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第93話 めぐみの日曜日 後編

できれば今年中に第一章を終わらせたい……という希望ですね。頑張ります。

今回は後半に一人称を入れてます。



誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「ひ、ひひひ、日向君!?」


 驚きのあまり声が裏返るめぐみ。

 そこまで驚かれると思ってなかった晴彦は思わず面食らう。


「う、うん。俺だけど……え、なんか驚かせるようなことした?」

「う、ううん! 全然、全然そんなことないよ。ご、ごめんね」

「いや、別に謝ることないけど。井上さんは……本買いに来たんだ?」

「そ、そうだよ。ちょっと欲しい本があったから」


 なんとか必死に心を落ちつかせて晴彦と話すめぐみ。

 表面ではいつも通りの自分を取り繕ってるが、その内心ではミニめぐみ達が突然晴彦と会えた喜びにのたうち回っていたり、なんの準備もなくであってしまったがゆえに、自分の体臭を心配していたりなどなど様々だった。


「ひ、日向君はどうしたの?」

「あぁ、俺は生徒会長の家に遊びに行ってたんだよ。ゲー……べ、勉強でわからないとこはないかって言われてさ」


 思わず雫とゲームをしていたと言いそうになった晴彦。しかし、そこで雫がゲーム趣味を隠してしたことを思い出し、寸前で止める。


「そうなんだ。偉いね。私なんかテスト終わったからって今日はずっと本読んでたよ」

「あー……うん」


 めぐみに純粋な目で見つめられた晴彦はさっきまでずっとゲームして遊び呆けてましたとは言えず、思わず目を逸らす。


「そ、それよりもさ。えーと……か、可愛いね、その服」

「えぇ!?」


 話を別の方向に持っていく方法はないかと必死に頭を働かせた晴彦は、とっさにめぐみの服を褒める。

 それは昔、零音に言われたことだ。服にそれほど興味がなかった晴彦は、出かけるたびにしっかりとおめかししていた零音に気付かず、しこたま怒られたことがあったのだ。それ以来、零音と出かける時にはちゃんと服装を見るようにしている。

 女の子の服はちゃんと見るというのが無意識のうちに癖になっていたのだ。零音に対して以外でそのことを口にすることはほとんどないのだが。

 対するめぐみは、まさか服のことを褒められるとは思っていなかったので、嬉しさやら恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「いつもと雰囲気が違って、エ……じゃなく、大人っぽく見えるし」


 めぐみが着ていたのは肩出しのストライプシャツだ。めぐみは気付いてなかったが、そのストライプシャツは比較的薄手だったということもあって、いつもなら目立たないようにしているめぐみの胸が強調されていた。


「そ、そうかな……ありがと」


(ナイス、ナイスだよアキ君!)

 

 思わず心の中でガッツポーズするめぐみ。

 帰りにコンビニで秋嘉の好きなお菓子を買って帰ることを決めた。

 秋嘉に着替えろと言われても渋っていたくせに、現金な姉である。


「俺なんか服のこと全然わかんないからさ、ちょっとコンビニに行くくらいなら部屋着のまま出ちゃうし。それで零音に怒られたりするんだけど……井上さんはそういうことなさそうだな。ちゃんとしてそう」

「うっ」


 私も日向君と一緒です、とは言えないめぐみ。それはめぐみの乙女心が許さなかった。外ではちゃんとしているめぐみだが、家に帰ると案外ずぼらだったりする。弟の秋嘉の方がよっぽどちゃんとしていた。


