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この世界を作ったのは俺なのに!  作者: T.O
この世界は俺に厳しい
9/17

自己紹介

4/30お金の単位を変えました。

 その後の荷馬車での旅は至って平穏であった。

 無論それは対外的な意味であり、俺の心は恥辱に塗れている。


「恥ずかしい……」


 何度目かのその呟きに、最早興味も示してくれない親子の会話は実に楽しそうだ。


「お父さんお父さん! オウトが見えてきたよ!」

「うん。もう少しで到着だね」


 オウト――中央に王城を構えたその都市は実に広く、色々な種族が共に生きている。

 この親子を見て分かるように、種族によっての隔たりは無い。

 それはこの世界ではとても珍しい事。

 他の都市は、各種族毎に分けられているのが殆ど(ほとんど)だからだ。


「オウトか……でかいな」


 実際に視界に入るそれは、思ってたより立派で期待が膨らむ。

 先程まで虚ろだった俺の瞳は、今キラキラとしているのだろう。

 生態系にまで知識が無い俺は、中を早く見てみたい、その気持ちが次第に大きくなっていく。

 彼等は一体どのように暮らしているのだろうか。


「え? 初めてなのかい?」


 俺の呟きに反応するお父様。

 何か可笑しなことを言ったのだろうか。


「そうですけど、なにか?」

「……何も言わないからてっきりここかと思ってたよ」


 答えにならない返事をされると余計に気になる。

 俺は先の言葉を求めるよう視線で訴える。


「えっと……行く宛てはあるの?」


 そんなものは無い。


 だが素直に答えるのもおかしな話かもしれない。

 何がと言われれば俺という存在だ。

 オウトに初来訪であり、行く宛てが無い。

 ワーウルフにすら勝てなかった俺が旅をしているのもおかしな話であろう。


 思わず呟いた台詞は、こうもあっさりと俺という存在を歪な者へと変化させる。


(どうしたものか)


 答えに困っている俺を見て、助け舟を出したのは意外にも少女であった。


「お父さん、うちに泊まってもらったら?」


 俺の心中とは全く違い、何も解決しない提案であったが乗るしかない。

 兎も角この話題を早く終わらせたい。その思いからであった。


「是非是非!」


 必死ではあるが仕方ない。本当に行く宛てなど無いのだから。

 それに宿にも興味がある。食事処があるということだからそれも楽しみだ。


「ならお客様だね。一泊銀貨四枚だけどどうする?」


 何泊するのかという疑問なのだろうが、あえて言わせて頂きたい。

 俺、無一文である。

 そもそもこちらの世界の通貨など見た事も無い。

 笑顔を固まらせ、沈黙をもって訴えよう。 


「え……まさか?」


 お父様の問いに辛くなってきて涙がでてくる……。


「お父さん……行く宛て無いみたいだから泊めてあげようよ。何かお手伝いとかしてもらってさ」


 少女の、擁護の言葉に更に涙がでてくる。


「そうだね……連れて来たのもこちら側の責任とも言えるしね……それでいいかい?」

「ありがひょうごひゃいましゅ」


 俺は何故自分が作った世界でここまで惨めなのだろうか。


 


 城門を過ぎる時がやってきたが、予想に反しそれは滞り無く済みホッとする。

 鑑定の魔法を掛けられるだけで城門を抜けると、そこに広がるのはオウトの町並み。

 既に辺りは夜になっており、それ程活気に満ち溢れている訳では無いのだが、その一つ一つに感動を覚える。

 俺の世界の住人が生活している。そこには確かに生きている証が有った。


「少し遅れちゃったね。」

「早く行かないとお客さんお腹すかせちゃってる」


 夜道を急ぐ親子の会話。

 その会話を聞く限りはこの二人が買い出していた食材は、今日の為の物なのだろうか。

 毎日あの旅路をしながら宿など経営できるのだろうか。

 色々な疑問が湧いてくるが口に出すことはできなかった。

 何故なら俺がそれを問う前に少女が口を出したからだ。


「ソフィー……」

「え?」

「私の名前。ソフィー・キャンベル」

「あっ」


 今更ながらの自己紹介。俺はどう答えるのが良いのだろうか。


「そう言えばまだしていなかったね。僕の名前はアラン。家名は勿論ソフィーと同じキャンベル」


 お父様からの自己紹介を聞き、ある程度の答えを出すことができるようになった。

 この世界は家名を持っているのが普通なのだろう。

 だが、下手に家名を出すと後々面倒になるのが目に見えている。

 仮に王様の家名など使えば大問題だ。


「名前はシン。家名は……捨てました」


 だからこう答える。果たして大丈夫なのだろうか。


「シン……シン……」


 確かめるように何度か呟き、そして……


「いい名前だね」


 そう言ってくれた。問題が無いようでホッとする。


「家名を捨てたって何かあったのかい?」

「お父さん、詮索は失礼」

「おっと……確かに」


 何やら味方になってくれる事が多い少女ことソフィー。

 ハテ……? 何故なのだろう。だが助かっているのでそっとしておこう。


 やがてガタゴトと揺れる荷馬車の旅が終わりだと告げるようにお父様が声を出す。


「さぁ到着だよ。ようこそ僕達の宿へ」

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