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魔王「勇者さん、勇者さん」


勇者「嗚呼、勇者だぞ」


魔王「貴方はどうして勇者なんですか?」


勇者「ヘソの下に星形のアザがあるからだ」


魔王「今更ですけど、星形のアザって凄いですよね」


勇者「風呂に入るたびに、微妙な気分になるけどな」


魔王「成長につれて形が変わって、変な形になったり……とか、しなかったんですか?」


勇者「綺麗な星形のままだったぞ」


魔王「うーん。もしかしたらそれ、私の七色の髪と同じで、魔力が身体に影響を及ぼしてるのかもしれませんね」


勇者「そうなのか?」


魔王「今までの勇者も、人間にしては能力が高かったんですよ。その人たちがすべて、ヘソの下に星形のアザがあったんだとすれば……可能性はあると思います」


勇者「このアザがねぇ……」サスサス


魔王「強い魔力は、どこかに影響を及ぼしますからね」


勇者「正直、ヘソの下に変なマークあるよりは、髪色が変わる方が格好良いよな」


魔王「これはこれで目立ちますよ? 勇者さんのは服着ればわかりませんけど、私のこれが勇者さんにあると、何処にいっても『俺が勇者だ!』って主張してる感じになるかと思います」ファサッ


勇者「……それはちょっと嫌だな」


魔王「でしょう? あ、勇者さん、今日は私、お肉の気分です」


勇者「なんだかよくわからない肉で良いなら、飯作ってやるよ」


魔王「勇者さんが作ってくれるなら、なんのお肉でも良いですよーう」




―――――――――


魔王「勇者さん、今日は少し寒くないですか?」


勇者「そうか?」


魔王「……あ、わかりました。勇者さんスープ作ってるから、湯気で暖かいんですね」


勇者「言われてみればそうだな。お前、テーブルに座ってるだけだもんな」


魔王「わ、私はお仕事帰りなんですよ? 決してなにもしてないわけではないんですよ? 人類と魔物のために、身を粉にしてですね……」アタフタ


勇者「解ってるって。あと、帰っては来てねぇだろ……少し待ってろよ」トテトテトテ


魔王「……お仕事帰りっていうと、なんだか……結婚して……えへへ……」ピコピコピコピコ


勇者「……どうした?」ヒョコッ


魔王「ふやっ! な、なんです?」


勇者「待ってろって言ったろ。ほら」パサッ


魔王「……上着?」


勇者「俺のな。マントの上に上着ってのもちょっとおかしいが、少しは暖かいだろ」


魔王「あ、ありがとうございます……」


勇者「もう少しでスープできるから、そのまま待ってろよ」トテトテトテ


魔王「……」


魔王「……」モゾモゾ


魔王「……あったかくて、良い匂い」


魔王「……えへへ」


勇者「ん、なんか言ったか?」


魔王「なーんでもないでーす」ニヘニヘ


勇者「……」


魔王「……」ニヘニヘ


勇者「……なぁ、魔王」


魔王「なんですかー?」ピコピコ


勇者「お前、魔法で気温くらい変えられないのか?」


魔王「あっ」


勇者「……」


魔王「……」ヘチョ


勇者「……変えても良いんだぞ?」


魔王「……きょ、今日は疲れてるので、勇者さんの上着で大丈夫です!」


勇者「そうか? それなら良いんだが……あ、そろそろ出来るぞ」


魔王「はーい!」ニヘニヘ



―――――――――


魔王「勇者さん、お腹すきました」


勇者「そうか。俺はまだあんまりなんだけどな」


魔王「そうですか。じゃあもう少し我慢します」


勇者「良いのか?」


魔王「お腹すいたときに食べるご飯が一番美味しいじゃないですか。私はそれを、勇者さんと共用したいんです」


勇者「……そうか」


魔王「そうです。あ、早くお腹が空くように、頭の体操とかしません?」


勇者「魔界パズルか?」


魔王「いえ、今日は人間界のパズルを持ってきましたよ」ジャラッ


勇者「お、久しぶりに見るな」


魔王「勇者さんのお母さんに貰いました」


勇者「……母さん、俺より魔王に物贈りすぎだろ」


魔王「いえ、勇者さんには物与えないように頼んであるので……大丈夫だとは思うんですけど、一応勇者さんは対外的にはそういう扱いなので」


勇者「解ってるよ。言ってみただけだって」


魔王「……勇者さんもお母さんも、その辺りわかってくれるのでとても助かります」


勇者「畏まらなくて良い。ほら、パズルやろうぜ」


魔王「はい。これは魔法は使わないんですよね?」


勇者「おう。フツーに組むぞ」


魔王「実は魔界にもこういうのあるんですけど、私はあの魔法を使うものしか遊んだことないんですよね……あ、この白いのなんですか?」


勇者「それは(のり)だな。完成したらそれで固めて、額縁なんかに入れて飾るんだ……お、ここだな」パチッ


魔王「へー……あ、ここですね」パチッ


勇者「これは中断できるから、良いとこで飯作るわ」


魔王「お願いします」




