなに焦らなくてもそのうち帰ってくるはずだけどね」
「そう……ですよね」
優菜の言うことは尤もだ。そんなに心配しなくても明日になればひょっこり現れるかもしれない。しかし、花音は言いようのない不安を感じていた。
言葉にはできないその不安が花音を動かしていたのだ。
(でも、これ以上弥美ちゃんを付き合わせるわけにもいかないしー……ここまでかな)
そんな花音の表情を見ていた弥美はしょうがないと言わんばかりにため息を吐く。たとえ言葉にすることがなくとも、花音の言いたいことはなんとなくわかってしまうのだ。
「そんなに気使わなくていいよ。探したいんでしょ」
「え、いいの?」
「花音のわがままには慣れてるもの」
「弥美ちゃん……ありがと!」
感動で目を潤ませる花音。その感情の勢いのまま抱き着こうとする花音だったが、生徒会室の時と同じ轍は踏まないとひらりとかわす。
「ぐべっ!」
「それは暑苦しいからやめて」
「……ひどいよ、弥美ちゃん」
思い切り壁にぶつかり額をおさえる花音。
「ふふ、面白いわね君達。私は用事があるから探せないけど、もし見つけたら生徒会室に来るように伝えておいてくれる?」
「あ、はいわかりました」
そうして生徒会室から出て行く花音と弥美。
探すときめたはいいものの、これ以上どこを探せばいいのかわからない二人は行くあてもなく高等部の廊下を歩き回っていた。
「どうしよっか」
「生徒会室にいた田所先輩も知らないのに知ってる人がいるとは思えないしね」
「双葉先輩は?」
「そういえば生徒会室にいなかったね。先輩の教室行ってみる?」
「そうだね。いそごっか」
「うん」
決まったなら急げということで二人は双葉のクラスへと向かった。
そんな二人の事をジッと見つめる人影には気づかないまま。
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次回投稿は1月13日21時を予定しています。