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第109話 折られる心

あけましておめでとうございます。本年も頑張っていきますので、どうかよろしくお願いします!


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 同時刻、生徒会室にて。

 雫は生徒会室で一人、調べた白髪の少女の事について考えていた。


「……やっぱり、この人は」


 手元の資料を眺めながら雫は呟く。その時、雫は部屋の中に自分以外の存在の気配を感じた。


「誰かしら」


 気配のした方へと視線を向ける雫。


「ありゃ、バレちゃったか」


 部屋の陰から現れたのはまさに今雫が考えていた白髪の少女、霞美だった。


「ずいぶんとあっさり出てくるのね。あれだけ探しても出てこなかったのに」

「そういう割には驚いてないし、喜んでもないみたいだけど」

「あなたがここに来る可能性については考えていたもの。それに、あなたを見つけたからと言って喜ぶ理由もないわ」


 ニヤニヤと笑っている霞美に対して、冷静なままの雫。


「それで、あなたは私に何か用なのかしら?」

「うーん、用ってほどじゃないけど……敗北者の顔を見に来たって感じかな」

「敗北者?」


 その言葉に雫がピクリと肩を揺らす。


「それ、どういう意味かしら」

「どうもこうも、そのままの意味だよ。君は晴彦を巡っての戦いに敗れた哀れな敗北者」


 霞美は雫の座る机へと歩みより、座ったままの雫を挑発的に見る。


「君がのんびりと私について調べてるあいだに、零音が晴彦のこと手に入れた」

「手に入れた?」

「まぁ、正確には私の洗脳の力のおかげだけどね」

「やっぱりあなたが何かしてたのね」

「そうだよ」


 あっさりと認める霞美。そもそも、雫の所に来た時点で霞美は大概の事を話してもいいだろうと思っていた。それは勝者としての余裕と言えるものだった。


「残念だったね。君の大好きな晴彦はもう手の届かない場所にいる。そして私の計画は完遂する。ずっとずっと夢見てきた瞬間が訪れるんだ」


 そう言って笑う霞美。しかし、雫はまったく表情を動かさない。

 雫の悔しがる表情を見たかった霞美としては、それがどうにも納得できなかった。


「……なんで平気なふりしてるのかなぁ。内心穏やかじゃないんでしょ、悔しいんでしょ、だったらもっとわめいてよ。悔しがってよ!」


 それを見たいがためにここに来たというのに、自分の思い通りになっていないことが霞美は不愉快だった。


「……ふふっ」


 それを見た雫は静かに笑って紅茶を飲む。


「随分と余裕がないのね。もっと落ち着いたらどう?」

「余裕が無いのは君の方でしょ。なのに余裕ぶって……そういうのムカつくなぁ」

「そういうあなたは、随分と苛立ってるのね。余裕があるんじゃないの?」

「あるさもちろん。もう私の勝ちは決まってるんだから。でもだからこそ君の余裕がムカつく。この場で、余裕があっていいのは私だけなの」


 絶対的勝者であるはずの霞美と敗北者であるはずの雫。しかし傍目から見ればその立場はまるで逆のように見えた。


「……やっぱりあなた、バカなのね」

「なっ!?」

「勝手に勝ちを確信して私の前に出てくる。少し思い通りにならなかっただけで怒りだす。バカ以外のなんだって言うのかしら」

「私はバカじゃない!」

「いいえ、自覚してるはずよ。だからこそ今まで私の……私達の前に出てこれなかった」


 怒りだす霞美に対して、あくまで雫は穏やかなままだ。

 そして手元にある資料を見て話しだす。


「今年の入学式以降、白髪の少女についての目撃情報は増えていたわ。大して気にしてなかったけど……これはあなたのことね」

「……だとしたら?」

「私達……いいえ、最初は晴彦のことを見ていたんでしょうね。そして今度は私達に目をつけたあなたは、誰がくみしやすいかを考えた。あなたの言う計画のために。そして出した結論が朝道さんだった。夕森さんは性格的にあなたに手を貸すことはないでしょう。朝道さんは……言っては悪いけど、彼女は動かしやすい人だわ。晴彦をだしにすれば御するのも簡単でしょうしね。そして、私がダメだった理由は……勝てないから」

