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第106話 決着の水曜日 前編

クリスマスイブですねー。どこに行っても人でいっぱいです。

明日のクリスマスが楽しみです。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 水曜日。降り続けていた雨は一時的に止んではいるが、依然として空は厚い雲に覆われたままで、いつ降り出してもおかしくない様子だった。

 そんな空を見ながら雪は家から駅に向けて歩いていた。

 


「ホント、嫌な天気だ」


 ただでさえ気が憂鬱になるようなことばかりだというのに、天気までそれを後押ししているようで雪にはそれが憎くてしょうがなかった。


「いい加減太陽も姿見せてくれないもんかねぇ」


 言ってもしょうがないことだとは思いつつも、言わずにはいられなかった。


「結局、昨日の放課後も何の収穫もなかったしなぁ」


 晴彦と零音は授業が終わるなりさっさと家に帰ってしまったし、雫の言っていた白髪の少女を探して歩いてみたものの、見つかる気配すらなかった。


「あとは昼ヶ谷がどれだけ調べられたかだな。それに期待するしかねぇか。もう時間もねぇし」


 このまま何もせず手をこまねいていては零音の思う通りに物事が進んでしまう。時間が進めば進むほど雪に不利になってしまうのだ。


「ったく、あのバカが。見てろってんだ。オレは諦めねぇからな」

「おーい! 雪ちゃーん!!」


 ぼやきながら歩いていると聞こえてくる雪を呼ぶ声。その声に振り向くと、遠くから走ってくる鈴の姿があった。


「あ、鈴ちゃん。おはよー」

「おはよ雪ちゃん。えへへ、姿見つけたから走っちゃった」

「そんなに走らなくても待ち合わせ場所で会えるのに」

「だって雪ちゃんとちょっとでも長く一緒に居たいんだもん」

「なにそれ」

「えへへー雪ちゃんだー。雪ちゃんの匂いだー」

「ちょっと、もう。くっつかないでよ。暑いってば」

「その暑さは私の想いの熱さだよー」


(めんどくせーと思うけど……もう慣れちまったな。これにも。ホント、オレの何がいいんだか……変な奴だ)


 苦笑する雪。しばらくの間鈴にされるがままになりながら、鈴が満足するのを待つ。


「うん、これで元気満タンだよ!」


 テカテカと頬を光らせた鈴が言う。まるで雪から元気を吸収したかのように鈴は元気になっていた。


「アタシは逆に奪われた気がするけどね」


 元気になった鈴とは対照的に、雪はぐったりとしていた。


(前言撤回だ。全く慣れねぇし、次は全力で拒否ろう)


 内心でそう決意する雪。しかし、あの手この手で抱き着こうとしてくる鈴の手腕に翻弄されることをこの時の雪はまだ知らなかった。





 それから雪は鈴と共に学園へと向かっていた。その途中でのこと。


「そういえばさ、鈴ちゃん確かハルっちのことについて調べてたよね」

「え、そんなことしてないけど」


 別に意味があって聞いたわけじゃない。ただなんとなく思い出したから聞いただけだった。しかし、その返答は雪の予想していたものとは違っていた。


「え?」

「ハルっち……って、雪ちゃんのクラスにいる日向君のことだよね。いるのは知ってるけど、調べたりしたことなんてないよー。そんなことする理由もないし。知らない男の子の事調べるなんて変態みたいじゃん」


 冗談言わないでよと笑う鈴。その表情からは嘘をついている様子など全く感じられなかった。

 雪が晴彦のことを好きだと言ったことすら覚えていないようだった。


「嘘……じゃないみたいだね」


(なるほど……これか。これが昼ヶ谷の言ってたことか)


 俯いて、静かに拳を握る雪。

 昨日雫の言っていたこと。起きる変化がクラス内だけには限らないという言葉の意味……それを理解した雪は怒りを覚えていた。


(朝道のやつ……鈴にまで手だししやがったのか)


「どうしたの雪ちゃん。大丈夫?」

「……うん。ごめんごめん。変なこと聞いちゃって」

「別にいいんだけど……ホントに大丈夫?」

「大丈夫だってば」

「ならいいんだけど……あ、でも日向君のことで知ってることなら一つはあるかも」

「知ってること?」

「うんうん。幼なじみの朝道さんと付き合ってるって、こっちのクラスでも有名だよ」

「そうなんだ」

「朝道さんは入学当初から有名だし、その人に彼氏がいるとなったらそりゃ有名にもなるよー。でもいいよねー。昔から一緒の幼なじみと付き合うなんて。物語みたい」


 夢見る乙女のような表情で言う鈴。

 それを見る雪は複雑だ。


「ねぇ鈴ちゃん」

「ん、何?」

「その話ってさ、誰に聞いたのか覚えてる?」

「え? えーと……それは……あれ?」


 いつから知っていたのか、誰から聞いたのか。そのことを思い出せない鈴。


「そういえば……誰から聞いたんだっけ」

「覚えてないの?」

「うーん……ごめんね。思い出せないや」

「そっか。ならいいんだけど」


(やっぱ覚えてないか……もしかしたら覚えてるかと思ったんだけどなぁ)


「ところで、なんで日向君のこと聞くの?」

「なんでって……好きだから……かな」

「えぇ!? 好きって、日向君のことを!?」

「そうだよ」


 目を白黒させて驚く鈴。その反応にやはり忘れているのかと雪は若干落胆する。


「やめといた方がいいと思う?」

「それは……だって日向君には彼女がいるわけだし……本気なの?」

「本気だよ。本気で、レイちゃんに負けたくないと思ってる」


 真面目な表情で鈴に言う雪。


「……そっか」


 そこで会話が途切れ、学園に着くまでの間一言も話すことはなかった。





□■□■□■□■□■□■□■□■


「……ハル君? 聞いてる?」

「……え、あ、すまん。聞いてなかった」


 朝、学園に向かう道中。晴彦はいつものように零音と一緒に登校していた。


「もう、なんで聞いてないの」

「悪い悪い。ちょっと眠くてさ」


(まずい……なんも聞いてなかった。ていうか、一昨日くらいからボーっとすることが多いんだよなー)


 気が付けば時間が過ぎている。その間なにをしていたのか覚えていない。そんなことが増えていた。


「……あと少し……かな」

「ん、なんか言ったか?」

「ううん。なんでもないよ。ダメだよボーっとしていたら。危ないし」

「わかってるって。次からちゃんと気を付けるからさ」

「ホントに大丈夫? 熱とかあったりしない?」


 スッと近づいてきて額に手を当てる零音。その拍子に零音の匂いがふわりと漂い、晴彦の鼻腔を刺激する。その匂いを嗅ぐだけで、頭が零音のことでいっぱいになる。

 零音のこと以外気にならなくなって、零音のことしか見えなくなる感覚。その感覚に少しづつ思考が呑まれていく。

 目が虚ろになり、晴彦が棒立ちになったのを確認した零音はその耳元でそっと囁く。


「私のことだけ見ててね、ハル君。ずっと、ずーーっと」

「ずっと……零音のことだけを……」

「それでいいんだよ、ハル君。他の誰かのことなんて……全部忘れちゃえ」


 そう言って零音は酷薄な笑みを浮かべた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は12月26日21時を予定しています。

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