起
企画能力、文章を書く能力を鍛えるため、一話作成しました。
数年後に自分が本作を見た時、
「詰めが甘い」と鼻で笑えるよう、日々成長したいと思います。
●1章
??「──こんなハズじゃなかった…」
呟いた声が、吹き荒ぶ冷たい風に飛ばされ消える。
??「はぁ〜…、なんでもっと上手く生きられなかったのかなぁ」
先程から意味のない言葉を発しているのは僕、立見達矢、二十歳の大学3年生だ。
達矢「ホント、なんでこんなに金に困ってるのさ」
僕の現状を簡単に説明すると、お金がなくて困っている。
現にここ数日は、日に何度も消費者金融から返済の催促電話が鳴っている。
達矢「まぁ、出るわけないけど。 ない袖は振れないって」
そんなこんなで、ニッチもサッチも行かなくなった僕は、自宅マンションの非常階段で物思いに耽っているのだ。
幾ら耽ったところで、名案が思い付く訳でもないけど…。
達矢「やっぱり親に言うしかないよなぁ…、怒られるんだろうなぁ…」
学生の身の丈に合わない借金、しかし親に泣き付けばどうにかなる可能性はある。
しかし問題点はもう1つあり……、
達矢「単位が足りなくて進級できないって聞いたら、もっと怒るだろうなハハハ」
乾いた笑いは自暴自棄、親へ話す勇気が出てないからこその逃避の笑いだ。
達矢「大学を辞めて働け!! とか言われるのかな。 嫌だなあ、もっと遊びたいし」
元々の借金をした理由も遊ぶ金欲しさだ。
バイトもせずに飲み会、麻雀、パチスロ。 お小遣いで賄える訳がない。
達矢「親に言う決心が着くまでここにいよ…」
なんて言ってみたものの、決心なんて着く訳がない。今まで生きてきた僕が自分のことを一番知っている。
自他共に認める優柔不断男子のレッテルは伊達ではないのだ。
達矢「親に言わないとなると、今日もこのまま家に帰るってことで」
先送りの発言をしたところで、何気なく非常階段の手すりから下を覗き込む。
僕が立っている場所はマンションの外に剥き出しで取り付けられている非常階段の9階。
この周辺は住宅街のため、それなりの数の灯りが煌めいているのだが、僕が立っている場所の真下は、地表も見えない暗闇だった。
冬の冷たい風と恐怖心が合わさり、ブルッと身震いする。
達矢「……これは、選択肢に入れちゃダメだよなぁ…」
お金による苦悩も親に怒られる心配もしなくていい選択肢、『自殺』。
これから我が身に怒るであろう(自業自得の)災難を思うと、とても魅力的な選択肢のように見えるが…、
達矢「残念、僕には自分で自分の命を絶つ勇気なんて、ないんだよね」
なんの身にもならない自己分析と現状を把握したところで、
達矢「そろそろ家に帰ろうかな」
結局この日も結論を先に延ばし、手すりから身を離し向き直ると、
??「あら…、自殺、はなされないんですか?」
達矢「うっ、ひゃわぁ!!」
驚いて上体を反らしたせいで、非常階段の手すりに背中をぶつける。
背中の痛みはそれほどでもないが、自分の驚き声が珍妙過ぎることに瞬間で自己嫌悪…。
??「あらあら、驚かせてしまってごめんなさい」
達矢「いっ、いえ! こんな所に自分以外の人が来るとは思わなくて!」
??「ふふ、人影が見えたので少し気になって来てしまいました♪」
なぜか楽しそうに話し出したこの女性は、全身が黒で埋め尽くされていた。
つば広の黒い帽子を被り、長く黒いワンピースを身に付け、黒いタイツの上から黒い靴を履いている。
ただ肌が見えている顔と手首から先は、薄暗いこの場所では目が覚めるほど白かった。
??「思い詰めた顔をしてらっしゃいましたけど、どうかされたんですか?」
達矢「あ、いえ!なんでも!」
突然話しかけられた衝撃と見た目のインパクトで、緊張が解けず声が上ずってしまう。なんとも小心者の自分らしい。
??「なにか、お悩み事でも? 私で宜しければ聞かせていただけませんか?」
いきなり悩みを聞かせてほしいなんて、宗教勧誘かなにかか?
