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第99話 想いに呑まれて

ようやく一つ大きな用事も終わり。作品に本腰を入れられるようになりました!

第一章終盤、全力で頑張っていきます!


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「あ、あの……わ、私、先に教室に戻ってるね!」


 零音からの質問に答えることなく、めぐみは教室から出ていった。

 その背中を零音は何も言わずにただ見送る。

 そこに


「…………まぁ、そりゃ答えないよね」


 誰もいなくなった教室で零音は一人呟く。

 めぐみが零音からの問いに答えないであろうことはわかっていた。めぐみは争いを好む性格ではない。今回のように詰められたなら、逃げることは想像に難くなかった。


「あららぁ、よかったの?」


 誰もいないと思っていた教室に突然霞美が現れる。


「……なにそのお菓子」

「んぐ、これはいいの。ほっといて」


 零音が声のした方に目を向けると、そこには両手いっぱいにお菓子を持ったままの霞美がいた。


「貰っちゃったからしょうがないしね。私のことはどうでもいいの。よかったの?」

「よかったって何が?」

「彼女、井上めぐみだっけ? 友達だったんでしょ?」

「あぁ……そのこと」


 今回の一件でめぐみと気まずくなるであろうことは零音にもわかっていた。

 それでも零音は質問したのだ。晴彦のことは好きか? と。

 その結果、めぐみからどう思われようとも。


「いいんだよ」

 

 めぐみの答えを、零音は受け入れるつもりだった。

 だからこそ、この現状にも動じていなかった。


「それに、友達だったって言ったよね?」

「うん? そうだけど?」

「それ間違いだよ」

「間違い?」

「井上さんは、今でも友達だから」

「あんなことしたのに?」

「彼女は逃げたから。私と、晴彦を天秤にかけて、答えられなくて逃げたの」


 零音との友情、晴彦への想い。どう答えたとしてもめぐみはどちらかを失う結果になっていただろう。それに耐えきれず、めぐみは逃げたのだ。

 そしてそれは奇しくも、零音の状況と似ていた。元の世界への想いと、晴彦への想い。どちらかを選んでしまえばどちらかを失う。

 違いはただ一つ、めぐみは逃げたのに対して、零音はまだ逃げていないということだ。


「逃げた井上さんはもう敵じゃないもの」

「あはははは! なるほど、なるほど。そういうことね」


 零音の言葉の意味を理解した霞美は腹を抱えて笑い出す。

 

「狂ってる、狂ってるよ! あー、可笑しい!」


 恋敵となるのであれば友達ではなく、恋敵にならないのであれば友達であり続けるという。それは酷く歪んだ友人関係だが、今の零音にはそんなことすら気にならないようだ。


「でもさ、君も酷いよね」

「酷い?」

「だってそうでしょ。ヒロインである君と、モブの彼女じゃ勝負にもなんないじゃん」


 『アメノシルベ』のヒロインであった零音と、ゲームの時は存在すらしていなかった名無しのモブであるめぐみ。そこに圧倒的差があるというのに、勝てるわけがないと霞美は思っていた。

