最弱のモンスターは斯くも辛く
サブタイトル変えました
必死の決闘を終えた俺は少女の笑顔に見蕩れてしまっていた。
褒められる事に少しは慣れている俺だったが、「よかったね」その言葉が
俺の頭の中で何度も鳴り響く。
──これは不味い。
急に恥ずかしくなり、そっぽを向く。
「まぁ、うん……あれぐらいはな」
意味も無く、その場を濁すだけの言葉。どうしたんだろう俺は。
少女の表情は今どうなってるんだろう。気になるが直視できない。
「何時の間にか口調戻ってるよ?」
クスクスと笑う声にハッとする。
高揚してつい素になってしまっていたようだ。けどいいやこれで、あの喋り方疲れるし。
つい笑みがこぼれ、笑い合っていたのだが……。
「おい! そこのお前達!」
威嚇するようなその言葉に気を取られる。
声を張り上げこちらに向けてきた男達は馬に乗り隊列を組んでいる。
(オウトの騎馬隊か)
大平原の近くにあるオウトには騎馬隊が存在する。
鎧を着込み重圧感をだした彼等が乗る馬はサラブレッドのように体躯が良い。
「先程この先で異常な天候を確認した! 何か知っているか!」
――何もかも知っている。というか俺だと思う。
などとはとても言えない。知らぬ存ぜぬを貫き通そう。
仮に本当の事を言って俺が創造主だなんて言っても頭がおかしい人にしか思われないだろうから。
メテオの事に関してもそうだ。災害を起こしましたなど言えば打ち首獄門であろう。
そもそもワーウルフにメテオ使いましたなんて今の俺には恥ずかしくて言えない。
事なかれ主義の俺はポーカーフェイスを決め込むが少女は俯き獣耳を伏せ、体を震わせている。
どうやら「異常な天候」という言葉に何かを思い出したようだが……。
「そこの子供! 何か知っているなら話せ!」
体だけでは無く、態度もでかいのか。
そうなると読めていなかった俺は設定を少し後悔する。
「怯えているだけですよ」
俺は彼等の態度が気に入らず思わず口を出す。
(話を聞きたかったら態度を改めやがれこの野郎)
少しの罪悪感からか、これ以上何かあればと少女を庇うように立ち便宜を図ろうとする。
「「…………」」
少しの沈黙。
互いに睨み合い視線をぶつけ合う。怖い。
「申し訳ありません。先程空が暗くなり岩が空から降ってきたようです。それを思い出して怯えてしまったのでしょう」
お父様が言葉を付け足してくれる。俺はそういう意味では無かったのだが流石お父様だ。
「む、そうだったのか。思い出させてしまって済まない……しかしそのようなことが……いや、貴重な情報感謝する」
意外にも素直な言葉に驚いてしまう。
彼等はただ任務に忠実すぎた為に情報が欲しかったのだろう。
お父様の言葉が無ければ無駄な争いがあったかもしれない。事なかれ主義とはなんだったのか。
「そこのお前」
今度はこちらに向け声を出す騎兵。
不味い……嫌悪感丸出しだったのに気付かれていたのか。
隊長であろうその人は馬から降り、こちらに歩み寄ってくる。
ドクドクと鼓動が早くなっていくのを感じる。
彼は手をこちらに向け何かを呟き、その瞬間俺の全身を光が包み込む。
「怪我をしているようだったからな」
付け足された言葉を察するに、どうやら回復の魔法なのだろう。
既に肩口の血は止まり痛みもそれ程無かったのだが、それが完全に治った気がする。
良い人でよかった。気付かれてなくて本当によかった。
彼は続けて同じ魔法をお父様と少女にも施し、何かに納得したかのように馬に戻る。
「では我等は先を急ぐ」
その言葉を残し颯爽と駆けて行った。
◇
「でも良かったよ。君が悪い人では無いと確証できて」
再度荷馬車に揺られること数分、唐突にお父様が声を出した。
今は御者側の幌は開かれていてその姿を確認できる。
「え? 何の事ですか?」
「鑑定の魔法をかけられたでしょ? あれは悪人にしか反応しないからね」
「え……俺はてっきり回復魔法かと」
あの光が鑑定魔法?
確かに全身を包まれたのも、俺以外に掛けて貰ったのも、おかしいと思えなくも無いがサービス精神旺盛な人だとしか思ってなかった。
「だって、怪我をしているからって言われて掛けてもらった魔法だったし……」
居心地が悪くなった俺は弁明する。
でも言っていることは理に適っているはずだ。間違えているならあの騎兵は嘘をついたことになる。
幾らオウトの騎馬隊所属だからといって無闇に鑑定の魔法など掛けるものなのだろうか。
「それはこの辺に傷を負う程のモンスターは居ないからだね。空からふってきた岩に関わってるか、もしくは人と争ったのか、どっちかだと思われたんじゃないかな」
「お父さん……これはワーウルフにつけられた傷みたい……信じられないかもしれないけど」
「え? 僕はてっきりあれに巻き込まれた時の物かと思ってたよ」
要するに俺が安全な地で怪我を負う程の不審人物だったからと言いたいのだろう。
なんとも頭が痛くなる会話をしてくるこの親子……次第に顔が赤くなってくる。
(だがまだだ! 俺の考えを裏付ける理由はもう一つある!)
「でも! 確かに傷は痛く無くなりましたよ!」
これこそが俺が確信を得た理由。効果があったのだから間違いは無い。
そう思い俺は声を荒げる。
だが親子の表情は何かを哀れむように変化していく。
「ワーウルフからの傷なら少し血が出るだけでたいした事無いはずだよ」
「たぶん痛いと思い込んでただけ」
「「「…………」」」
親子の追撃により完全にノックアウトする俺。
全ては思い込み。血が出たことにより過剰に反応していたという事だ。
入門用として設定したワーウルフは確かに弱く、だがその設定こそが俺をこうも辱める要因となってしまったのであった。
この時の俺は何故鑑定が反応しなかったという疑問には気付かない。というか恥ずかしくてそれ所では無い……。