普通の戦闘
「もしかして僕がやるのでしょうか?」
「うん」
「……」
当然と言わんばかりの表情のまま即答してくる獣人の少女に俺は言葉を失う。
何故この少女は俺にこのような仕打ちをするのだろう。やはり先程の拉致もどきが気に食わなかったのだろうか。
――狼に食われる様を見て笑う気だこいつ。
「あーもー。そんな顔しないで!」
悲壮感丸出しの俺を見かねて、少女は言葉と同時にナイフを手渡してくる。
「剣もあるけど片手じゃ使えないでしょ?」
そう続ける少女の言葉は確かに的を得ている。だがこんな片手で使えるナイフでは心もとないのも事実。
やはり殺す気なのだろうか。俺を。
「あ! ほら、お父さんが一匹にしてくれたみたい。早く行って」
必ず飛び掛かってくるまでは待つんだよ! という少女の言葉を背に俺は前へと歩き出す。
その足取りは重く鉛にでもなっているのかのようだ。
「ちゃんと前見て。危なくなったら助けてあげるから」
すれ違うお父様からの優しい言葉に涙がでてくる。
俺はお父様への忠誠を更に強くする。
程なくして一匹のワーウルフを目の前に捉える。
その姿は待ってましたと言っているようだ。仲間がやられたのだから逃げればいいのに……。
だがここまで来てしまった以上はやるしか無い。そう決意し対峙する。
俺のやるべきことは唯一つ。少女の言葉を信じる事。
何も知らなかった俺は逃げることしかできなかったが今は指標がある。
これは謂わば賭け。それしか無い。
(まだ飛びこんで来ないのか……!)
対峙し数秒もたっていないのに、気持ちが急いてくる。
メテオの範囲外であったこの場所は大平原の姿をそのままにしている。吹き抜ける風は草をなびかせ、まるで侍の決闘だなと思わせるよう。
だがそれも束の間、ワーウルフが飛び込んできた。
「ぐっ」
俺は寸での所でそれを避け、がら空きになった首筋にナイフを突き立てる。
それだけでワーウルフは命の灯火を消した。
「はぁはぁ……やった」
遅れてやって来る心臓の鼓動は激しい。自らの手で命を刈り取った罪悪感は無く、高揚感が支配する。
「やったぞ! 見たか!」
少女の元へ走りより肩を掴み宣言する。
ふふふ。どうだ見たか! ざまーみろ!
「……痛い」
「ごめん」
しばしの沈黙の後少女は肩を見ながら言い、俺は謝罪する。
少し気分が高まり過ぎたようだ……反省。
だが彼女はそんな俺に笑顔を向け、こう言った。
「よかったね」
その笑顔はとても無垢で、嬉しく思えた。
ワーウルフはスライム並に弱いです。