奴隷商人?
俺は男が乗ってきた馬車の荷台に居る。
幌が張られ閉められている為外の様子は見えないが、今の俺にとっては有難い。
なにせあの光景を遮断してくれるのだ。風通しは最悪だが思いのほか気分は落ち着いてくる。
ガタゴトと揺れる荷台はズキズキと傷口に優しくないが、動かなくていいというメリットには変えられない。
しかし問題が一つある。
(寝れない)
そう、それこそが今俺を悩ませている種の一つ。
さしてやることが無い俺は目を瞑り眠ろうとしたのだが、揺れに慣れない俺はなかなか寝付けない。というか痛い。
寝ることを諦めた俺は荷台を物色しだす。
流石に乗せてもらってすぐにはできなかったが暇すぎるから仕方が無い。
そう心の中で釈明しつつ辺りを見渡す。
俺が寝ていたスペースの他は荷物が沢山積まれていて、片腕でそれらを物色する。
多数ある木箱の中身は多種多様。食料、香辛料もあり、布やよくわからない道具もある。
ここまで見た俺は一つの結論をだす。どうやらあの男は商人のようだ。
ふむふむと手を顎に置き名探偵ばりのポーズをとってる中、木箱の裏に人影をみた。
「え」
完全に一人だと思ってた俺は目を白黒させる。だが確かにそこに少女がいた。
絹のような銀髪からは獣耳が生えていて、整えられたその顔立ちは花のように可愛らしい。
しかし気に入らない部分、それはガタゴトと揺れる荷台にしてはまったく揺れていない胸部。
――惜しい。
「……こんにちは」
「こんにちは」
怯えながらもこちらに挨拶してくる少女にオウム返しするが会話は続かない。
俺はなんとかこの少女について情報を得ようとする。
まずこの少女は間違いなく獣人で先程の男は人間だ。
つまりこの少女と男は関係がない。
そして何故この場所に居るのか。
ここは荷台であり荷物を置く場所である。
つまりこの少女は荷物であり商品だ。
「ハッ! まさか!」
一切会話しなくても情報を得られるとは流石俺。思わずまた名探偵ポーズをとってしまう。
そう、この少女はきっと奴隷。それもどこかから連れ去られた可哀想な獣人。
つまり男は奴隷商人とうこと。それこそが俺が数秒で辿り着いた結論であった。
ならば俺にやれることは一つ。この少女を逃がし世界の秩序を守る。
俺の世界の住人が不幸になることだけは見過ごせない。今ならあの優しいお兄さんにメテオを撃つこともやぶさかでは無い。
「逃がしてあげよう」
「……はい?」
今度は少女が目を白黒させているが構うものか。この世界を守るのは俺だ。
傷の痛みが消えるほど決意を硬くし少女の腕を取ろうとする。
「さぁ行こう! さぁ!」
「……え、いいです。こっちに来ないで」
だが少女はこちらの提案に乗らない。
逃げても捕まった時の事を恐れているのだろう。
そう思い詰め寄るのだが……
「騒がしいね。怪我はもういいのかい?」
御者側の幌が開かれた。
◇
「すいませんでしたー!」
大笑いしている男、呆れ果てている少女、そして土下座している俺。
そう全ては勘違いだったのである。
少女は奴隷では無く、紛れも無く男の娘であった。
妻が獣人であれば生まれてくる子もまた獣人らしい。
VCはオブジェクトを置けば勝手にそれが完成されるシステムだ。
建築法を知らなかったり、材料の品質に関わらず完成されるものは皆均一である。
配置したモンスターも強い弱いは把握できてもその生態系までは把握していない。
住人もまた然り、そこまで詳しい設定を知らなかった俺は勘違いを起こしたという訳だ。
「しかし面白いポーズで謝るね君」
絶賛日本式最上級謝罪スタイルの俺に向けてからかうように言うお兄さん。否、お父様。
全てはこの若すぎる見た目が悪いのだ。
「もういいよ。早く立って。先を急ごう」
なんとこのお父様は人攫いもどきな俺を許してくれる所かまだ馬車に乗せてくれるらしい。
「君も良かれと思ってやったことでしょ? ならいいさ」
「ありがとうございます!」
――このお方は神だ。一生ついていこう。
そう心の中で敬礼をし、感謝の意を伝える俺。
その様を冷めた目で見る少女の事は気にしないでおこう。