過酷な世界に
「申し訳ありません」
目が覚めた俺は先程とは違い、豪華な見た目の部屋に居て、ふかふかのベッドの上で寝転んでいる。
そして――エルフのお姉さんに頭を下げられていた。
綺麗なブロンドの髪が垂れ下がり、少し見た目が悪く見えたので直ぐに頭を上げてもらう。
「妹が暴走してしまったようで……」
あのロリっ子エルフにされたことを思い出し憤る。
「とにかく出してください。あそこに行かないと」
だがそんな事よりも、やはり転移の門の事が気になり願い出る。
「勿論護衛を出し送り届けます……その前に」
またか、何でもいいから早く聞いてくれ。
そんな態度を取ると彼女は言葉を続ける。
「あれは、あなたがやったと仰ってたようですが本当ですか?」
「そうです」
「では、鑑定を……やはり反応しませんね」
「知らないですよ。こっちは本当の事しか言ってないです」
何故反応しないのかは未だわからない。
証明する方法など……一つあるな。
「実際にやってみましょうか?」
「そうですね……魔核が無いものができるとは思えませんが」
煽るようなその言葉についムキになってしまう。
「じゃあ撃ってもよさそうな場所を用意してください」
「はい……ですがお体に触ります。期間を設けた後、再度ご案内させて頂きます」
俺はそれに了承すると、再度ベッドに横たわり話は終わりだと告げる。
ふかふか気持ちいい。
◇
一週間後懸命な介護の甲斐あって体調はすこぶる良好だ。
俺は今、エルフに引き連れられ大平原の中に居る。
何かあっても対処しやすいよう、この場所を選んだらしい。
時は来た。
「では行きますよ……メテオ!」
彼女達が頷くのを見て、了承の意を受け取り唱える。
その瞬間、空を雲が覆い、燃え盛る岩が墜ちてくる。
無論、無駄に世界を壊したくは無いからワーウルフに撃った時よりも一回り小さくしている。
「うそよ……」
「まさか……」
あの姉妹の驚愕の表情は少し愉快に思える。
彼女達が魔法で守ってくれる手筈だから俺もゆっくりメテオを観察することにしよう。
大気圏で消えることなくどんどんこちらに向かってくるそれはなかなか観てて気持ちがいい。
「ちょっと小さすぎたかな?」
そんな事を、彼女達が居た場所に問いかける。
あれ……いない?
彼女達は一目散に逃げていた。
「ちょ、ちょっとまって!」
彼女達を追う様に走る俺だが、以前に撃った時の衝撃を思い出し恐怖する。
その恐怖は足を上手く動かせずにさせる。
それでもなんとか前へ前へと走っていた時、後方から衝撃がやってきた。
「あっ。ちょ……」
◇
「土の味がする」
少し意識を失っていた俺は自然の味に起こされた。
最早この世界での目覚めがトラウマレベルになりかけている。
「……無事でしょうか?」
お姉さんエルフが戸惑いながら聞いてきたが、最早この人に敬意も何も払える気がしなくなった俺は嫌味を添える。
「おかげさまで大地に還りそうになりましたよ」
「治療は得意ですので言ってくださいね……あ、一応鑑定を致します」
この状況で更に俺を疑うというのだから中々豪胆な心をお持ちのようだ。
結果はやはり反応なし。これは欠陥魔法だろう。
驚きの言葉を回りは放つが、お姉さんエルフは何かを察するような声音に変化する。
「送り届けましょう。今すぐに」
そして何故か急に協力的になった彼女。
俺にとっては願っても無い事だ。
◇
転移の門は無事だった。
深い穴の中にポツンとあるそれは異様な存在感を放っている。
「よかった……」
俺はそれに駆け降り、愛おしいように撫でる。
帰ろう。俺にはこの世界は厳しすぎる。
そう思った時、不意に後ろから声がかかる。
「やはり……上の世界の方なのですね」
見ると彼女達は跪き、頭を垂れている。
俺は彼女達の態度の変化に驚きを隠せずにいた。
「鑑定が効かないのも……そういうことなのでしょう」
それに気付かされる。
つまり――この世界を作った俺がやることは全部善と判断されるのだろう。
よくよく考えればメテオなんてものはシステムで用意されているものだ。
それがこの世界の魔法で悪と判断されるとは思えない。
ようやく合点がいった……。
「この地は私達が守ります。どうかお気になさらず思うがままに……」
彼女達の見送りの言葉と共に歩きだそうとした時。
「ね、ねえ!」
あのロリっ子エルフだ。彼女だけは一貫して態度がそのままだが、それも今になってはかわいく思える。殺されかけたけどな!
「これ……かえすね」
渡されたのは包みに入った何か。
ここで開けるのは無粋であろう。そう思い、手を振り合図する。
さぁ帰ろう。
◇
門をくぐると光に包まれ、元の俺の部屋に戻っていた。
閉め切った部屋は少し居心地が悪い。
窓を開け換気し、光を部屋に入れる。
「帰ってきたんだな……」
二週間にも満たない期間。それが俺の異世界での大冒険。
短すぎたのかもしれない。だがそれでいい。
俺には異世界は過酷すぎた。
「あれ……?」
ふと付けっぱなしだったモニターを見るとあの時のままゲームが行われていた。
そこにはサービス再開の文字。
「なんだそれ……」
やるべきかやらないべきか迷う。
もう終わったゲームだと割り切るのもいいだろう。そう思った時、最後に手渡された荷物が目に入る。
「そういえばなんだこれ」
包みを開けるとそこに入ってたのはソフィーのナイフ。
「あっ」
どうやら俺はまだやらなければいけないようだ。
「祝日……そういえば月に一度だっけか」
あの宴会も体験していない。
俺はまだあの世界を楽しみきれていない。
なら、やるだけだ。
そう思い、月に一度の大会を頑張ろうと思った時、在ることに気付き、手が止まる。
「その前に……メテオの地形元に戻さないとな……」
お読み頂きありがとうございました<(_ _*)>