第103話 変化する火曜日 後編
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「…………」
和気あいあいと朝の時間を過ごす晴彦達。そんな彼らのことを訝し気に見つめる人がいた。
雪である。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
雪は近くにいた女生徒に声を掛ける。
「ん、何?」
「いや、なんていうか……おかしくない?」
「おかしいって何が?」
雪は零音がおかしいということはもうすでに昨日の段階で知っていた。しかし、今日は晴彦や友澤までいつもと様子が違う気がしたのだ。
「だっていつもハルっちもレイちゃんもあんなにベタベタしてなかったじゃん」
「何言ってるのよ。あの二人はいつもあんな感じでしょ」
「え?」
雪の言葉に対し、女生徒は何を馬鹿なことを言ってるのかという顔をする。
「いつもいつもイチャイチャして目に毒だったらありゃしない。あれで付き合ってないつもりなんだから信じられないよね」
「そんなはず、だっていつもは……」
零音と晴彦がお互いの事を好き合っているのは事実だ。しかし、二人はそのことに気付いていない。それに、雪の知る限り零音と晴彦は人前でイチャイチャするタイプではなかったし、少なくともこれまではそうだった。無自覚なもの以外は。
こうしている今も零音は晴彦の手を取り、隣に座っている。晴彦は何も言わずされるがままになっている。そして、そんな二人の様子をクラスメイト達はいつものこととして受け入れている。
「ユッキーどうしたの? 何か今日変だよ?」
「アタシがおかしい?」
(どういうことだ……あきらかにおかしいのはお前らだろ)
まるで自分だけ違う世界に放り込まれたかのような違和感に襲われる雪。しかし、この場においておかしいのは雪だという事実。
雪は頭が痛くなりそうだった。
(でも、だからって何もしないわけにはいかねぇ)
何かしなければこのまま零音に押し切られてしまう。この状況そのものが晴彦と零音の後押しをしているのだから。
(まずは二人を引き離す)
そう決めた雪は女生徒の傍を離れ、晴彦達に近づいていく。
「おはよー」
「あ、雪さん。おはよう」
「雪ちゃん、おはよう」
(チッ、オレが近づいても手ぇ繋いだままかよ)
雪が近づいても、零音は晴彦から手を離さないままだった。心の中で若干舌打ちをしながらも努めてそれを表情に出さないようにする雪。
「二人ともどうしたの? 今日は随分と仲良しな感じだけど」
言葉での探り合いが苦手な雪は直球で切り込む。
「そうかな? 私とハル君はいつもこれくらい仲良しだよ。ね?」
「え……あぁそうだな。いつものことだ」
一瞬だけ言葉に詰まる晴彦。それを雪は見逃さなかった。
(もしかして朝道の奴になんかされてんのか? だとしても何を……催眠……なんてわけないか。朝道の奴がそんなことできるなんて聞いたことないし、もし晴彦に催眠かけれたとしてもクラス全体になんてことはできねぇはずだ)
「雪ちゃんどうしたの? いつもは何も言わないのに」
その言葉を聞いた瞬間、雪は不思議な感覚に襲われる。
零音の言うように、いつも晴彦と零音の二人は教室でイチャイチャしていたじゃないかと、そう思いそうになっていた。
しかし、雪は頭を振ってその感覚を振り払う。
(なんだ……なんだ今の感覚)
零音に何かされたのだとしても、その何かが雪にはわからなかった。
そんな雪の様子を、零音はジッと静かに見ていた。
「どうしたの雪ちゃん」
「え、う、ううん。なんでもないよ」
「そっか。それで私達に何か用?」
表面上は穏やかに言う零音。しかしその本音は邪魔だからさっさとどっか行け、だ。そしてそれがわからない雪ではない。
(こんにゃろう……いい度胸じゃねぇか)
「ねぇハルっち」
「ん? 何だ?」
「ハルっちとレイちゃんは仲良しだから手を繋いでるんだよね」
「あぁ、そうだけど」
「アタシとも仲良しだよね」
「え、まぁそうだな」
「じゃあアタシとも手ぇ繋げるよね?」
雪が晴彦に向かって手を差し出すと同時、晴彦の目の前に選択肢が現れる。
1:『もちろんだよ、と言って雪の手を握る』
2:『ごめん、零音以外とは繋げない、と言って断る』
3:『じゃあ逆に二人で繋いだら? と言って雪と零音の手を繋がせる』
(選択肢か……これは別に1でも問題ないだろ)
そう思った晴彦が一番を選ぼうとしたその時、不意に頭に痛みが走る。
(っ……あ、いや。違う。俺は零音を攻略しないといけないんだから。零音の好感度が上がりそうな選択をしないといけないんだ)
頭に走った痛みが治まる頃には晴彦の考え方はまるっきり変わっていた。
(そうだ……だから1はダメだ。俺は零音の……零音の事だけを見ないといけないんだから)
「ごめん、雪さん。雪さんとは手繋げない」
「ハル君……」
「え、な、なんで?」
結局晴彦が選んだのは2の選択肢だった。
まさか断られると思ってなかった雪はうろたえてしまう。
「いや、雪さんが嫌とかそういうことじゃなくて……零音以外とは恥ずかしいっていうかさ」
「なら——」
「雪ちゃん、ハル君が恥ずかしいって言ってるんだから無理強いしちゃダメだよ」
「っ」
なおも詰め寄ろうとした雪の言葉を、すかさず零音が遮る。
その表情は雪に対して勝ち誇っているように見えた。それを見た雪は悔しさに顔を歪める。
「そ、そうだね。今回は、諦めよっかなー」
「なになにー、ユッキー日向君に振られたの? ドンマーイ」
「まぁいくら雪でも朝道さん相手じゃねー」
そんな一部始終を見ていたクラスメイト達は雪が晴彦に振られた振られたとはやし立てる。
クラス全体が雪の敵になったようで、雪は教室に居づらくなって出て行ってしまう。
「くそ、このままじゃまずい」
今の現状で雪に出来ることはこれ以上ない。何かしように、元の晴彦を抑えられてしまっているならば意味がないからだ。
そして、今の零音が晴彦の傍から離れるはずもない。
「なんとかして二人を離さねぇと……」
考えながらブラブラと廊下を歩いていると、前から担任の太田がやってくる。
「おい何してんだ。もうすぐ時間だぞ」
「あ、太田せんせーじゃん」
「あ、じゃない。早く教室に戻れ」
太田に教室に戻るよう促される雪。しかし、今の教室に戻るのはなんとなく嫌だった雪は適当に誤魔化すことにした。
「あー、お腹痛いんでちょっとトイレ行ってきまーす」
「なんだその今思いついたような言い訳は」
「いやホントですって、ホント」
「……はぁ、まぁいいがな。ホントに体調悪いならさっさと保健室行けよ。今日は井上も風邪で休んでるからな」
「え? めぐちゃんが?」
「あぁ、さっき電話があった。ついでに山城も風邪だそうだ。最近流行りだしてるのかもしれんから気をつけろよ。大丈夫だとは思うがな」
「……はーい」
「それじゃ、さっさと戻ってこいよ」
それだけ言って太田は教室へと向かって行った。
「このタイミングで山城と井上が休み? 偶然……なのか? あぁもう、なんもわかんねぇ。気は進まねぇけど、後であいつのとこ行くか」
起きている事態に頭を悩ませながら、雪は太田に言った言い訳の通りトイレに向かうのだった。
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次回投稿は12月22日21時を予定しています。