邪魔してくるエルフ
途中で視点かわります
「あれは……」
メテオが着弾した場所は少しばかりの盛り上がりを見せ、遠目からでも確認できた。
当時はまだ夢物語であったように感じていたが、改めて見るとその被害の甚大さに驚愕する。
落ち着いていた心は焦りを思い出し、何処か楽観視していた自分を呪う。
御者の男に馬車での旅は終わりと告げ、飛び降り向かう。
まだその場所までは距離があり、体力の事を考えると些か軽率であったかもしれないが、そうも言っていられない。
じっと待つことが今の俺にとってどれだけ酷であるかを表すように、その場所まで走り出す。
「ねえ、そっち危ないよきっと」
横から声が届いてくるが、俺は一瞥もくれない。
彼女は俺が飛び降りると同時に付いて来た。何故? とは思わない。そんな余裕など無い。
「ねえってば!」
煩わしくさえ思うその声はやがて横から前へ――立ちふさがるように放ってきた。
「ねぇねぇ!」
「どいてくれ」
「やっと返事したー! 危ないから戻ろう?」
戻る? 何処へ? 俺が戻るべき場所は――
ああ、そうだパンを渡して機嫌をとろう。気に入ってたみたいだからな。
「ほら、これあげるから君だけ先に戻っておいて」
最後の一切れを差し出そうと手を伸ばす。
本気で戻ってくれるとは思っていない。
だが、少しでも――なにか思ってくれれば充分だ。
少しの情さえ芽生えてくれたら止めることはやめてくれるかもしれない。
もしかしたら探すのを手伝ってくれるかもしれない。
そう思っての言葉だった。
「いらないよ? そんなもの」
「なっ……」
その思いは、彼女の拒絶の言葉で途絶えてしまう。
これがソフィーからの贈り物なのはこの子も知っている筈だ。それを――そんなもの? と言い放つ彼女に苛立ちを覚える。
最早懐柔は不可能と判断し、少々強引だが力付くでどいてもらう事にする。
俺は彼女の肩に手をかけ告げる。
「もういい。どけ」
子供に掛けるには乱暴な言葉使いではあるが仕方ない。
俺は形振り構っていられないほど焦燥している。
「ふーん。強引だね。……でも」
彼女が何かを呟き、俺を吹き飛ばす。
「ぐっ」
その衝撃に呻き声をあげる。だがそれ以上にショックだった。
先程までの馬車での情景を思い出す。
和気藹々とした会話、快適な旅、そして――エルフ達がモンスターに向けて放っていた魔法。
それが今、俺に向けられている。
「ほら、行けないよ? どうする?」
まだ、門があるであろう場所――隕石の着弾地点――までは距離があり、なびく草木がザワザワと音を立てている。
その音が余計に俺を駆り立て焦らせる。
彼女の言葉はどこか遠く聞こえ、俺の判断は鈍っていく。
「くそ! どけ!」
闇雲に走り、押し退けようとしたとき不意に視線が絡み合う。
彼女の表情は何処か焦っているようで、そして――
「もういいや。後で調べよっと」
何かを諦めたような、そんな表情をしていた。
◇
「やはりその男でしたか?」
音も無く飛来して、その場に現れたのは先程同じ馬車に乗っていた背の高いエルフ。
見た目とは逆に、従者のようなその態度をとると目の前の私に問いかける。
「んーどうかな? でも怪しいから連れて行って」
「……よろしいのでしょうか?」
少し強引すぎる――そう言いたいのであろうその態度に私は説明する。
「里行きの馬車に乗ってくれたから何かあっても弁解しやすいよ? 大丈夫だって」
「……承りました」
既に眠っている男を担ぎ、来た道を戻っていく。
私はあの後、男を魔法で眠らせた。
いくら提案しても、挑発しても、彼が魔法を使わなかったからだ。
少しでも使ってくれれば彼の魔力量は把握できる。だが、その計らいが失敗したことに苛立つ。
苛立つ心は更に苛立つ事を思い出させる。
オウトの騎馬隊――彼等が私達を疑っていた。
彼等は昨日の、空から降ってくる岩を魔法によるものだと判断し、それを私達がやったのでは無いか? と疑ってきたのだ。
確かに魔法に関して言えば私達は他の種族と比べて一歩ぬきんでている。
だが、このような――自然を壊すことを最も忌み嫌っている。
その事は誰もが知っている事。
「それなのに疑われるなんて……むかつく!」
誰もいないその場で叫ぶが、帰ってくるのは自然の音のみ。
しかし……その音に少し心を落ち着かせ、考える。
あの男は、この場所に何かを求めるように向かっていた。
それは少なからず何かを知っているということだ。
彼を調べれば手がかりが――原因がわかるかもしれない。
早く戻ろう。そう思い歩き出す。
最後に、岩が墜ちた場所を見て呟く。
「絶対犯人見つけてやる」
犯人は誰なんだ……