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―――――――――


魔王「勇者さーん」


勇者「……」スピスピ


魔王「……あ、また寝てる」


勇者「……」スヤー


魔王「もう、テーブルじゃ風邪引くって、前も言ったのに……しょうがないんだから」


勇者「……」クークー


魔王「……」パサッ


勇者「……」スヤスヤ


魔王「……今回マントに匂いがついたら、魔法で保存させてもらっちゃお」


勇者「……」モゾモゾ


魔王「……そういえば私、この間……勇者さんに撫でてもらったんですよね」


勇者「……」スピー


魔王「……起きません、よね?」ソロソロ


勇者「……」クカー


魔王「……」ギュッ


魔王「あ、おっきい手……あったかい……」


勇者「ん……」


魔王「っ!」ビクー!


勇者「……」スカー


魔王「ほっ……もう、ビックリさせないでくださいよ……」


勇者「……」クー


魔王「……また、撫でてくれないかな、勇者さん」


勇者「……」スカスカ


魔王「うー、もやもやする……」


勇者「……」スゥスゥ


魔王「……勇者さんの、せいなんですからね」ギュッ




―――――――――


魔王「勇者さん、こんにちわ」


勇者「魔王か」


魔王「はい、魔王です」


勇者「……なんかこの状況が不自然だってのを、たまに忘れそうになるな 」


魔王「なんのお話ですか?」


勇者「お前は魔界の女王で、俺は勇者だぞ?」


魔王「もう人間と魔物は戦争してないんですから、些細なことじゃないですか。もっと未来に目を向けましょう。魔物と人類の未来に」


勇者「……しかも俺より言うことが勇者っぽいしな」


魔王「勇者じゃなくて、ただの為政者ですってば」


勇者「為政者っていえば、俺のこと売った国王は今なにしてんのかな……謝罪の手紙とか、一切こねぇんだけど」


魔王「さ、最初に送ったかもしれないじゃないですか……。ええと、あの人なら隠居して貰いましたよ? 今は人里からすこし離れたところで、オレンジ育ててます」


勇者「定年退職した会社員かよ」


魔王「いえ、引き続き人間界の方を担当してもらっても良かったんですが……」


勇者「なにか問題があったのか?」


魔王「……ちょっとこっちへの配慮が露骨で、疲れてしまって」


勇者「嗚呼……ゴマスリか」


魔王「ええ……ですから、やんわりとした手段で隠居していただいて、違う人にお任せしてます」


魔王「……といっても、私が決め事を通達するより、人間から人間に通達するほうがスムーズにいくかなって言う理由で取立てたので、その人もお飾りはお飾りなんですが」


勇者「……お前も気を遣う立場だな」


魔王「人間が魔物と歩むにも、魔物が人間と歩むにも、まだまだ時間が必要です。ただそれだけのお話ですよ」


勇者「……飯、どうする?」


魔王「食べていきます」



―――――――――


魔王「勇者さん、おっはー」


勇者「……なんだそれ」


魔王「知らないんですか? 今人間の間で、すごく流行ってる挨拶らしいですよ」


勇者「俺が幽閉されてるって忘れてないか?」


魔王「お母さんから聞いてるかと……私も勇者さんのお母さんに教わりましたし」


勇者「お前なんで勇者の母親と仲良くなってるんだよ」


魔王「お母さん、勇者さんの面会終わったあと、いつも私の部屋でお茶していってくれるんですよ」


勇者「母さん、俺の知らない間に、そんな懐まで潜り込んでたのかよ」


魔王「お母さんいい人ですね。いつもニコニコしてて……私のこと、近所の子供みたいに扱ってくれますし」


勇者「そうか。俺は今ヒヤヒヤしたぞ」


魔王「もう、あんな良い人が手紙出さないわけないじゃないですか。ダメですよ、疑ったりなんかして」


勇者「魔王に説教された……」


魔王「説教されるようなこと言う勇者さんが悪いんです」


勇者「そうなんだろうが、この納得いかない感じはなんだろうな……」


魔王「ところで、今日のご飯はなんでしょうか」


勇者「なんかの肉の煮物となんかの卵の卵焼き」


魔王「それ、卵はたぶんリザードマンのですよ」


勇者「マジかよ。なんか味が人間界のと違うと思ったら、トカゲ系の卵だったのか……」




―――――――――


魔王「ゆーしゃさーん!」


シーン


魔王「……ゆーしゃさん!」


シーン


魔王「……勇者さーん? 勇者さんはいませんかー?」


シーン


魔王「あれ、出掛けてるんですか? ゆっ、うっ、しゃっ、さーん!」


ガチャッ


勇者「ええい、騒がしい。引っ込むだろ」


魔王「あ、トイレだったんですか」


勇者「そうだよ。だからちょっと待ってろ」


魔王「はーい」


勇者「あと、出掛けるわけねぇだろ……俺の立場忘れてるんじゃないだろうな」


魔王「やー、対外的には人質ですけど、私としては客人なので、つい……あ、今日ご飯食べていっていいですか?」


勇者「いいから、出すまでは静かにしててくれよ」バタンッ




―――――――――


魔王「勇者さーん」


