優しいお兄さん
土の匂いがする。
土の感触が伝わる。
土の味がする。
うん、明らかに土に埋まってる。
意識を取り戻した俺は自分がやってしまったことを思い出す。
確か……メテオを唱えた。
その結果吹き飛ばされて意識を失った。
三行どころか二行で説明が終わってしまったがそうとしか言えないから仕方ない。
あれからどれぐらいの時間が過ぎたのだろうか。
とにかく現状確認が優先だ。
俺は身に覆いかぶさっていた土からなんとか脱出して辺りを見渡す。
「ケホケホ。……なんだこれ」
見渡す限りの大平原だった場所。そこにはなびく草木の音が無い。
視界は砂埃で染められ、獣の悲鳴のような泣き声が聞こえる。
そして例の場所――メテオが着弾したであろう場所は大きなクレーターを作っている。
所々が赤黒く光り、土はどろどろと溶けているかのように思える。
始まりの大平原は地獄と化していた。
「俺の世界が……」
最早ワーウルフの事など頭に無い。
長年かけて作った世界をたかが数分で滅茶苦茶にしてしまった。
それだけが俺の頭の中でぐるぐると繰り返されている。
「おい! 無事か!」
呆然としている俺に声をかける人物。
見上げた先には人当たりが良さそうな男が居た。
「たぶん……」
どういう意味で俺はこの言葉を言ったのだろう。
その答えはすぐには出せなかった。
「驚いたよ、急に暗くなったと思ったらこれだから……」
「ああ……」
男は惨状を見渡しながら共感を得るように話しかけてくるが俺は生返事しか返せない。
「怪我は無い? あっ! 肩から血がでてるよ!」
「ぐっ……そういえば」
そう言われて意識が肩に向く。
ワーウルフに引き裂かれた場所、吹き飛ばされた衝撃で更に傷口が広がっているように感じる。
「いってえ……」
思い出しただけで痛いのに、そう意識すると更に痛くなってきた。
(この野郎思い出させやがって!)
恨めしげに男を睨み付ける。
すると男は表情を硬くすると黙ってどこかへ走り去っていった。
「ああ、まって……」
責任転換どころか全く見当違いな態度を取ってしまったと今更になって気付く。
いつも俺はこうだ。
何かあれば人のせい。
すぐに周りに当たり嫌われてしまう。
もし次があればあの男に謝ろう。
この世界では清く生きたい。そう思いながら俺の意識は再度闇に……
「おーい! 乗ってくれ! 馬車をもってきた!」
落ちなかった。