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第90話 零音の日曜日 後編

最近タイトルを適当につけすぎかもしれない。もっと頭捻らないとだめですね。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。


 霞美に連れられて入ったファミレスで、零音は少し早めの昼食をとっていた。


「んー! ハンバーグ美味しいねー!」


 先ほどまで商店街で大量に食べていたのに、まだまだ食べれる様子の霞美。体は零音よりも小さいというのに、どこに入るというのだろうか。


「夜野さん、あれだけ食べたのにまだ食べれるの?」

「そりゃだって、あれはスイーツで、これはご飯だもの。甘いものは別腹だよ」

「タコ焼きとか肉まんとかも食べてたけどね」

「そういう零音こそ食べないの? さっきから全然箸が進んでないけど」

「夜野さんの食べてる姿見てるだけでお腹いっぱいだよ」

「ふーん、変なのー」


 あまりお腹の空いていない零音は軽食だけ頼んで、後は何も頼んでいなかった。霞美がどれだけ食べるかわからないので、財布が心配だったということもある。

 零音は晴彦のようにゲームを買ったりすることがないため、お金はそれなりに持っているのだが、それでも今日の霞美の食べっぷりを見ていると不安になった。


「……それで、結局今日はなんで私のことを呼んだの?」


 さきほどはぐらかされた質問。なぜ零音のことを呼んだのかということを改めて零音は霞美に問う。


「あー、そのことね。それじゃあ話そっか」


 指についたソースをペロリと舐めながら言う霞美。

 身にまとう雰囲気がどことなく変化したのを零音は感じていた。


「それは」

「それは?」

「……ご飯を奢ってもらうためだよ」

「は?」

「私お金もってないからさー。普段は適当に人騙して食べてるんだけど。せっかくなら零音に奢ってもらって、お腹いっぱい食べようかなーって思って」


 あっけらかんと言う霞美。あんまりといえばあんまりな理由に零音は思わず呆然としてしまう。

 どんな重大な用事があるのかと思えば、ただご飯を食べたかった。そんな理由を言われて驚くなという方が無理だろう。


「……ぷっ、あははははは! 何その顔。変なのー!」


 思わず固まってしまった零音の表情を見た霞美は笑い出す。

 

「冗談だよ、冗談。そんなわけないでしょ」

「冗談?」

「そうそう。私が零音を呼び出した理由はちゃんとあるから心配しなくてもいいって」

「……性格悪い」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 睨むように零音が言っても、霞美には全く動じた様子はない。むしろわざと零音のことを怒らせようとしているような節まである。


「まぁでも、それを話す前に一つだけ聞きたいことがあるんだよ。そう、君の晴彦への想いをね」

「晴彦への?」

「君は私の手をとった」

「…………」


 初めて霞美と出会った日。晴彦と結ばれるための手伝いをするという霞美の提案を零音は断れなかった。

 霞美がどういった人であるのかということを零音は知らない。むしろ、信頼するべきではない人物だと思っている。

 でも、それでも零音は霞美の手を取った。


「晴彦への想いを胸に、私の手を取るというなら……君は示さなければならない。その想いを。願いを」


 ジッと零音に目を見据えて言う霞美。そこにさっきまでのふざけた様子はない。真剣に、零音の晴彦への想いを見ようとしてた。

 突然霞美が大人になったような錯覚すら零音は感じていた。

「どっちがあなたの本当なの?」


 さっきまでの色んなものを食べて喜んでいた霞美と今の霞美。同じ人物とは思えないほどの変貌ぶりに零音は戸惑っていた。


「それを決めるのは君だよ。さぁ、聞かせて。君と晴彦の話を」

「私と……晴彦の」


 問われて、零音は改めて考える。見つめ直す。自分の中にある晴彦への想いを。


「初めて晴彦に出会った時、こいつが主人公なのかって思った」


 高校生ではない晴彦。零音の知らなかった晴彦。将来主人公になるとわかっていても、とてもそうは見えなかった。

 でもその頃から主人公らしい片鱗はあって、一人でいる零音のことをやたらと構ってきたり、遊びに誘ってきたりしてきた。


「小学校の頃には私もこの世界に慣れてきて、晴彦と一緒にいるのも当たり前になってた」


 一緒に登下校したり、休みの日は一緒に遊びにいったり。晴彦の両親が仕事で家を空けることも多かったから、零音の家に泊まることも多かった。この頃から零音も料理の勉強を始めたりして、よく晴彦に振る舞っていた。失敗してしまった料理を出しても苦笑いしながら美味しいと言ってくれたこと嬉しかったのを覚えている。


