第97話 不穏な気配
本いっぱい買って読んでたら書くのがギリギリになってしまったという。
面白い本読んでると時間忘れますよね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです!
「あぅう、雨は嫌だよ~」
晴彦と零音が学校に着いてから少ししてやってきた雪が机に突っ伏しながら言う。
「どうしたの雪ちゃん?」
「雨の日はできる運動も限られるし、何よりこれだよ、これ!」
プンプンと怒りながら髪を見せる雪。
「髪が上手くまとまらないんだよ~」
「あぁ、なるほどね」
「レイちゃんはそういうのないの?」
「私はそんなにかな」
「いいなー。羨ましい」
くせ毛な雪は雨の日なると髪がボサボサになってしまうので、それを直すのに時間を取られてしまうのが嫌だった。中学生の頃にあまりの鬱陶しさに髪をバッサリ切ってやろうとしたほどだ。それは鈴によって全力で止められたが。
「今週ずっと雨でしょ? もうそれだけで憂鬱だよ~」
「大変そうだな、雪さん」
「大変そう、じゃなくて大変なの!」
それからしばらくの間、雪の愚痴を聞き続けているとめぐみが教室に入って来る。
めぐみの姿を見て、一瞬表情がこわばる零音。
「お、おはよう、みんな」
「あ。メグちゃんおはー!」
「……おはよ、井上さん」
めぐみの姿を見た瞬間、零音が思い出したのは昨日のことだった。晴彦と仲睦まじく話すめぐみの姿。それを思い出すだけで胸を焦がすような怒りと嫉妬の炎が再燃する。それが理不尽なものであると理解していながらも。
表面上は平静を装いながらも、その内心はけして穏やかではなかった。
「? どったのレイちゃん」
「え、何が?」
「いや……んー、気のせい……かも。やっぱりいいや」
そんな零音の様子に、僅かながら違和感を覚えた雪だったが、その違和感もいつも通りに戻った零音の様子におかしいと思いながらも流してしまう。
「あ、そうだ。今日の宿題のことなんだけどさ——」
そうしていつも通りの日常は流れていく、僅かな、しかし確かな変化を見逃してしまったまま。
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昼休み、授業を終えた晴彦達は教室に戻っていた。
しかし、零音とめぐみだけは先生から教室の片づけを頼まれてしまったため、教室にはいなかった。
「あー、腹減ったー。授業長いんだよー」
「いや、もういい加減慣れろよ」
「部活なら何時間でも楽しいんだけどなー。授業は無理だわ。右から左へ抜けちまう」
教室に戻って来るなり友澤がぼやく。
「山城もそうじゃないのか? 空手やってる時とか、時間一瞬だろ?」
「確かにそうだな。しかし、俺は授業も嫌いじゃない。自分の知らないことを学べるというのは有意義なことだからな」
「いや、オレはそこまで思えねーわ。日向は?」
「まぁ俺も授業は苦手だけど嫌いではねーよ」
「はー、すげーなー」
「なになにー、何の話してるの?」
晴彦達が話していると、弁当を持った雪が近づいてくる。
「友澤が授業嫌だなって話してるんだよ」
「えー、なにそれ」
「夕森さんは嫌じゃないの?」
「アタシも授業は嫌いだよ」
「やっぱりそうですよね!」
雪からの同意を得た友澤は、我が意を得たりとばかりに晴彦と山城のことを見る。
「でも雪さん、中間の成績そんなに悪くなかっただろ?」
「あー、まぁそれはねー」
「え、そうなのか!?」
雪の中間テストの成績は167位。全体を見ても、半分よりは上の順位をしっかりとっているのだ。
しかし、それは雪の元の世界にいた時の記憶も関係している。さすがに一度習った内容であれば覚えやすいのだ。逆に言えば、一度習った内容であるのにそこまでの順位しか取れなかったとも言える。
