第89話 零音の日曜日 前編
12月になりましたね。今年ももうすぐ終わりだと思うとあっという間ですねー。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
晴彦と雫が過ごした時間から遡り、日曜日の朝のこと。
零音は晴彦を起こして朝食を食べた後に用事で家を出ていた。
しかし、その顔はどこか憂鬱そうだった。
「……はぁ」
思わずため息を吐く零音。待ち合わせをしている零音だったが、その足取りは決して軽くない。
本来ならば晴彦と過ごしていたはずの日曜日。それを無為にしてまで出かけないといけない理由が零音にはあったのだ。
しばらく歩いて待ち合わせ場所へとやって来た零音。そこは学園の裏手にある森の中だった。当然ながら人気などあるわけもない。
夏も近づいて来て増えてきた虫の不愉快さに若干顔をしかめながら、零音は目的の人物がやって来るのを大人しく待つ。
「まだ……来ないかな。時間にはちょっと早いし」
することもなくて暇な零音はスマホを弄ろうとするが、場所が悪いのか圏外となっており、しぶしぶ諦める。
何もすることがない中、人を待ち続ける零音。しかし、その人は約束の時間が過ぎてもやってこない。
十分、二十分と時間がすぎるにつれて流石の零音も徐々に苛立ちが募る。
「……遅い」
思わず呟く零音。すでに約束の時間から三十分以上経っていた。
場所が場所だけに、待っているのも楽ではないのだ。
「もう帰ろうかな」
いっそ約束をすっぽかして家に帰ってしまおうかと考えていた時に、その人はやってきた。
「いやー、ごめんね。昨日寝たのが遅くってさ。全然起きれなかったよ……どうしたの? そんなに怒って」
「理由わからないの……夜野さん」
全く悪びれる様子なく言い放つ霞美を睨む零音。
零音の待ち合わせ相手は霞美だったのだ。
「うん」
「時間」
「え、もしかして遅れてた?」
前回会った時に素を見られてしまったからか、霞美は取り繕う様子もない。
「あー、ごめんごめん。私時計持ってないんだよね」
「それなのに時間は指定するの?」
「そこは体内時計でいけるかなーって。自信あるんだよね」
「自信あっても合ってないじゃない」
「ま、そういう日もあるよねって話」
「……はぁ、もういい」
霞美には何を言っても無駄だと悟った零音は深くため息を吐く。
「ダメだよため息ついちゃ。幸せが逃げちゃうらしいから」
「あなたのせいだけどね。それで、今日は一体何の用事なの」
霞美に言われてこの場所にやって来た零音だったが、その内容までは聞いていなかった。
「んー……まぁ今言っちゃってもいいんだけど……」
少し考え込む仕草をする霞美。
「それよりもお腹空いたから移動しよっか」
「え? ちょっと」
何かを思いついたらしい霞美に連れられて、零音は森を出たのだった。
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霞美に連れられてやって来たのはいつも行っている商店街とは違う、隣の市にある商店街。日曜日ということもあって人通りも多かった。
「よーし、着いたよー! あー、いい匂いだなー。何食べよっかなー」
商店街に着くなり目を輝かせる霞美。その様子は見た目の幼さと相まって、とても可愛らしく見えるが、その中身をしっている零音はそうは思えない。
「なんなのもう」
「あ、そうだ。私お金持ってないからよろしくね」
「え? ちょっと!」
さらっと聞き捨てならないことを言い残して駆け出す霞美。
慌てて霞美の後を追いかけるが、すでに霞美は商店街にあるお店で注文している最中だった。
「すいませーん、たこ焼き一つくださいな」
「はいよ」
「ちょ、ちょっと。あなたお金持ってないんでしょ」
「うん。だ・か・ら、お願い!」
「なんだ、その子のお姉さんか? あんたも一つどうだい」
「あ、いえ。私はいいです」
「そうかい。あい、たこ焼きお待ち」
「うわー、ありがとおじさん!」
「あぁもう」
商品まで受け取ってしまってはお金を払わないというわけにもいかない。
断ることもできるが、それでへそを曲げられていなくなってしまったら零音には霞美を探す方法がない。
つまり、零音はお金を払うしかないのだ。
「お姉さん美人だからな、ちょっとまけてやるよ。また妹さんと一緒にきてくれよ」
「あ、ありがとうございます」
零音と霞美のことを完全に姉妹だと思っているたこ焼き屋のおじさん。
いちいち訂正するのも面倒だった零音は何も言わずにまけてもらうことにした。
「あひあとねー」
「……とりあえず飲み込んでから話して」
「わはったー……んぐ、いやー美味しいね。たこ焼き食べたの久しぶりだよ」
「それはいいけど。なんで私があなたのお金払わないといけないの」
「まぁまぁ、固いこと言わないで。あ、あれ美味しそう!」
再び何かを見つけたらしい霞美がひょこひょこと走り出す。
そして、そこからが零音にとっては地獄だった。
たこ焼きに始まり、かき氷、クレープ、肉まんと次から次へと食べること食べること。
零音の制止など全く聞かず、ただ食べたいままに食べていった。そして途中から零音は諦めた。
「うーん、美味しいねー。ここの商店街は当たりだったかも」
「それはよかったね。おかげで私の財布はだいぶ軽くなったけど」
「んぐんぐ、そうなの?」
「全く……ほら、ほっぺにクリームついてるよ」
皮肉気に言う零音。しかし霞美にはそれを気にする様子など無い。
しかし零音も霞美の食べる姿を見ていて、少しだけ可愛いなと思ったのは内緒の話だ。
「…………」
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ」
零音に頬のクリームをふき取られた霞美が不思議そうに零音のことを見つめる。その視線に込められた意味は、霞美にしかわからない。
「それよりさ、お昼ご飯どこで食べよっか」
「まだ食べるの!?」
霞美と零音の日曜日はまだ始まったばかりだ。
零音「あなたの食べてるの見てると胸やけしそう」
霞美「まだまだ序の口だけどね」
零音「その体のどこに入ってるの?」
霞美「女の子の体の不思議だよね」
零音「私も同じ女なんだけどね」
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次回投稿は12月2日18時を予定しています。