こういった手合いには関わらないのが吉、僕の未熟な経験則からもそうするべきだと分かる。
…………しかし、
この悩みを吐き出して、少し楽になりたい、という気持ちも本音だ。
宗教、美人局、詐欺、アムウェイ、考えられる最悪の事態は多々あり、立ち去るべきだと頭では分かってはいるのに、
僕は『楽になりたい』という誘惑に負けてしまった。
達矢「僕の名前は立見と言います。 その、少し愚痴を話してもいいですか?」
??「ええ、ありがとうございます、立見さん。 それと、私のことはシロとお呼びください」
お礼を言われたことに違和感を感じる。
どちらかと言うと、これから陰鬱な話を聞かせる僕こそがお礼を言う立場だと思うのだけれど…。
達矢「えと…、シロさん? その、なにから話したらいいのか…」
それにしても、全身を黒尽くめの衣装で覆っていながら名前が『シロ』とは、洒落が利いている。
シロ「乱雑でも、思い付いたことからで構いませんよ」
達矢「それじゃあ…」
ンンと冷えた喉を鳴らし、声を発するために温める。
達矢「僕、昔から要領が悪くて、勉強もスポーツも自分なりに頑張っているのに結果は出なくて…」
達矢「って、僕の生い立ちなんて興味ないですよね。 なんかぐだぐだですいません」
シロ「いえ、大丈夫ですよ。 ゆっくりお話ください」
達矢「あ、ありがとうございます…」
達矢「それでまあ…、ご覧の通り喋り下手なせいもあって、大学でできた友人も離れて行ってしまって…」
達矢「……と言うより、僕のお金が尽きたから、が正しいかもしれません」
シロ「どういうことですか?」
達矢「僕、アルバイトもしていないんですけど、遊ぶお金が欲しくて、その…」
シロ「?」
僕の言葉の先をくみ取れないのか、シロさんが不思議そうな表情で僕の顔を覗き込む。
本当は理由が理由だけに話しにくいのだけれど…、
達矢「その、消費者金融でお金を借りてしまいまして…、それも複数店…」
シロ「ショウヒシャキンユウ……、ですか?」
シロさんから発せられた声色を察するに、消費者金融を知らないようだった。
達矢「消費者金融って言うのは、お金を貸してくれるところです。 もちろん無償ではなく、決められた期日までに借りた分と利子を足したお金を返すんです」
シロ「なるほど〜、そんな便利なものがこの世にはあるのですね」
達矢「でまあ、僕は決められた期日までに借りたお金と利子が返せずで…」
シロ「それは大変ですね」
達矢「毎日のように一緒に遊んでいた友人たちはいつも、金がない、金がない、と言うので僕がご飯代や遊び代を貸してあげてたんです」
もちろん、貸した金が必ず返ってくるなんて保証はなかったけれど…。
達矢「でも僕にお金がないと分かった途端、手の平返しですよ。 お金を返してくれるどころか、連絡すら取れなくなってしまって…」
自分で語っていて情けない。
要するに僕は、友人たちから金づるとしてしか見られていなかったということだ。
達矢「ってな感じで、自業自得な悩みなんですけどね」
重い空気にならないよう、自分自身を卑下するように薄ら笑いを浮かべる。
シロ「心中お察しいたします。 古今東西《ここんとうざい》、お金とは昔から人をまやかす道具でございますからね」
シロ「私自身ではどうすることも出来ませんが、お話を聞かせていただきありがとうございました」
達矢「い、いえ! 僕の方こそツマんない話をしてしまって…!」
いい人だな…、僕のどうしようもない身の上話を聞いてくれ、加えて優しい言葉をかけてくれるなんて…。
……って、これが宗教勧誘の手口だってネットで見たことあっただろ!
それなりにバカを見てきたんだから、いい加減に目を覚ませって!
シロ「今の…………メは……ですか?」
達矢「え…? あ、すいません! ボーッとして聞いてなくて!」
シロ「ふふ、大丈夫ですよ」
シロ「今の、立見さんの夢は、なんですか?」
達矢「え? なんですか急に」
シロ「夢ですよ、夢。 立見さんの夢はないんですか?」
う〜ん、これも宗教勧誘の一環なのか?
達矢「夢……ですか、夢、そうですね…」
僕の今の夢を語るとすれば、それは……、
達矢「借金の、帳消しですかね」
達矢「借金がなくなれば僕の悩みの種はなくなりますし、人生……、なんて言うと大げさですけど、やり直せますしね」
シロ「なるほど、地獄の沙汰も金次第と申しますものね」
シロ「さて、長くお時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
そう言うとシロさんは後ろを向き、立ち去ろうとする。
宗教勧誘ではなかったのか、今さらだけどホッとした。
シロ「お話を聞かせていただきありがとうございました。 その夢、叶うといいですね」
達矢「はは、そうですね」
シロさんが振り向き様に柔らかい微笑を浮かべながら言った言葉に、僕は気のない返事をする。
ここで気の利いた言葉が出てこないから、友人たちから『ツマラナイ人』のレッテルを貼られる金づるなんだろうな。
僕の下らない考え事を余所に、シロさんは靴をカツカツと鳴らし去って行く。
結局なんだったのか、ただ単に人の話を聞くのが趣味の変人?
しかし最初に言われた言葉には少しゾッとした。
その特異な姿も紡ぐ言葉も、まったくもって…、
達矢「不思議な人だなあ…」
起承転結は初めに作成しました。
書き上げ次第、順次投稿しようと思います。
今回は起承転結で言うところの『起』となります。