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第113話 立ち上がる木曜日 中編

眠い時に書いてると雪と雫、零音と霞美の名前を間違えたりするんですよねー。いい加減慣れろよという話なのですが。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 昔から、最後の最後には負けてしまうことが多かった。

 何度も勝って、勝って勝ち続けて……それでも最後には負けてしまう。

 そうしてその競技から離れていくのだ。

 気付けばそれに慣れていた。そもそも、彼自身そこまで競技に本気になったことがなかった。

 彼にとって競技は勝ち続けることだけが大事で、負けたなら続ける理由もなかった。彼にとって戦う理由は弟を喜ばせるため、それだけだったのだから。


「兄さんは——」


 どこか悲しそうな様子で弟が彼に向かって言う。


(あの時……あいつはなんて言ったんだっけ。オレは……)


 もう少しで思い出せる、その寸前に彼の意識は急速に浮上していった。






□■□■□■□■□■□■□■□■


 雨音が激しく窓を打ち鳴らす。その音で雪は目を覚ました。


「ん……もう昼過ぎか」


 ゆっくりと体を起こして時計に目を向ければ時刻はすでに昼過ぎ、午後の授業が始まっている時間だった。

 しかし、そんな時間にも関わらず雪は家にいた。というより、そもそも登校してすらいなかった。


「こんなに寝たのいつぶりだろうな。ずっと運動だなんだってしてたしなぁ、体調崩したこともねぇし。バカは風邪をひかねぇってやつかな」


 そんな内心どうでもいいと思っていることを、現実から目を背けるかのように雪は呟く。

 朝、いつものように目を覚ました雪だったがどうしても動く気にならず、体調を崩したと嘘をついてまで雪は学園を休んだ。

 病院に連れていくと言う両親をなんとか言いくるめて仕事に出かけたのを確認したあとに雪は再び眠りにつき、そして目を覚ましたのはこの時間だったというわけだ。


「……腹減ったな」


 なにもしてなくても腹は減るのかと思いながら、雪は少し遅めの昼ご飯を食べるためにリビングに向かう。

 リビングに入った雪は机の上におかれた紙を見つける。


『何かあったらすぐに連絡してください。飛んで帰ります。今日は早めに帰ります。母と父より』


 それは雪の嘘を信じた両親が残したメモ。わざわざメモまで残していく両親の真面目さや、心配性ぶりに雪は苦笑する。


「もう高校生だっつーの。ま、今まで風邪ひいたりしたこともねぇし。心配すんのも無理ねーか」


 申し訳なさを感じながら雪は置いてあったメモをしまう。

 零音と違って料理が得意なわけでない雪は、簡単に作れるカップラーメンを作って食べる。

 なにもすることがない雪は、テレビをつけてボーっと眺める。


「……この時間、こんな番組やってんだな」

  

 チャンネルを回しながら雪は言う。

 しかし、見ているようで見ていない。心ここにあらずといった様子だった。


「……はぁ」


 思い出すのは昨日のことばかり。零音に敗北そた瞬間のことばかりだ。


「今さらだな」


 雪は敗北した身だ。たとえ零音がどんな手段を使ったとしても負けは負け。ならばいつものように身を引くしかない。いつもそうしてきたように。

 納得できていなくても納得するしかない。晴彦のことも、元の世界へ帰るということも、全ては敗北した自分のせいなのだと雪は言い聞かせる。


「……もう一回寝るか」


 テレビを見るという気分でもなくなった雪はもう一度寝ようとリビングを出る。

 寝ている間は忘れられる。そう思ったから。

 そして時間が過ぎて行けばいつもの自分に戻れるだろうと、そんな淡い期待を抱いて。

 しかし、雪が部屋に戻ろうとしたその時、狙いすましたかのように家のチャイムが鳴る。

 最初は面倒だと無視しようとした雪。しかし、チャイムを鳴らしてくる人物は諦めることなく何度も何度もチャイムを鳴らす。

 いい加減に苛立ってきた雪がその苛立ちのままに玄関に向かい、荒々しく扉を開く。


「何度も何度もうるさ——って、え?」

「あ、雪ちゃん。おはよ……でいいのかな?」


 そこに立っていたのは、雨でずぶぬれになっている鈴だった。







□■□■□■□■□■□■□■□■




「……やっぱりおかしい!」


 昼休み、中等部の生徒会室で花音は叫ぶ。


「またいつもの?」


 またいつものが始まったと弥美は面倒くさそうな顔をする。


「違うって。今回はホントだから!」

「とりあえず話は聞くから、早く言って」

「その話ってー。お金に関係あったりする?」

「お金? いや、お金には関係ないけど」

「じゃあ私はパース。弥美ちゃん任せた」

「結局私に丸投げなのね……」


 弥美以外にももう一人いた依依がさっさと話しから離脱して眠りだす。


「まぁいいけど。それで話って会長のこと?」

「もちろん」

「そりゃそうよね。むしろそれ以外だったら驚くし」

「あのね、昨日からお姉さまと連絡が取れないの」

「会長と?」

「いつもなら連絡を返してくれるのに、昨日も今日も既読すらつかない。これは異常事態よ!」

「……単純に相手するのが面倒なだけじゃ」

「お姉さまはたとえ面倒でも返信してくれるもの」

「自分からの連絡が面倒なのは否定しないんだ」

「とにかく、何かおかしいの!」

「忙しいだけじゃないの?」

「ううん。私の勘が告げてる。きっとお姉さまに何かあったのよ」

「何か……ねぇ」

「それに高等部でおかしな話も聞くし」

「あぁ、日向先輩が幼なじみの朝道先輩と付き合い始めたってやつ?」

「そう、それ」

「なにがおかしいのよ。別に普通の話じゃない」

「だってお姉さまというものがありながら他の女なんて許されるはずがないもの!」

「でも花音的にはよかったんじゃないの。日向先輩が誰かと付き合い始めたなら、会長とのことを心配する必要もなくなるでしょう?」

「それは……そうなんだけど……」


 わかっているけど納得できない。そんな表情の花音。実際、弥美の言う通り晴彦が誰かと付き合うと言うなら、雫との関係について心配する必要はなくなる。それは花音にもわかっている。しかし、なぜか納得できないのだ。その理由は自分自身にもわかっていないのだが。


「と、とにかく。他にも変な噂とか聞くし……私の直感が全部関係あるって言ってるの!」


 理由になっていない理由に弥美は思わずため息を吐く。しかし、だからといって無視できるものではなかった。

 これまでの弥美の経験測として花音がなにかあるというならあるのだ。どれだけおかしなことであろうとも。だからこそいつもバカなことを言ってると思いつつも切り捨てることはできなかった。

 

「……はぁ、しょうがないか」

「え?」

「気になるんでしょう。それで仕事も手につかなくなるくらいなら直接調べに行ったほうが早いじゃない。そうでもしないとあなたは納得しないでしょうしね」


 弥美の言葉に花音がパァアアアっと目を輝かせる。


「ありがと弥美ちゃん!」

「ちょっと、暑いからくっつかないで」


 花音に抱き着かれ、口では嫌そうにしながらも本気では拒否していない弥美。


「ホント、仲いいねー君達」


 そんな二人を見て依依はポツリと呟いた。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は1月10日21時を予定しています。

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