勇者「……ふっ!」ビシュッ


魔王「あ……」


勇者「……ふっ!」ビシュッ


魔王「……」


勇者「……ん? 魔王? 来てたのか?」


魔王「あ、はい。今来たところです」


勇者「そうか。声かけてくれても良かったのに」


魔王「いえいえ」


勇者「どうせ静かにするならトイレの時にしてくれよ」


魔王「変に根に持ちますね、勇者さん……今のって、素振り、ですよね?」


勇者「一応な。つっても、包丁じゃ格好つかねぇが」


魔王「木刀くらいなら支給してあげられますよ。明日にでも、書類作ります。五日以内には届くと思いますので」


勇者「あ、ああ……悪いな」


魔王「良いんですよ。出来ることはしてあげます。出来ないことは謝ります。それだけですから」


魔王「私の方こそ、気付いてあげられなくてすいません。そうですよね、ここが生活のすべてでは、運動不足になりますよね……」


勇者「いや、別に運動不足になっても良いんだけどな。もう戦うこと無いだろうし」


魔王「そんな。せっかく勇者さんいい筋肉ついてるんですから、維持しないと勿体無いですよ」


勇者「……そうか?」


魔王「はい。格好いい身体です。さっきの素振りも、すごく格好良かったですよ」


勇者「……そうか」


魔王「そうですよ」


勇者「……なんか恥ずかしいな」


魔王「……そう言われたら、私も恥ずかしいこと言ったような気がします」


勇者「……」


魔王「……」


勇者「……飯でもどうだ?」


魔王「そ、そうですね。お願いします」



―――――――――


魔王「勇者さん、こんばんわ」


勇者「おう。……なぁ魔王」


魔王「はい、なんでしょう?」


勇者「ひとつ頼み事があるんだが……」


魔王「えっ」


勇者「あ、すまん。やっぱり迷惑か?」


魔王「あ、いえ……その、びっくりしました」


勇者「びっくりって、なにが?」


魔王「……勇者さん、私に頼みごとするのはじめてです」


勇者「え? いや、そんなことねぇぞ。木刀も貰ったし、調味料のことも書類作ってくれたし」


魔王「それ、勇者さんが不便そうにしてたから、私からそうしますって言ったんじゃないですか」


勇者「……そうだったか?」


魔王「そうだったです。というより、勇者さんがあまりにも自分の希望とか要望を言ってこないので、私の方から気付いたときに何かしてあげるようにしてたんです」


勇者「そ、そうだったのか……なんか、悪かったな」


魔王「いえ、それは私がしたくて勝手にやってることですから。でも……そんな勇者さんが、私にお願い……ですか……」


魔王「……えへへ。なんでしょう。すごく嬉しいです」ニヘー


勇者「厄介事頼もうとしてるのにか?」


魔王「もう、そんなの良いんですっ。勇者さんのためなら苦労したって良いんですっ。ほらほら、なんでも言ってみてください!」ズイッ


勇者「ちけぇよ……いや、あのな。人間界の食材を仕入れてくれないかって思ってな」


魔王「……人間界の食材、ですか」


勇者「ずっとじゃなくても良いんだ。でも……このところ、少し故郷の味ってのが恋しくなってきてな」


魔王「……そうですね。慣れない土地、慣れない食材ですもん。お口もホームシックですよね」


勇者「お口もホームシックって言う表現はどうかと思うが……まぁ、そうだな。たまにはなんだか解らないものじゃなくて、馴染み深いものが食べたくてな……」


魔王「……解りました。ですが、しばらく時間はかかると思います」


勇者「そうか……わかった。頼む」


魔王「はい。お任せください」


勇者「……人間界の食材って、魔界にはほとんど来ないのか?」


魔王「いえ、食材関係はまだ法律とか流通ルートの整備ができてなくて……。あと、人間が大丈夫でも、魔物には毒だったりとかあるかもしれませんからね。そういう安全性の確認も必要で、なかなか直ぐには難しいんです」


勇者「なるほど……そういうことか」


魔王「ええ。それを魔物の種族毎に確認しなくてはいけませんからね……食の問題を解決、と言うか、人間の食文化が根付くには、しばらく時間がかかるかと」


勇者「……逆もしかり、か」


魔王「はい。人間の方も、魔界の食材で何がオッケーで何がダメなのか、ちゃんと調べていく必要があります。勇者さんには確実に大丈夫なものをお渡ししてますけど、実際は毎日いろんなものを少量ずつ試していってますよ。魔物も、人間も」


勇者「そうか……大変なんだな、外は」


魔王「そうですね。でも、その大変さが、明日の平和に繋がるんです。それに個人レベルではもう食材のやり取りは始まってますからね。少しずつ、でも確実に進んで行ってますよ?」


勇者「……魔王」


魔王「なんですか?」


勇者「お前は立派だよ」


魔王「ふにゅっ。な、なんですか急に誉めたりして。そ、そんなにしてもなにも出ませんよ!」キャー


勇者「なんか駄々漏れにはなってるけどな」


魔王「もー! そんなのいいからご飯作ってください!」


勇者「おう」

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