 零音は、めぐみをモブ呼ばわりした霞美に対して苛立ちを覚えたが、それも一瞬のこと。

 そんなことはもうどうでもいいと零音は思っていた。


「そうだね。でもそんなの関係ない。晴彦の事を私から奪おうとするなら、たとえモブ相手だって容赦しない」

「それが君の選んだ道なんだ」

「うん。そうだよ。それより、あなたは何してるの? 本当に手伝う気があるの?」

「あるさもちろん。ちょっと準備してただけだよ」

「そう。ならいいんだけど。これで、あと二人だね」

「雫と雪の二人?」

「うん。そう。あの二人をヒロインの座から落とそう。ヒロインは、晴彦の隣にいるのは私一人でいいんだから」

「ふーん、なんか零音変わったね」

「変わった?」


 霞美は、以前の零音から感じていた優しさ……言い換えるならば甘さを感じなくなったと思っていた。

 そしてそれは、零音の中にあったストッパーが一つ無くなったということを示していた。

 人の事を気にする零音だったが、今はもう晴彦の事しか見ていない。


「全然そんな気はしないけど……変わったって言うならそれでもいいよ。それで晴彦が手に入るなら」

「それは安心していいよ。なんていたって私がついてるんだから」

「それが一番不安なんだけど」

「あっ、酷い!」

「冗談だよ」

「なんだよそれー。まぁいいや。ねぇ零音」

「何?」

「今週で全部終わらせよう」

「終わらせる?」

「今週で、晴彦を巡る戦いに決着を。今の零音とならそれができそうだ」

「……いいよ、そうしよう」


 霞美の言葉に零音は少し考えてから頷く。


「今度の日曜日までに、決着をつけよう」






□■□■□■□■□■□■□■□■


 それは偶然だった。双葉は用事を済ませた後に何気なく廊下を歩いていた。

 すると、前の方から走ってくる人がいた。


「ん? あれぇ~、めぐみちゃん?」


 しかしめぐみは双葉の存在に気付くことなく、双葉の横を通って走り去る。


「どうしたんだろぉ~。なんか変な感じだったけどぉ。もしかして泣いてた?」


 変に思いつつも、めぐみを追いかけるということもせずに歩いていると今度は前から零音がやってくる。


「ん、あれ、零音ちゃんだぁ~。久しぶりー」

「あ、先輩。お久しぶりです」

「……なんか変わった?」

「私ですか? 何も変わってませんよ」


 前に会った時よりもどこか余裕の滲む零音の態度に、双葉は少しだけ違和感を覚える。


「そうかなぁ。ならいいんだけどぉ。あ、そういえばさー。さっきめぐみちゃんが走っていったんだけど、何か知ってる?」


 双葉からしたら何気なく聞いた質問。同じクラスで友達同士の零音ならば何か知っているのではないかと思ったのだ。


「あぁ、それはきっと私のせいですね」

「……え? なんて?」

「井上さんが走っていったのは私のせいだと思います」


 なんでもないことのように答える零音。

 一瞬、聞き間違いかと思った双葉は思わず零音に聞き返す。しかし、帰って来る返答は先ほどと同じものだった。


「どういうこと?」

「別に何があったってわけでもないですけど。ただ聞いただけですよ。ハル君のことをどう思ってるのかって」

「それを、めぐみちゃんに直接聞いたのぉ?」

「はい、そうです」


 ここに至って双葉は零音に対して感じていた違和感の正体を掴む。


(友達を泣かせたにしては、態度が普通過ぎるよねぇ)


 前の零音なら、めぐみを泣かせるようなことがあれば走って追いかけていただろう。しかし、今の零音はどうだ。あまりに普通、自然体。まるでめぐみを泣かせたことなど気にしていないかのように。


「追いかけなくていいのぉ?」

「追いかけなくても、教室には戻ってきますよ。井上さんは真面目ですから」

「友達なんでしょ~?」

「友達ですよ。でも……だからなんだって言うんです?」


 その時、双葉は確かに零音の瞳に見た。彼女の、狂気の一端を。


(あぁ、この子は今壊れかけているなぁ)


 零音の中に見た狂気。それが零音を呑み込もうとしている。それが零音の心をおかしくしているのだということを双葉は直感的に悟った。

 そしてだからこそわかった。双葉自身の言葉では零音の心には届かないということを。


「それじゃあ私、教室に戻りますね」

「ねぇ零音ちゃん」

「はい。なんですか?」

「変わったねぇ」

「……ふふ、私、先輩に感謝してるんですよ」

「感謝~?」


 思いもよらぬ言葉が出てきたことに双葉は目を丸くする。


「先輩のおかげで、ハル君への気持ちに気付けましたから」

「……そう。それはよかったけどぉ。今の零音ちゃんに言われても嬉しくないなぁ」

「そうですか。それは残念です」


 双葉の言葉を気にも止めず、零音は教室へと戻っていく。

 その背を見送った双葉は、その場で深くため息を吐く。


「これってつまり遠回しにボクのせいでもあるってことだよねぇ~。しょうがないか~」


 零音に言葉を届かせるにはどうすればいいか。そのことを考えながら双葉は歩きだした。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は12月16日18時を予定しています。

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