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―――――――――


魔王「勇者さん、お腹すきました!」


勇者「おう。なぁ魔王、その前に聞きたいことがあるんだが」


魔王「どうしたんですか?」


勇者「この辺りって、魔界の調味料なのか?」ズラッ


魔王「あ、はい。そうですよ。どれも魔界ではごく一般的なものです」


勇者「なるほどな……」


魔王「それがどうかしました?」


勇者「いや、文字が読めなかったし、どんな料理にどれくらい使うかわからなくてな……人間界の、俺の知らねぇ国のものかと思ったんだが、魔界のだったか」


魔王「あ……言われてみれば、魔界語が読めなければ、わかりませんよね」


勇者「おう」


魔王「それはご不便をお掛けしました。申し訳ありません」ペコッ


勇者「なんだ改まって。別に頭下げなくても良いんだぞ?」


魔王「いえ、客人として扱うとか、言葉の壁があるとか言っておきながら、配慮が足りなかったものですから……」


魔王「でも、人間界の調味料を常に仕入れるのは、まだ難しいですね……えーと……」ブツブツ


魔王「……あ、そうだ。今度、魔界の調味料についての書類作ってきますね。人間界にあるものと似ているものもあると思いますから、参考にしてください」


魔王「勇者さんが読みやすいように、私がきちんと監督して人間語で書類製作しておきますけど……読みづらかったら遠慮せずに言ってくださいね?」


勇者「お、おう……わかった」


魔王「……どうしたんですか? なんだかパチクリしてますけど」


勇者「いや、急に仕事モードに入られてビックリした……そうだよな、お前仕事できるもんな……」


魔王「む……それ、ちょっとバカにしてません? 魔王ですよ、私」ジトー


勇者「だってお前、ここにいるとただの腹ペコ女だしな……」


魔王「……腹ペコは否定できないですけど」


勇者「……飯作るわ」


魔王「お願いします」



―――――――――


魔王「勇者さん、おはようございます」


勇者「おう」


魔王「ご機嫌はいかがですか?」


勇者「フツーだよ。なぁ、魔王」


魔王「なんですか?」


勇者「お前、いつもその格好だよな」


魔王「あ、この服ですか?」ヒラッ


勇者「回るな。スカート短いんだから。めくれるだろ」


魔王「え、ウソ!? 見えてました!?」バッ


勇者「いや、危険性の話でな……見えてない見えてない」


魔王「そ、そうですか。良かったです……」ホッ


勇者「そんな服しかねぇのか、お前」


魔王「そんなわけないじゃないですか! ちゃんと私服もありますよ! ……着る機会があまりないだけで」


勇者「私服? じゃあその服は?」


魔王「これは制服です」


勇者「……魔王に制服とかあるのか」


魔王「人間も政治家さんとか学生さんは、ちゃんとした、と言いますか、ビシッとした服着てるでしょう?」


勇者「あー……なるほど」


魔王「それと同じで、これも魔王の執務用の制服で……まぁ、仕事してますってポーズも込みですよ」


勇者「……そのわりに、やたら、こう……」


魔王「?」


勇者「いや、胸元は開き気味だし、スカートは短いし……ストッキングだし」


魔王「あ、正確にはパンストです。暖かいですよ」


勇者「……その上でマントだし」


魔王「パンストとマントは絶対必要らしいですよ。よくわかりませんが」


勇者「……なんでそんな格好になったんだ」


魔王「国民投票です」


勇者「は?」


魔王「いえ、えーと……人間語だと……こほん。……『魔王様制服コンテスト』って感じのものを、昔やりまして……たくさん出てきたデザイン案の中で国民投票して、これに決まったんですよ」


勇者「……」


魔王「そ、そんな微妙な目をしなくても……私は制服なんてなんでもいいって言ったんですよ? そしたら部下が、『じゃあ国民に決めてもらおうぜ!』とか言い出したらしくて……私のセンスじゃありませんからね!?」


