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魔王「勇者さん」
勇者「魔王か」
魔王「どうでしたか。お母さんとの面会」
勇者「……嬉しかったよ。ちょっと泣きそうになった」
魔王「そうですか……良かった……」ホッ
勇者「ありがとうな、魔王」
魔王「……」パチクリ
勇者「どうした?」
魔王「あ、いえ……勇者さん、はじめて『ありがとう』って言ってくれたなって……えへ、えへへ……」ニヘラ
勇者「なんだよ、そんなに笑うことか?」
魔王「だって、なんかすごく嬉しくて……あ、でも、元々私の不手際ですから、そんなお礼とか……すごく嬉しいけど、良いんですよ!?」キャー
勇者「どっちだよ。……ありがたいって思ったのは本当なんだから、フツーに受け取ってくれ」
魔王「えへへー。じゃあ遠慮なく!」ピコピコ
勇者「おう。にしても……お前、俺の母さんにも土下座したんだな。聞いたぞ」
魔王「当たり前じゃないですか。心がこもった大切なお手紙が捨てられるのを見落としてた、なんて……すごく失礼なことなんですから」
勇者「いや、でも……魔王だぞ?」
魔王「魔王だろうが神様だろうが、悪いことして謝らない人はいけない人です」
勇者「……お前の方が勇者っぽいときあるよな」
魔王「なに言ってるんですか。当たり前のことなのに。そんなことよりご飯でも食べながら、お母さんとの話を聞かせてください」
勇者「わかったよ。少し待ってろ」
魔王「……えへへ」ニヘラ
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魔王「勇者さん! 魔界人生ゲームしましょう!」
勇者「人生ゲームまであるのかよ」
魔王「似たようなやつですけどね。はい、これが『魔界人生ゲーム~凍土編デラックス~』です」ジャーン
勇者「またどこから……つーか、売り文句も人間のと似たような感じなんだな……」
魔王「凍土編はウェンディゴに就職して結婚するとすっごい子供ポンポン産めて、ゴールマスで人身売買すると大体一位になれるので、『ウェンディゴゲー』とか言われてますけどね」
勇者「そしてゲームバランスは魔界っぽいな」
魔王「魔界の人生ゲームは結構職業ごとにインフレしてて、勝ち負けよりも他の種族になりきってロールプレイして楽しむことを重視してますからね。それでも勝ち負けに拘る人はいるので、ウェンディゴゲーとか呼ばれるんですけど」
勇者「そうか……魔物にも色々いるもんだな」
魔王「魔物の種類ごとに文化も違うし、同じ種族の魔物の中でも、個体ごとに性格違ってますからね……人間と同じですよ」
勇者「人間よりは種族毎の違いが顕著だけどな……まとめるの大変じゃないのか?」
魔王「昔は大変でしたね。今みたいにいろんな魔物を分け隔てなく不自由なく、平等に国民として扱えるようになるには、五千年はかかりましたし」
勇者「……長い時間、だな」
魔王「これから人間と魔物の関係を良くするのも、それくらいはかかるかもしれませんね……ま、気長にやりますので」
勇者「そうか……頑張ってくれ」
魔王「ええ。これも私の責務ですから」
勇者「……俺が生きてる間は、飯くらいなら作ってやるよ」
魔王「ふふふ。ありがとうございます」
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魔王「はい、あっがりー」
勇者「今回も魔王の勝ちだな」
魔王「勇者さん、人生ゲームはあんまり強くないですね」カチャカチャ
勇者「出目が毎回あんまりよくないからな……運が悪いのかもしれん。たまたま俺の代で人類降伏するくらいだし……よし。はじめるぞ」カチャカチャ
魔王「自虐が結構重いですが……そうですね。勇者さんは『こううん』ステータスがすこし低いです」
勇者「『こううん』ステータス?」
魔王「はい。私が使える魔法のひとつに、対象の『ちから』、『かしこさ』、『すばやさ』、『まりょく』、『こううん』の五つの能力を数値化して表示して、さらにそれらの総評として『レベル』を表示する魔法があるんですよ」
勇者「……相手の能力を数字として出して、大体の強さを見る魔法ってことか?」
魔王「そうですそうです。それで見たところ、勇者さんは『こううん』がちょっと低めで……他のステータス、特に『まりょく』と『ちから』、『すばやさ』は人類の限界近く……あるいは、それ以上まで来てるんですけどね」
