始まりの平原にメテオ
4/28太陽1個に修正しました
光に埋め尽くされた俺は目が覚めると別の場所にいた。
その場所は先程の飲み込む程の光までとは言わないが、暗闇に慣れきった俺には眩しすぎる。
薄目をして更に手で光を遮りながら辺りを確認する。
「ここって……」
照りつける太陽からはジリジリとした熱気を感じる。
見渡す限りの大平原はカサカサと草をなびかせ、その自然の匂いを感じさせてくる。
狼はグルグルと唸りながらこちらを牽制している。
やはり俺がVCで作った世界に転移してしまったのだろうか。
「……グルグル?」
改めて見ると明らかに狼がこちらを狙っている。
正確には狼ではなくワーウルフという名に設定しているはずだ。そんな場違いな感想を持っていたがすぐに改める。
「どうしよう……倒せるかな」
そろりそろりと距離を取るが、じりじりとワーウルフは距離を詰めてくる。
この世界で入門用に設定したはずのモンスターだが果たして俺に倒せるのだろうか。
なんとか自身がとれる最善の策を思いつこうとするのだがワーウルフは痺れを切らした様にお構い無しに飛び込んできた。
「あぶねえ」
それを間一髪の所で避けるとすぐに考えを固める。
相手はお構い無しに突っ込んできたのだ。考えてる時間が勿体無い。
「なら俺もお構い無しでやらせてもらう!」
俺はそう言うと走り出した。
それはもう脱兎の如く。
全力で逃げた。
「無理無理無理無理!」
明らかに体格差もあるし! 武器も無ければ生身の状態の俺に勝てる要素ないし!
「誰だよこの世界作ったやつ!」
悪態をつくが応えてくれる者はいない。
「なにか武器は無いのか!」
勿論手ぶらだから持ってる訳も無く、ただひたすらに走り続ける。
「ファイア! アイス! ウィンドカッター!」
この世界の住人なら持ってるであろう初級の魔法を唱えてみるが、住人では無い俺が覚えてる訳もない。
そしてすぐにワーウルフが俺に追いつき追撃を加えてきた。
肩から爪で引き裂かれ呻き声をあげてしまう。
「遂に俺も終わりか……というかもう終わりかよ」
野生の警戒なのか、少し距離を取りこちらを観察しているワーウルフを視界に捉える。
嗚呼……こんな事ならあれも試せばよかったな。
VCは宇宙空間まで操作することができた。
世界を彩る為のシステム。
俺はこれに目を付け、当初はよく遊んだものだ。
沢山の星を作り引力を利用した流星作り。それを上の世界から眺める撃ち下げ花火などは今でも記憶に残る。質や大きさを変え、惑星ごと壊す時もあれば大気圏で燃え尽きる時もあったので苦労したものだ。
無論、真面目に世界を作り出してからはこのような事はしていない。
メテオ――神の悪戯とは程遠いシステムの悪用。
それを俺は――
「どうせ食われるならいいや……メテオ!」
やけくそ気味に唱えてしまった。
途端に厚い雲が空を覆い、照り付けていた太陽はその姿を隠す。
辺りが闇を纏い不穏な空気を漂わせる。
ワーウルフはその雰囲気を感じ取り、踵を返して先程走ってきた方向に帰っていった。
それも凄いスピードで。
どうやら生命の危機を感じ取り、目の前の俺よりも自分の安全を優先したようだ。
「あんな速度で走れたのかよ……」
追ってきてた時よりも遥かに速い。捉える姿は既に小さくなっている。
ともかく助かった。
「じゃあメテオの中止を……」
中止をしようとした時に気付く。
そもそもそんな機能は無い。
「……やばくね」
空を覆っていた雲が割れ、その中心から赤く燃え盛った隕石が姿を見せる。
隕石は煙を轟々と纏いながらこちらに向かってくる。
――終わった。
死因はメテオによる自決。
それはそれで格好良いと半ば諦めかけたその時。
「あれ、どこ向かってるんだ」
明らかに隕石の目的地が此処よりずれてきている。
どうやら先程ワーウルフが走り去っていった方向のようだ。
俺は無意識の内に着弾地点指定選択をしていたのだろう。
勿論選択地点はワーウルフ――ご愁傷様です。
後に残る懸念は唯一つ。
メテオの範囲がここまで届かないことだ。
ワーウルフを目標としている以上範囲は極小であろうが、それでもこちらに被害が及ばないとは断定できない。
故に、祈る。
がんばれワーウルフ!
もっと速く!
俺は必死に祈った。というか傷が痛くてそれしかできない。
そして一分後ぐらいだろうか。その時がやってきた。
遠くのほうに火柱が立ち、少し遅れて爆音と共に衝撃波がぶつかってくる。
俺は無様に吹き飛ばされ意識を失った。