「そして、中学生になって私は晴彦への想いを自覚した」


 それは一度目の自覚。この時の零音はその想いから逃げてしまったけれど、確かに零音の中には晴彦への想いがあった。目を背けても晴彦への想いはなくなったわけじゃなくて、どんどん男らしくなっていく晴彦の姿を零音は覚えている。


「中学生になると、色恋沙汰に興味を持つ人も多くなって、それに私と晴彦が巻き込まれたこともあった」


 中学生になって男らしくなっていく晴彦。しかし成長していたのは零音も同じだ。どんどんと女らしく、綺麗になっていく零音に惹かれる男子は少なくなくて、だからこそずっと一緒にいる晴彦が目の敵にされたこともあった。

 その逆に、晴彦のことを好きになった人が零音の事を疎ましく思って問題が起きたこともある。でも、その全てを二人で乗り越えてきたのだ。


「ケンカしたこともあったけど、最後には仲直りできた」


 語るたび、思い出すたびに、零音は自分の中でドンドンと晴彦への想いが膨らんでいくのを感じていた。


「そして高校生になって……私は晴彦への想いを、受け入れることができた」


 校外学習の最後の日、どうしようもなく突きつけられた自身の想い。

 それはずっと押さえつけてきた想いも合わさって、零音の心を貫き、そして今もなお零音の中で暴れ続けている。さらにさらに大きくなって。


「私は、晴彦の隣にいたい。今も昔も過去も、誰にだって譲らない、譲りたくない。この一瞬一秒も、晴彦のことを考えていたい」


 しかし、大きすぎる想いというのは人にとって毒でもある。ゆっくりと、しかし確実に心を侵食し、呑み込んでいく。

 零音の晴彦への想いはそれほどまでに大きくなっていた。そんな彼女を押しとどめているのは、零音の中にある元の世界への想いだけだ。


「晴彦の笑顔を見ていると心が温かくなるの、怒っていたり、悲しんでたら私も悲しくなる怒りたくなる。晴彦の楽しいは私も共有したい、私の楽しいも晴彦に知ってもらいたい。私のことを見て、私のことだけを見て笑っていてほしい。寝ても覚めても晴彦の傍にいたいの、傍にいて欲しいの。夢の中でだって離れたくない。晴彦の食べるものだって本当なら私が全部作ってあげたい。外食なんて許さない。そうやって晴彦の体を作るものが全部私の料理で形成されていったらそれは素晴らしいことだと思わない? それだけじゃないよ。晴彦がして欲しいって言うならお風呂だって入れてあげるし、着替えも歯磨きもなんだってやってあげる。やってあげたいの。おはようからおやすみまでずっと一緒なんて素敵だよね。ねぇ知ってる? 晴彦の寝顔ってすっごく可愛いんだよ。最近、毎日毎朝ずっと撮ってるの。すぐにスマホの容量がいっぱいになっちゃうのが難点だけどね。夜にパソコンにデータ移しながら撮った写真の確認するのが最近のマイブームなんだ。そうそう、パソコンと言えばね、晴彦の音声を録音してるんだけど、その音声を使って色んな言葉を言わせるの。零音好きだよ、とか愛してるよ、とか、実際に晴彦から言われたわけじゃないけどそれだけもテンションあがっちゃうよねいつか本当に晴彦から、なんて考えてるけどまだ早いよね。それにシチュエーションも大事にしたいし。晴彦のことを考えてるだけで幸せになれるのだって、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、いくら言葉にしたって足りないくらいに——大好きだから」

 

 語っていくうちに、零音の瞳の奥にドロドロとした感情が渦巻くのを霞美は確かに見た。それは確かに愛であるのだが、それだけではない。

あるいはそれを人は狂気と呼ぶのかもしれない。


「くふふふ、あははははははははは!! いいよ、それでこそだ。そうでなければならない!」


 期待以上だった零音の晴彦への想いの吐露に、霞美は湧き出る笑いを抑えきれなかった。


「君は覚悟なき少女だ。でもその想いは素晴らしい。だからこそ手を貸す価値がある」

 

 今の零音にあるのは想いだけだ。その想いを形にするための力と覚悟がなかった。


「聞かせてもらったよ君の想いを。約束通り手を貸そう。あらためてよろしく、零音」


 ニヤリと悪魔のように笑って手を差し出す霞美。

 零音に雪や雫のような力も、覚悟もなかった。そのために晴彦を奪われる可能性があるとうのであれば、たとえどれほど悩んだとしても、零音にはその手をとる以外の選択肢はなかった。

 それが、晴彦と結ばれるための道だと信じて。






今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は12月3日21時を予定しています。

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