勇者「……とりあえず魔界のやつも、人間とそんなに変わらねぇのはわかったわ。……テンションと性癖が」


魔王「せ、せいへ……う、うぅ……なんか恥ずかしくなってきました……」ハウハウ


勇者「もう見慣れたし、その格好でも気にしないけどな」


魔王「いえ、なんか悔しいので、今度私服持ってきます!」


勇者「……まぁ、別にいいけどよ」





―――――――――


勇者「……ほい、チェックメイト」コトッ


魔王「う、うー……待ったしてもいいですか?」


勇者「良いけど一手戻したところで、どう動いてもお前の敗けだぞ」


魔王「うえー。じゃあ良いです」グデー


勇者「おう」


魔王「勇者さん、魔界チェス強いですね」


勇者「そうか?」


魔王「私、地元民なのにぼろ敗けですよ……そうだ、勇者さん。実は魔界チェスも人間のチェスも、起源は同じなんですよ」


勇者「兵法を学ぶため、か?」


魔王「そうですそうです。姿形、文化、言葉……いろんなものが違ってても、同じこと考えてるところもあるんですねー」


勇者「……なんか嬉しそうだな」


魔王「だって、似てるところがあったんですよ? だったら歩み寄れる……って、思えません?」


勇者「それはさすがにポジティブ過ぎないか?」


魔王「それくらいポジティブに考えないと、やってけないですよ。……現実では、山のような書類と毎日戦ってるんですから」


勇者「えーと……お疲れさん」


魔王「いえいえ。これもお仕事ですから。人間と魔物、双方のために必要な、ね。それに、斬った斬られたより、書いて判押したの方が楽ですよ。肩は凝りますけど」ポキポキ


勇者「……血生臭くないのが一番ってことか」


魔王「当たり前ですよ。……しかし、勇者さんは本当に強いですね。軍師の才能があるのかもしれません」


勇者「勇者が軍師ってのも、どうかと思うけどな」


魔王「良いじゃないですか。才能は貴重ですよ」


勇者「勇者する上で必要ないようなものでもか?」


魔王「勇者さん、自分で『好きで勇者になった訳じゃない』って言ってたじゃないですか」


勇者「それは……そうだが」


魔王「ね? それに、個性なんて人それぞれですよ。私が今まで戦ってきた勇者にも、いろんなのがいましたし」


魔王「髪の色、目の色、肌の色……性格も違えば、性別だって違いましたよ?」


勇者「女の勇者もいたのか?」


魔王「いましたよ。身体は男で心は女って勇者もいましたね」


勇者「変に闇を抱えたやつまでいた のかよ……」


魔王「負けそうになると命乞いする勇者もいたし、それでも負けじと剣を振るう勇者もいました」


魔王「……最後はみんな、私が殺しましたけどね」


勇者「……そうか」


魔王「あの人たちにも、勇者さんみたいに意外な才能があったのかもしれないですね……」ハフー


勇者「……過ぎたことだ。あんまり、その、自分のこと責めるなよ」


魔王「あら、心配してくれるんですか?」


勇者「……」


魔王「ふふ、大丈夫です。勇者がそうであったように、私だって戦わなければいけない立場でした。だから……ちゃんと納得はしてますよ」


勇者「……そうか」


魔王「ええ。それにもう、そんなことにはならないんです。だからもう、過去として、時々私の心をちくっとするだけの話で……」クゥー


勇者「……」


魔王「……」


勇者「……」


魔王「……ご飯作ってくれません?」


勇者「おう」




―――――――――


魔王「勇者さん、こんにちわー」


勇者「……」


魔王「……勇者さん?」


勇者「……」スヤー


魔王「あ、寝てる……」


勇者「……」スー


魔王「もう、テーブルなんかで寝たら風邪引いちゃいますよ。起き――」


勇者「……」クカー


魔王「起き……」


勇者「……」ムニャ


魔王「……もう。しょうがないんだから」パサッ


勇者「……」スピー


魔王「ふふ……魔王のマントを『そうび』した勇者なんて、貴方がはじめてですよう?」ツンツン


勇者「……」モゾモゾ


魔王「あ、くるまった……かわいい……」


勇者「……」スヤー


魔王「……暖かそうにしちゃって」