「勝てない?」

「私のことを見ていて気付いたんでしょう。頭では私には勝てないって。足元をすくわれるかもしれないって。それが怖かったんでしょう?」

「怖がってなんかない!」

「いいえ、あなたは恐れていた。私の存在を。だからこうして勝利を確信するまでは出てこれなかった。圧倒的優位を確保するまでは」

「……ふん、それがわかったところでなんだっていうの。もうどうしようもないのにさ」


(落ち着いたか……これ以上言葉で揺さぶるのは無理かな。彼女がボクのことを異常に敵視してるからいけるかと思ったんだけど)


 雫に乗せられて熱くなりかけていた霞美は、すんでのところで冷静さを取り戻す。


「本当にそうかしら?」

「へぇ、じゃあ何ができるって言うのさ。言っておくけど、夕森雪を頼りにしてるなら無駄だよ。彼女の心はもう折れてるはずだからさ」

「…………」

「零音が言ってたんだ。彼女の心は私が折るって。そのための手助けもしたし、君はもう一人なんだよ」

「……それであなたは私をどうしようって言うのかしら」

「そうだなぁ、どうしようかな。洗脳してもいいんだけど……それじゃ面白くないよね」


 色々なことを想像して霞美はニヤニヤと笑う。


「君のその目が気に食わない」

「目?」

「まだ勝てるって、できることがあるって思ってるその目。こうしている瞬間も頭を働かせて状況を打開する方法を探してる。でもダメ。そんなのは認めない。君の心を私は折りたいんだ」


 霞美が指をパチンと鳴らすと、生徒会室に複数人の生徒が入って来る。全員、一様に目が虚ろになっている・


「これは……」

「私の奴隷ちゃん達。決めたよ。君には目の前で終わりの瞬間を見てもらう。それまではなにもできないように監禁させてもらうよ」


 雫の周りを囲むように立つ生徒達。その包囲は厚く、逃げ出せるような隙間もない。


「何もできないまま、終わっていく瞬間を目にする……その時君の目が絶望に染まるのが今から楽しみだよ」


 霞美に操られた生徒達に連れられて教室を出ようとする雫だったが、生徒会室を出る直前に振り返り、ジッと霞美のことを見据える。


「あなたは勝ちを確信しているようだけど……まだ終わっていないということを忘れないことね」

「何? それ負け惜しみ? 今さら何ができるっていうのさ。晴彦は洗脳済み。君は行動不能、頼りの夕森雪は零音に負けた。もうできることなんて何もないよ」


 大笑いする雫に霞美はなにも言わず、そのまま部屋を出て行くのだった。






□■□■□■□■□■□■□■□■


 がっくりとうなだれたままの雪に零音は近づく。


「ねぇ雪ちゃん。今どんな気持ちかな。もう勝てないって。できることは無いってわかった時の気持ちはさ」

「……最悪な気分だよ」


 雪はキッと零音のことを睨みつける。しかし零音は気にした様子もなく、むしろ嬉しそうだった。

 

「そっか、それはよかった」

「よかっただと?」

「もう何かしようって気力もないでしょ。そしたら私は安心できる。晴彦に近づこうとする邪魔な女がいなくなる」

「お前はっ!」


 感情のままに言葉を発しようとする雪。しかし、それをすんでのところで止める。


(ダメだ、今のオレが何言っても意味がねぇ……こいつの心には届かねぇ)


 雪のことを敗者として見ている零音は、その敗者からの言葉を聞かないだろう。

 なにより、雪自身が今の自分の言葉に説得力などないことを理解してしまっている。


(でもまだだ。まだ昼ヶ谷がいる。あいつに頼るのは癪だが、こうなったらそうするしか)


「ねぇ、もしかしてまだ先輩にならなんとかできるとか思ってる? でも無駄だよ。もう彼女の所にも行ったはずだからさ」

「行ったって誰がだよ」

「白髪の少女……私の協力者。霞美が先輩の所に行ってるはずだよ。なんでかしらないけど、霞美は先輩のこと異常に敵視してたからさ」

「それじゃあ……もう」

「今頃は先輩も洗脳済み……かな」


 まだそうと決まったわけではないと思おうとした雪だったが、雫と連絡が取れない現状や、零音の協力者である霞美の洗脳を目の当たりにしてしまっている事実が、なにより雪の心を打ちのめした。


「これで雪ちゃんの最後の希望も無くなった……じゃあね雪ちゃん。短い間だったけど……楽しかったよ」


 言い返すこともできず、うなだれたままの雪をその場に残して零音は晴彦と共にその場を去るのだった。



数日書かなかっただけで思ったように書けなくなってしまった……恐ろしい。やっぱり毎日やるって大事ですね。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は1月5日21時を予定しています。

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