―――――――――


魔王「……」ペラッ


勇者「……」


魔王「……」ペラッ


勇者「……」


魔王「……」ペラッ


勇者「……それ、なんの本なんだ?」


魔王「魔界チェスの本です」


勇者「勉強してるのか」


魔王「ええ、勇者さんに勝ちたいので」


勇者「そうか」


魔王「……」ペラッ


勇者「……」


魔王「……」ペラッ


勇者「……飯どうする?」


魔王「食べていきます」ペラッ




―――――――――


魔王「勇者さん、オムライス作ってください!」


勇者「……この間から、そればっかりだな」


魔王「だって美味しいんですもん! なんなんですか、あのふわとろの食べ物は!」


勇者「チキンライスを卵でくるんだ食べ物だよ」


魔王「金色でふわふわとろとろの卵を割ると、香ばしくて真っ赤なご飯……!」ウットリ


勇者「相当気に入ったらしいな」


魔王「はい! 嗚呼、勇者さんに人間界の食材渡して良かった……これから定期的に仕入れますからね!」


勇者「お、おう……まぁ少し待ってろ……あ」


魔王「どうしたんですか?」


勇者「いや、卵がもう無くてな……」


魔王「えっ……作れないんですか?」ヘチョ


勇者「そ、そんな顔すんな。一人分くらいなら何とかなるから」


魔王「……うー。私の分しか作れないなら良いです」


勇者「良いのか?」


魔王「……同じのじゃなきゃ、や、です」


勇者「……解ったよ。代わりって言うにはアレだけど、ピラフ作ってやるよ」


魔王「ぴらふ、ですか?」


勇者「幸い、米はたくさんあるからな」




―――――――――


魔王「勇者さん、ピラフ作ってください!」


勇者「こうなったか」




―――――――――


勇者「ほい、チェックメイト」コトッ


魔王「……」


勇者「どうした?」


魔王「……フツー、あれだけ頑張ったら勝てません? ほら、お約束ってやつで……友情、努力、勝利ってやつで!」


勇者「俺の世界のお約束に当てはめると、魔物が人類に勝ってるのが間違ってるんだけどな」


魔王「う、うぅー……頑張ったのに……」


勇者「そうだな。お前は頑張ってたよ。でも、俺も頑張ってたわけだからな」


魔王「え?」


勇者「お前がいない間に、ひとりチェスでいろんな局面を想定して練習をな」


魔王「……既にうまい人が練習しなくても良いじゃないですか」


勇者「数少ない娯楽だし、俺も楽しみだったからな」


魔王「むぅー……お願いが……」


勇者「結局、なにを頼むつもりだったんだ?」


魔王「えっ?」


勇者「ん?」


魔王「だ、ダメですよ! そんなの言えません!」


勇者「ダメって……」


魔王「ダメです!」


勇者「……お前、俺に話せないのにどうやって頼もうと思ってたんだ?」


魔王「……あ」


勇者「……」


魔王「……はぅ」ヘチョ


勇者「いや、良いんだけどな……」


魔王「うぅ、そもそも計画の時点で失敗でした……」


勇者「落ち込むなって……」ポフッ


魔王「ふにゃっ」


勇者「お前はよく勉強した。強くなってて驚いたぞ」ナデナデ


魔王「あ、あ……はふ……」


勇者「……頼みごとなら、フツーに聞いてやるぞ」ナデナデ


魔王「良いんです。もう叶いました……」


勇者「ん?」ナデナデ


魔王「いーんですっ。えへへへ……」ニヘラ




―――――――――


魔王「ゆーしゃさん、こんにちわー……あれ?」


勇者「ん、こっちだぞ」


魔王「あ、ベッドの方でしたか」


勇者「おう」チクチク


魔王「……お裁縫ですか?」


勇者「服が少し破れてな」チクチク


魔王「言ってくれれば、新しいの用意しますよ?」


勇者「まだ縫えば着れるからな。まだ使えるものを捨てたくないんだよ」チクチク


魔王「物持ちがいいんですね」


勇者「勇者してた頃に染み付いた貧乏根性だよ」チクチク


魔王「勇者さん、貧乏だったんですか?」


勇者「そういうわけじゃないんだが……俺が服屋とか行くと、みんな良い服持ってきてくれてな。しかも金は受け取ってくれないんだ」チクチク


魔王「……人類の希望ですもんね」


勇者「それが申し訳なくてな。なるべく、人の世話にはならないようにってな」チクチク


魔王「もしかして、人間の料理もそれでですか?」


勇者「嗚呼。飯屋なんて入ったら大変なことになってたからな。自分で覚えたんだよ」チクチク


魔王「……勇者さんも大変だったんですね。今はこうして、外にも出られないわけですし」


勇者「いや。正直、今の方が楽しいよ」チクチク


魔王「え?」


勇者「お前が俺の飯、うまそうに食べるからな」チクチク


魔王「……そうですか」


勇者「おう。飯、食べてくだろ?」チクチク


魔王「はい。お願いします」

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