勇者「……」クークー


魔王「……早く起きてご飯作ってくださいよ?」ツンッ


勇者「……」スヤスヤ


魔王「……でも、どうせなら匂いつくまで寝ててもいいんですよ?」


勇者「……」スピスピ


魔王「えへへ……」ニヘニヘ




―――――――――


魔王「勇者さん、こんばんわー」


勇者「ん、嗚呼。魔王か」


魔王「はい、遊びに来ましたよーう」


勇者「最近『ご飯食べに』、から『遊びに』、になってるよな」


魔王「ちゃ、ちゃんと仕事は終わらせてますよ?」


勇者「それなら良いんだが……少し待て。片付けるから」


魔王「なにかしてたんですか?」


勇者「母さんに手紙をな」


魔王「あ……お邪魔しちゃいました?」


勇者「いや、別に。書くこともそんなにねぇし」


魔王「『魔界よいとこ、一度はおいで』って書いてくれました?」


勇者「一応人質って扱いになってるわけだから、それ書いたら寧ろ無理矢理書かされてるって疑われないか?」


魔王「……確かにそうですね。でもほら、折角手紙のやり取りは自由ってことにしてるんですから、好きなこと書いてくれて良いんですよ?」


勇者「さっきも言ったが、そんなネタないしな……」


魔王「……やっぱりこの独房にずっといると、生活の変化がありませんよね。ホントはもっと自由にさせてあげたいんですど……ごめんなさい」


勇者「別にその辺りのことは色々難しいの解ってるから、気にしてないぞ。申し訳なさそうにするなよ」


魔王「……ありがとうございます」


勇者「せめて返事が来たり、向こうから手紙が来れば『返事』ってネタがあるんだけどな」


魔王「えっ」


勇者「え?」


魔王「き、来てないんですか、お返事……」


勇者「返事どころか、手紙も来てないぞ」


魔王「そ、そんな、まさか……ゆ、勇者さんですよ!? 人類の希望の! お母さん以外にも、こう、ファンの方とかいるでしょう!?」


勇者「今は魔王の人質だしな」


魔王「あ……」


勇者「立派に戦死したわけでもなく、魔王に囚われてる……ってことになってるわけだからな。実際は国王が俺を売ったわけだが」


勇者「その辺りが情けなくて、母さんも俺のこと見限ったのかもな……」


魔王「そんなはずありません!!」ガタッ


勇者「ま、魔王?」


魔王「自分の息子さんなんですよ!? そんなこと……そんなことあるわけないじゃないですか!」


勇者「いや、でも……解らないだろ?」


魔王「解らないなら、どうして信じてあげないんですか! 自分のお母さんなのに!」


勇者「あ……」


魔王「悪く考えちゃダメです。そんな風に考えてたら、どんどん沈んでいっちゃいます。きっとなにか理由が……そうだ! もしかしたら他の郵便物に紛れてるかもしれません! 私、ちょっと調べてみます!」


勇者「お、おい、魔王!?」


魔王「この辺りのルートとか手順が結構未整理だったりして混乱してますし、人間語がわからない人もいます! きっと何処かで止まってたりすると思うんです! じゃ、また来ますんで!」シュタタタ


勇者「……」


勇者「……悪く考えたら、どんどん沈んでいく、か」


勇者「魔王が『勇者』(おれ)より正論言うなよ……」


勇者「……」


勇者「……飯くらい食ってけばいいのに」



―――――――――


魔王「勇者さん!」バンッ


勇者「お、おう……魔王か」


魔王「……」


勇者「なんか久しぶりだな。一月ぶり、くらいか?」


魔王「……」


勇者「……どうした?」


スッ


魔王「」ドゲザッ


勇者「!?」


魔王「この度は、誠に申し訳ございませんでした!」ドゲザ


勇者「な、なんの話だよ……ど、土下座なんてして」


魔王「先日のお手紙の件です」ドゲザー


勇者「いや、せめて顔あげてから話せよ……手紙がどうしたって?」


魔王「はい……調べてみたんです。そしたら、その……城の部下が、勝手に捨ててました」


勇者「っ!」


魔王「話を聞いたら、『人間が書いた手紙なんて届ける必要ない』とか言ってて……勇者さんのお母さん以外にも、たくさんの人が勇者さん宛の手紙出してくれてたのに……ぜんぶ、ぜんぶ捨てたって……」