「ほら、今回はレイちゃん達と一緒に勉強したしさ」
「あー、なるほどな」
とっさに出た言い訳ではあったが、あの地獄の勉強会を共にした晴彦は雪の説明に納得する。それだけの説得力があの勉強会にはあったのだ。
「なんだよー。夕森さんも勉強できる側の人間かよー」
「いや、別にできるわけじゃないんだけど」
「山城も順位よかったよな」
「良いかどうかはわからないが、今の俺ならばこれくらいだろうと思っている。次はもっと上を目指すがな」
「向上心すごいな」
「文武両道を目指すべきだからな。それに、朝道と井上の二人には届かなかった」
「まぁあの二人はねー」
「オレには勝てるビジョンすら見えねーよ」
「なんなら、今度は俺と一緒に勉強するか?」
「やだよ。せっかくなら朝道さん達と一緒に勉強したい」
「「それはやめといた方がいい」」
何も知らない友澤の言葉に、雪と晴彦の二人は本気で止めに入る。
「な、なんだよ二人とも」
「トモっちは知らないだろうけど、あれは地獄だよ。人の皮を被った勉強の悪魔だよ」
「見た目に騙されるな。いつだって悪い奴は天使のような姿をしてるんだ」
その場に零音がいないのをいいことに、雪も晴彦も好き放題言う。もしこれを零音が知ったなら、二人とも強制勉強会コースであっただろう。
「そ、そんなにか?」
「そんなにだ」
「ちくしょー。俺は大人しく一人で勉強するしかないのか」
がっくりとうなだれる友澤を差し置いて、三人は机を繋げて昼ご飯を食べれる形にする。
校外学習以来、その時のメンバーでご飯を食べることが多くなっていた。雪は別のグループに行ったりすることもあるが、基本的に晴彦のいるこのグループにいることが多くなっていた。
「どうする? 二人待つ?」
「いや、もう先に食べてていいだろ。友澤とかお腹空いてるみたいだし」
「そのとーり」
答えるように友澤のお腹が空腹を訴えて鳴る。
「そっか、それじゃ先に食べよっか。二人もすぐに戻ってくるだろうしね」
「そうだな」
そうして四人でご飯を食べていると、ふと思い出したかのように雪が晴彦に聞く。
「そういえばさー」
「ん、どうした?」
「なんか今日のレイちゃん変じゃなかった?」
「変?」
「うーん、なんかいつもと違うっていうかさー。上手く言えないんだけど」
上手く言葉にできず首を傾げる雪。朝に感じた妙な違和感から、雪は零音のことを見ていたのだが、表面上はいつも通り。しかし、どこか心ここにあらずといった様子に見えたのだ。
「あぁ、確かに変だったな」
雪の言葉に山城も頷く。
「俺も上手くは言えないが、どこか危うさを感じた。日向が何も言わないのであればと思ったんだが、気付かなかったのか?」
「……まったく」
「そうか……いや、日向だからこそ気付かなかったのかもな」
「あぁ、なるほどね」
「どういうことだ?」
「え、オレも全然わからなかったんだけど」
「そう気づくものじゃない。むしろ、夕森が良く気付いたなというレベルのものだ」
「ハルっちでも知らなかったら誰に言ってないだろうしねー」
「そうだな」
「零音の様子……いつも通りに見えたんだけどな」
「気づかなかったのはお前が悪いわけじゃない。そうそう気付けるレベルのものではなかったしな。それにおそらく、朝道はお前には絶対気付かせないようにしていただろうし」
「なんでだよ」
「心配させたくなかったんじゃない?」
「俺にはすぐ話せって言うくせに」
「ま、女の子にはいろいろあるんだよ。色々ね。気になるなら聞いてみたら?」
「……そうだな、そうするか」
本当に零音に何かあったなら力になりたい、そう思った晴彦は零音とめぐみが戻って来るのを待つことにしたのだった。
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次回投稿は12月13日21時を予定しています。