「そ、そんなにちゃんともしてないけど……うん、外に出る時はちゃんと着替えるかな」

「俺もそうしないといけないんだど……なんか面倒なんだよな」

「もう高校生だし、そういうとこもちゃんとしないとダメかなって思って」

「そうだな。俺も井上さんのそういうとこ見習うよ」


 晴彦に疑い無き目で見られて、めぐみはこれから外に出る時はちゃんと着替えることを心に誓った。今は嘘でも、これから本当にすればいいの精神である。


「あ、これ以上引き留めて帰るの遅くなってもよくないし、そろそろ帰ろっか」


 ふと駅前の時計をみた晴彦が言う。

 あたりも少しずつ薄暗くなり始めていた。


「あ、ホントだ」


 めぐみも秋嘉にはコンビニに行くとしか言ってなかったことを思い出す。これ以上帰るのが遅くなったらさすがに心配されるかもしれない。


「それじゃ帰ろっか」

「う、うん。また明日ね」

「また明日」


 晴彦に別れを告げためぐみは、足早に駅構内へと向かう。

 本を買えた喜びと、思いがけず晴彦に会えた喜びでその足取りは軽かった。

 しかし、不意にめぐみは悪寒に襲われて足を止める。


「……? 何?」


 あたりを見回しても、誰もいない。いるのは電車に向かう人ばかりだ。

 急いでいる人ばかりで、誰もめぐみに意識など向けていない。


「気のせい……だよね」


 さっきの電車と同じで、自分の気のせいだと思っためぐみは、首を傾げながらも電車に乗り込み、家に帰ったのだった。

 それが気のせいではなかったということに気付かないまま。







□■□■□■□■□■□■□■□■



「…………」


 夜野さんと今後の事について話合って別れた後、すぐに帰る気にはならなかった私はぶらぶらと歩きまわり、気付けば夕方近くなっていた。

 さすがに夜ご飯を作らなければいけないと思った私は雨咲市に戻ってきて、駅前のスーパーで買い物をしていたのだ。


「はぁ……晴彦に会いたいな」


 夜ご飯のことを考えようとしても、どこか気分が乗らずに沈んだままだった。その原因は言わずもがな夜野さんである。

 私は彼女の正体を知らない。何を考えているかも知らない。本当に私のことを可哀想に思って手を貸そうとしているわけではないこともわかっていた。

 それでも手を取ったのは、私が弱かったから。彼女の手を拒めるほどに、私の心は強くなかった。

 もう後には引けない。それは理解している。でも、後悔がないわけではないのだ。

 精神的に疲れてた私は、晴彦に会いたいとだけ思っていた。

 そうすれば、この嫌な気持ちも忘れられる気がしたから。

 

「あ……」


 そう思って歩いていると、駅前で晴彦の姿を見つける。

 何をしていたのか、ということを考えるよりも前に晴彦の所へ行こうとした私はしかし、途中でその足を止める。

 晴彦が、私に気付くよりも前に別に人物……井上さんと話し始めてしまったから。

 楽し気に話す二人、私の位置から二人の声は聞こえない。

 その距離が、私と晴彦達との距離が、そのまま心の距離のように思えた。

 自分はこんなにも離れているのに、なぜ井上さんが晴彦の傍にいるのか。その場所は、晴彦の傍は私のものなのに。

 黒い感情ばかりが零音の心を支配する。


「っ………」

 


 なんで、どうして、みんなみんな私から晴彦を奪おうとするの?

 ずっと晴彦の傍にいたのは、晴彦のことを支えてきたのは私なのに! 

 あなたも……井上さんもそうなの? 昼ヶ谷先輩や、夕森のように私から晴彦を奪おうとするの? 


「そんなの……許さない」


 抑えようとしても、抑えようとしても次から次へと黒い感情は湧いてくる。

 

「奪わせない……晴彦は、晴彦だけは。私はもう……二度と失いたくないんだから」





めぐみ「アキ君!」

秋嘉「うわっ、びっくりした! お、お帰り」

めぐみ「ただいま。アキ君、これあげる」

秋嘉「なにこれ、お菓子? なんで急に」

めぐみ「まぁちょっとね。いいことあったの」

秋嘉「? えーと、良かったね」

めぐみ「うん」


 その後、ご飯を食べている間も終始機嫌の良かっためぐみを秋嘉は奇妙なモノを見る目で見ていた。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は12月8日21時を予定しています。

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