表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

天使のとらばーゆ

作者: 猫の迷宮

バブル崩壊後の価値観の転換を軽妙なタッチで描いてみました❗

夜中に窓がものすごく光って大雨になって大荒れだった翌朝は前夜の嵐のような天気が嘘みたいに晴れ上がっていて、あたしは偶然、あたしの住んでいるアパートの目の前にある小さな公園の砂場で一日の野良猫を保護したんだ。あたしは別段運命論者なんかじゃなくって、しごくまっとうな感覚で毎日をなんとかやりくりして生きているフツーのフリーターなんだけど、なんだかとっても神々しいその猫の姿を一目目にしたときから、まるで雷に打たれたみたいに天啓がひらめいて、この猫(牡)はあたしが守らなければ、なんて勝手に決めつけちゃったわけなの!彼のその真っ白い毛並みは全然汚れてなんかなくて、その瞳はオッドアイ、すなわち、向かって右眼がエメラルド、左眼がターコイズだった。どちらの宝石もあたしは本物を見たこともましてや身に付けたことなどないけれど、この猫の瞳に勝る地球上の宝石なんかない、とあたしは断言できるのだ!彼を抱き抱えて(彼はちっとも嫌がらなかった!)あたしのアパート(ペット禁止❗なんだけど)に連れ帰ってから、猫を一人(一人!)六畳間に残して、あたしは近所のコンビニで一番高いキャットフードを奮発して買って帰ってきたら、彼はな、な、なんと、あたしの愛用のパソコン(うちにはTVなんてない)の前に鎮座してなにか熱心にパソコンのディスプレイを注視しているのだった!あたしは猫と仲良く並んで彼が見ていた画面をチェキしてみたら、そこには驚愕のニュースが載っていて、あの「天国」が破綻したというのだ!ええ、「天国」って、そもそも実在していたの?ひょっとして「天国」が存在するのは自明の理でこのあたしだけが「天国」の存在を信じていなかったのかしら?「地獄」ならあたしでもあるような気がするけどさ。その記事によると「天国」が破綻した一番の要因が、現世での善良なひとの数が世界規模で減ってしまい、いままでは「天国」の住人からの文字通りの善意で支えられていた「天国」の財政が一気に悪化してしまい、破産してしまったのだ!哀れな天使たちも解雇されてしまったというわけなの!失業した天使!かれらはこれからどうやって生活していくのかしら?天使ってあたしのなかの勝手な想像なんだけど、なんかウィーン少年合唱団のようなイメージがあって世間知らずのチェリーボーイでこの世知辛い世間(鬼ばかり!)で「就活」なんてできっこないもん!ここまできてあたしはハッと思いあたったんだけど、この猫って、もしかしたら天使の生まれ変わり?次の瞬間、あたしのそばにいたのは猫ではなくてまごうことなき天使様の見姿!唯一猫と変わらないのはその神秘的な瞳!あたしってば、彼のあまりに神々しい美しさに見惚れてしまい、なんにも言えなくなっちゃった❗「金髪碧眼」って表現は、彼のためだけにとっておきたい!でも彼のからだで一番惚れ惚れしたのは、やっぱりあの純粋無垢な真っ白な翼!理不尽にも「天国」を解雇されてしまった彼をなんとか助けてあげたいと思い、あたしは彼に「これからどうなさるおつもりですか?」なんて不慣れな敬語で聞いたのだ。彼は首を背中のほうに向けて、「この翼さえなければ、人間界でもなんとかやっていけると思うんだけど」と悲しげに呟いたのだ。なんとも胸につきささるツイート。確かに彼のいうとおり、翼の生えた天使を雇ってくれる企業なんかないわよね。その時あたしは生涯で一番の閃きがあって、すぐにそのアイデアを実行に移すべく、あるひとのところに電話したのだ。種明かししちやうけど、あたしの知り合いである美術館のキュレーターをしているひとがいて、そのひとの親友が日本でも数えるくらいしかいない古典彫刻の修復を専門にやっていて、前にルーブル美術館のサモトラーケのニケの羽根の修復を手掛けたことですごく話題になってたことを思い出したのよ❗修復か可能なら、その逆もアリかな、って、思いついたのよ!この後の展開は賢明なる読者モデルの皆様には簡単に想像つくと思うけど、一応捕捉説明しておくと、熟練の職人の技のおかげさまで天使の翼は彼の背中から完全に取り除かれて、翼の痕跡は全くといっていいほどの完璧な「手術」だった!その後の彼はその美貌を生かして銀座に新しく出来たブランドの旗艦店の販売主任に抜擢され、東京中のセレブからの寵愛を独占している。あたしはといえば、彼から譲り受けた「天使の翼」をヤフオクに出品したら、な、な、なんと、1億の値段がついて落札されたのだ!ついでにいうと買い手はニユーヨーク現代美術館で、あのジャクソン・ポロックの大作の隣に展示されるんだって❗こうしてあたしは猫を拾ったおかげさまで幸運にも億万長者になったわけだけど、1億の使い方について数日のあいだ悩んだんだけど、結局、野良猫のエイズをなくす活動をしているNPOに全額寄付することにしたの!だってこうしてまた善意の輪がひろがれば、またいつの日にか「天国」が再建されるときがくるんじゃないかって期待したの。だって、あたしも死んだら絶対に「天国」に行きたいもん!

ドナルド・バーセルミの「神が死んだので天使たちは奇妙な立場に取り残された」というフレーズに触発されたことだけは間違いないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