勇者「……そうか」


魔王「だから……だから、ごめんなさい!」ドゲザ


勇者「いや……お前のせいじゃない」


魔王「私の監督責任です!」


勇者「……そんなことねぇよ。魔物と人間が解りあうのが、まだまだ難しいってだけの話だろ」


魔王「……」


勇者「魔王?」


魔王「ふぇ……ぐすっ……」


勇者「!?」


魔王「でもっ、でもっ! わたし、勇者さんにお手紙出していいって……他の人のお手紙も届けるって……言ったのに! やくそくっ、したのにぃっ……」


勇者「な、泣くなよ……」


魔王「みんなが、ゆーしゃさんのことっ、ひっ、考えてっ、書いた……おてがみもっ、ゆーしゃさんが……いっしょーけんめっ、書いた、おてが、み、もぉ……ぜんぶ、ぜんぶっ……ふ、ふぇ……」


勇者「だからお前のせいじゃないって……」


魔王「私のせーなんですっ! ゆーしゃさんと約束、したのにっ、ひくっ……お客さんとして、扱うとかぁ! 言ったのにぃ! ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」


勇者「泣くなって! 怒ってないから!」


魔王「ゆーしゃさんが怒んなくても、私が情けなくて、腹が立つんですよぉ! ゆーしゃさんのお手紙が、びりびりに破かれてる間に……うっ、ゆーしゃさんに、ご飯作ってくださいとか……言ってたっ、私がっ! 私のばかぁ! う、ぐ……ふえええん!」


勇者「……あーもう」ポンポン


魔王「ふぇ、くっ……私が、ちゃんと見て、なかったからぁ……」


勇者「そんなのもう良いって……」ナデナデ


魔王「うぇ、ごほっ……くっ、ひ……あ、うぅぅ……」




―――――――――


魔王「……ずびっ」


勇者「落ち着いたか?」


魔王「はい、少し……ごめんなさい、勇者さん……」


勇者「だから謝らなくていいって……途中から魔界語入ってよく解らなくなってたし。ほら、タオル。顔、ボロボロだぞ」


魔王「うぅ……ありがとうございます……」ゴシゴシ


勇者「……なぁ、魔王」


魔王「なんですか……?」


勇者「半月くらい前かな。上の階の方で、すげぇ音がしたんだよ。なんか爆発したみたいな音がさ」


魔王「う……」


勇者「……あれ、もしかしてお前か?」


魔王「……はい。手紙を捨てた人たちが、勇者さんのことすごくバカにして……それがものすごく許せなくて……それでつい、ちょっと、大きめの魔法をぶっぱなしてしまって……」


勇者「……やっぱそうか」


魔王「はい……」ヘチョ


勇者「じゃあ、それでいいよ」


魔王「え?」


勇者「捨てられた手紙は返ってこねぇけどさ……お前が俺のために怒ってくれた。俺の代わりに、怒ってくれた。それだけで充分だ」


魔王「……」


勇者「だから、もう気にしなくていい。泣かなくてもいい。また……その、遠慮なんかしないで飯食いにこいよ」


魔王「……ぐすっ」


勇者「泣くなってば」


魔王「これは、これは嬉し泣きですからっ……」ポロポロ


勇者「どっちにしろ目の前で女に泣かれたら、男は困るっての……」


魔王「ぐす……すいませんっ……」


勇者「……そう思うんなら、泣き止んでくれ」


魔王「はい……ん、んっ……」


魔王「……あのですね、勇者さん」


勇者「なんだ?」


魔王「お詫びと言っては何なのですが……これから定期的に、お母さんと面会の席を設けさせていただきます」


勇者「……良い、のか?」


魔王「こちら側が礼を欠いたんです。ちゃんとお詫びをしなければ、いけませんから」


勇者「……正直、それはすげぇ嬉しいけど」


魔王「じゃあ、遠慮なく受け取ってください。それと、今後はちゃんとお手紙を届けるように厳命しておきました。ですから、これからはお手紙がきちんと届くし、届けられるはずです」


勇者「そうか……わかった」


魔王「……本当に、申し訳ありませんでした」


勇者「だからもう良いって」


魔王「はい……」ションボリ


勇者「……」


魔王「……」


勇者「……飯、食べてけよ」


魔王「……はい」

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