勇者「つまり……運が悪くて、頭が悪いと」
魔王「いえ、『かしこさ』は優秀な部類ですよ。運は……悪いってほどでもないのですが……くじ引きでは絶対参加賞しか当たらない程度ですね」
勇者「変に所帯染みた例だな……実際、今まで参加賞しか当たったことないが」
魔王「ちなみに、レベルは2753ですよ」
勇者「……それは、高いのか?」
魔王「高いです。『こううん』と『かしこさ』以外は人類の限界に到達、あるいは突破しているだけはあります」
勇者「そうか。比較対象がいないから解らなかったわ」
魔王「私の側近の魔物が、大体レベル1800から2000くらいなので、勇者さんは魔界という土俵に当てはめても、かなり強いことになりますね」
勇者「……お前のレベルは?」
魔王「私ですか? 今は158997です」
勇者「……は?」
魔王「158997です」
勇者「……じゅうごまん?」
魔王「はっせんきゅーひゃくきゅーじゅーなな」
勇者「マジかよ……桁が違うじゃねぇか」
魔王「一応、魔界で最強ですからね」
勇者「そりゃ勝てねぇわ、人類。なんだその魔王ゲー」
魔王「実際のところ、対外的なこともあって城から出ることが殆んど無いですから、戦力として見た場合は防衛戦力にしかなりませんけどね……あ、ウェンディゴに就職しましたよ。がおー」
勇者「これは今回も負けたな。俺の就職先、ゴーレムだぜ。しかもいきなり主人にカツアゲされてるし」
魔王「ゴーレムは凍土編ではドM職ですからね。……あ、これ終わったらご飯にしません?」
勇者「嗚呼、良いぞ。俺もちょっと腹減ってきたからな」
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魔王「勇者さん、ご飯!」
勇者「おう」
魔王「今日は何が出てきますかね。この間の調味料の書類の件以来、勇者さんの料理スキル上がってきてますからねー」ピコピコウキウキ
勇者「よく解らんものを調理してるのは変わらないけどな……今日はなんだかよく解らない野菜で、なんだかよく解らない調味料炒めだ」
魔王「ちゃんとその調味料にも名前があるんですよ? 一応、書類には人間語でそれっぽく書いたはずなんですが……」
勇者「あの書類、『名状し難きふしぎ味の素』とか『生きている炎の如くパンチがあるパウダー』とか『召喚魔法にも使える黄金蜜酒』とか妙に怖い名前ついてて、正直引いたわ」
魔王「あちゃー、ウケが悪かったみたいですね……好奇心を刺激するかと思ったんですが」
勇者「刺激されたのは恐怖心の方だっての……まぁ、一応一通り使って、全部安全っぽいから使ってるけどよ」
魔王「それはそうですよ。口に入るものなんですから、変なもの支給しませんって」
勇者「その辺り信用してるから、妙にコズミックな名前でもとりあえず使ってみたんだけどな……ところで、魔王」
魔王「なんですか?」
勇者「今更だが、お前は料理できないのか?」
魔王「なに言ってるんですか。料理どころか、およそ生活に必要なことはなにも出来ませんよう!」エッヘン
勇者「いばるなよ」
魔王「洗濯物さえたたんだことありません!」
勇者「だからいばるなって」
魔王「というか、させて貰ったことがないですね。『魔王様はそんなことしちゃいけません』とか言われて」
勇者「箱入りかよ」
魔王「自分の部屋の管理くらいしてみたいんですけどねー……毎日掃除されてて、変なもの置いておくと、ゴミと間違えられてその日の内に撤去されちゃうんですよね」
勇者「変なものって、例えばどんなもんなんだ?」
魔王「最近だとハニワですね」
勇者「ハニワって……あのハニワ?」
魔王「はい。人間界の歴史的な、あのハニワ」
勇者「なんでそんなもん置いてたんだよ……」
魔王「知り合いが人間界土産でくれたんですよ。結構ラブリーで、気に入ってたんですけどねー……残念です」
勇者「ラブリー……アレが……?」
魔王「最近は撤去されそうなものは、魔法で作った異空間に保存してるんですが、ハニワはうっかり出しっぱなしにしちゃってて……」
勇者「便利だな、魔王」
魔王「便利ですけど、うっかりするとそんな有り様です」
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魔王「ゆーしゃさーん!」
