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この世界を作ったのは俺なのに!  作者: T.O
この世界は俺に厳しい
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少女視点

 お父さんとの買出しの帰りに異変が起こった。空が突然雲に覆われたのだ。


「なんだろうこれ」


 いつも頼りになるお父さん。今日もお土産に魔道具を選んで買ってくれた優しくて博識なお父さん。

 そのお父さんの疑問の言葉に不安になってくる。


「早く帰ろう!」


 なんだか嫌な予感がする。私は急かすように声を張り上げる。

 けどその言葉の続きを言う前に、更なる異変を目の当たりにする。厚い雲が割れ、燃え盛る岩が煙を纏いながら降ってきたのだ。

 荷馬車は止まるが、急かしていた事も忘れそれを見続け──


「なにあれ……」


――怖い。

 その感情だけが私を支配する。


 やがてその岩は地に墜ち、火柱が起こり大地を揺らす。

 

(怖い怖い怖い)


 馬は暴れ馬車を揺らす。それが更に恐怖を駆り立て、目を瞑り事が過ぎ去るのを祈る。

 

「大丈夫だよ落ち着いて」


 不意に放たれたその言葉はお父さんが出したもの。

 普段通りのその声音に私と馬は若干の落ち着きを取り戻す。

 いつの間にか揺れは収まっていた。


「少し様子を見てくるよ。荷台に移ってじっとしていてね」

「待って。いかないで」


 諭すように言われるが納得できない。何故この状況で私を置いて行くのだろう。


「人影が見えたんだ」

「……」


 優しいお父さんは助けられる人がいるなら行くだろう。そんなお父さんが好きだから私は言葉を返せない。

 言われた通りに荷台に移り幌を閉めようとすると、お父さんは笑顔を向けてくれる。


「すぐに戻ってくるからね」


 今の私はその言葉を信じる事しかでき無い。





 約束どおりすぐに戻ってきてくれたが、どうやら怪我人を迎えに行くらしい。

 御者台のお父さんの隣に移る暇も無く、荷馬車は動き出す。

 それを不満に思うが声に出すことは憚られる。我侭を言って困らせるのは嫌だ。


(我慢我慢……)


 やがて一人の男が荷台に乗ってきた。

 男は寝転び休もうとしたのだが、馬車の揺れに耐えられずにすぐに体を起こす。

 すると今度は荷物を物色しだした。


(なんて無遠慮な人なんだろう……それとも盗人?)


 体がまた恐怖を思い出し震えてくる。

 そんな私の気配に気付いたのだろうか、男が声を出す。

 

「え」


 その表情は唖然としていて少し滑稽。あと少し気にかかる表情をしたがそれが何かわからなかった。


「……こんにちは」

「こんにちは」


 何かされればお父さんが何とかしてくれる。

 そう思うと安心でき、少し間が空いたが挨拶できた。

 その後の会話は続かなかったが男はころころと表情を変え、何やら変な体制をとると声を出す。


「ハッ! まさか!」


 何か気付いたみたいだけどそれが何なのかは私にはわからない。


「逃がしてあげよう」

「……はい?」


 いきなり何を言ってるんだろうこの人。

 全く理解できずに目を白黒させていると男が続けて言葉を放つ。


「さぁ行こう! さぁ!」

「……え、いいです。こっちに来ないで」


 迫ってくる男に再度恐怖が蘇る。

 けど大丈夫、こんな時いつも助けてくれる人がすぐそこにいる。


「騒がしいね。怪我はもういいのかい?」


 ほら、気付いてくれた。





 何がしたいんだろうこの人……。

 男の説明によると、私は奴隷で連れ去られてると思ったらしい。

 嘘のようなその説明も男の態度を目にすれば信じるしかない。何せそこまで自分を卑下してまで盗む価値がある物がこの馬車には無いからだ。

 私の事が目的だったらばれた時点で逃げているはずだし。

 でも分からないこともある。

 仮に本当の事を言っていたとしても、この人がつくのはお父さん側のはずだ。

 助けてもらった恩を裏切り、それでも私を助けようとするのだろうか。本当にわからない。


 再度馬車は歩を進め、オウトまでの道乗りを行く。その最中、更に男が可笑しなことを言い出した。 


「この馬車どこに向かってるんです?」

「呆れた……知らなかったの? オウトだよ」


 男の口調に調子が狂い、つい素の返事をしてしまう。

 少し気不味くなり言葉を続ける。


「そこに私達が経営してる宿があるの」 

「え、凄い」


 こちらの口調を男は特に気にした様子を見せずにホッとする。

 それよりも私達の宿の事だ、褒められたのが嬉しい。

 気を良くした私はつい夢中になって話し出す。


 少しするとガタゴトと揺られていた馬車が急に止まった。

 御者側の幌が開かれ、お父さんが声を出す。


「ワーウルフの群れがいるから倒してくるよ」

「あっ俺も手伝いに……」

「いいよいいよ、休んでて」


 たかがワーウルフで何を言っているんだろう。それ程お父さんが弱く見えるんだろうか。少し怒りを覚える……。





 お父さんの戦いを見守る男の眼差しは凄く真摯だ。

 その様を不思議に思い声をかける。


「そんなに珍しい?」

「はい! 俺は一匹ですら接戦でしたので」

「え? 私でもできるのに」


 信じられなかった。目があり知恵があれば誰でも倒せる事で有名なモンスター相手に接戦? しかも一匹相手? 在り得ない。

 この男は嘘をついている。

 私の中の疑念が強くなり、確かめたくなってくる。


 お父さんに頼み一匹残してもらう。男の戦闘を見るためだ。

 それで少しはこの男のことがわかるだろう。そう思っての提案だった。

 でも、やけに悲しくこちらを見てくる男が不憫に思えてきた。

 流石に提案した手前、更に怪我を負わせるのも億劫だから、剣は怖いがナイフだけは手渡しておこう……。


 やがて男とワーウルフの戦闘が始まる。それはお世辞にも慣れた動きとは言えず、拙さを感じさせる。

 だが言われた通りに行動するその姿は少しの安心を覚えさせる。


 無事勝利した男は興奮した様子でこちらへ走りより声を荒げて宣言する。


「やったぞ! 見たか!」


 とても嬉しそうなその姿を見て、私は気付く。


――この人は嘘なんてついていない。


 でも力が無いこの人は私を連れ出してどうするつもりだったのだろう。それはわからないけど、きっと必死になって私を助けようとする。

 それがなんだか可笑しくって、つい笑ってしまった。

別の視点で書くの楽しかった。

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