勇者「おう」
魔王「また遊びに来ましたよ!」
勇者「最近、二、三日に一回は来るよな」
魔王「お仕事は終わらせてますよ?」
勇者「それなら良いんだけどな」
魔王「当たり前でしょう。私が仕事しないと、国が回らないんですから」
勇者「大分前から疑問だったんだが、お前って何時から魔王してるんだ?」
魔王「何時からも何も……私が歯向かう魔物を全員ぶっとばして建国してからずっと、ですよ?」
勇者「えっ」
魔王「え、なんですか? 私、変なこと言いました?」
勇者「いや……お前って、初代魔王だったんだな……」
魔王「……あ、なるほど。私のことを、跡取りだと思ってたんですね」
勇者「おう……。だってお前、その……あんまり魔王っぽくねぇし」
魔王「ゆーしゃさん、何回魔王っぽくない言う気ですか……」
勇者「いや、実際そうだろ。なんてーか、まともだし……」
魔王「いえ、昔はヤンチャでしたよ。長いこと政治したり、人間と戦争したりしてるうちに、考え方が変わってきただけですって」
勇者「ヤンチャな魔王……全然想像つかねぇ」
魔王「私だけじゃなく、国ができる前はみんなヤンチャでしたけどね。あの頃の魔界は暴力が支配し、誰もが水と食料を求めて殺し合う日々でしたからね……あ、写真見ます?」
勇者「写真あるのかよ」
魔王「人間が写真と呼ぶものと似たような感じのが、ですけどね。えーと、たしか異空間のこの辺りに……」ゴソゴソ
勇者「マントから繋がってるのかよ……もしかして、魔界チェスも魔界人生ゲームもそこから出てきたのか?」
魔王「そうですよ。その名も『魔王四次元マント』……あ、ありました」ピラッ
勇者「……なんで写ってる全員が、一様に肩にトゲ付いたパッドつけててモヒカンヘアなんだよ」
魔王「昔はそれが流行りだったんですよ。可愛くないから、私はしてませんでしたけどね」
勇者「モヒカンと肩パッドに目が行きすぎて、お前がどこに写ってるのか解らないんだが」
魔王「もー。ほら、左下にいるでしょう?」
勇者「……あ、こいつか。何て言うか……まだ幼い、な」
魔王「278歳でしたからね、この頃。まだまだ成長途中でした」
勇者「……」
魔王「あ、今何歳なんだよ、とか思ってますね?」
勇者「少しな……いや、良い。 とりあえず話進めてくれ」
魔王「はい。えーと……この頃は私も、他の魔物と同じように水と食料の為に毎日を血にまみれて、炎の臭いにむせつつ、明日をも知れない生活をしていたんですけどね」
勇者「それがどうして魔王になんてなったんだ?」
魔王「この頃の魔界には、国ほど大きくはないんですが、派閥みたいなものがいくつかあったんです」
魔王「その内の一つのリーダー格を倒したら、みんな私に付いてきちゃって……」
魔王「その人たち、やたら私をボス、ボスって頼ってきて……それに略奪したものの一部を私に献上してくれたりもするから、私も仕方ないなーって感じで。だからその人たちのことも守ってたら、別の派閥と衝突して……」
魔王「その派閥を潰したら、また別の派閥と……重ねるごとに部下も多くなっていって、最後には魔界の全部が私の配下になっちゃってました」
勇者「マジかよ……フツーに武力で統一したのか。そりゃ、レベルも10万越えるわな」
魔王「武力だけではありませんよ。派閥が大きくなるにつれて種族同士の対立とか、派閥内部でのいざこざが目立ってきたんで……政治というか、管理せざるをえなくなってましたから」
勇者「……大変だったんだな」
魔王「法律とかも、一つ一つ決めていきましたからね……どういう法を作れば喧嘩が減るのか、とか試行錯誤の日々でした」
勇者「それで、五千年、か……」
魔王「ええ。統一国家としての体を為すまでに、それだけの時間がかかってしまいました……私が未熟だったせいで」
魔王「あの当時は、私なりには必死でしたけど……後から後から、もっとこうすれば良かったなって、思うことばかりです」
勇者「……そんなもん、人間だって同じだ。お前は立派にやってて、大したもんだと思うぞ」
魔王「……えへへ。なんか嬉しいですね」ピコピコ
勇者「そうか」
魔王「ご飯作って、労ってくれます?」
勇者「俺の飯で良ければな」
魔王「勇者さんのが良いんですよ」
勇者「……そうか」
魔王「因みにその頃から、家事は人任せです」エッヘン
勇者「家事できない歴なげぇな」