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この世界を作ったのは俺なのに!  作者: T.O
この世界は俺に厳しい
14/17

馬車と便利な魔法

「そろそろ行かないと」


 馬車が出発する時刻となり、定員に漏れて仕舞わないよう俺も乗車する。

 簡易な作りをされた客車は、広く背が浅い箱に、日光避けの屋根だけつけただけの様に感じる。

 良く言えば、風通しが良さそうで、雨さえ降らなければ旅の快適さを思わせる作りだ。

 客席は横向きに取り付けられ、俺は降りやすい様に最後方に陣取るように座る。

 そして何故か当然のように隣にロリっ子エルフが座っている。この傲慢な態度、間違いなくお子様だ。

 本気で道中の世話を焼かないと駄目なのだろうか……。

 しかし安心する事もある。

 彼女は一人だと言っていた。最低限のマナーは持ち合わせているだろうし、途中で飛び降りるなんて暴挙には出ないであろう。

 それに駅馬車を利用しているということはお姫様という疑いも無い筈だ。


 少しの余裕を取り戻した俺は辺りを見回す。他の乗客は何故かこちらを(うかが)っているようだ。

 それは周りを見て考えれば分かる。この馬車に人間は俺しか乗っていないのだから。

 九割エルフ、残りの一割が俺という比率は、考えようによっては嬉しくあるのだろうが、やはり転移の門の事が気になり、その考えを思考の外に放り捨てる。


 やがて馬車は動き出す。その時に声が届いた。


「シン君!」


 ソフィーだ。彼女はこちらに併走するよう近づき何かを手渡そうとしている。


「これ持って行って」


 手を伸ばし、受け取り確認する。

 布にくるまれた物と、革の鞘に入れられているそれはナイフだ。俺が初めて使ったあの時のナイフ。

 丸腰の俺が何をできるというのだろうか、彼女の心遣いに感謝する。

 冷静差を持ち合わせていたと思う俺は、どこまでもぬけているようだ。


「有難う!」

「それ……貸すだけだから」


 よく見れば汗を掻いている彼女は、余程急いで追ってくれたのであろう。

 そして言葉は再開の約束。

 俺の返事は決まっている。


「ああ! 必ず返す!」


 彼女は歩を止め、馬車は走り続ける。





 急く気持ちとは裏腹に、馬車の旅はそれほど速くない。

 だがそれをどうこうするつもりも無い。先程の事で俺は自戒の念を持ち合わせたのだ。

 まさに急いては事を仕損じるという奴であろう。

 彼女へもお礼をしないとな、と思っていた時不意に声をかけられる。


「ねえ、さっきの狐の人誰?」

「…………」

 

 恐らくソフィーの事を聞きたいのだろうが、俺は答えない。

 必要以上にこの子と関わってはいけない気がしたからだ。


「兄弟……じゃないよね?」

「…………」


 我関せず。不動の心だ。


「お嫁さん?」

「ちげーよ」


 あっ。


「ふーん。本当に違うんだよね?」

「違うよ」


 本当に違うのだからそう答えるしかない。なのだが……何故そんな事が気になるのだろう、そう思い彼女のほうに視線を向ける。


「そう、何かあった時恨まれるのは嫌だから」

「何も無いから安心して」

「ふふん。どーかなー?」


 屈託ない笑顔でそう告げる彼女を見てドキリとし、有り得ない想像をしてしまう。だが、その様な事にはなら無いだろう。

 何せ、俺にはロリ趣味は無いからな! 本当に!



◇ 



 その後の馬車の旅は、雨も降らず至って快適そのもの。たまに吹き抜ける風が心地よく、心を落ち着かせる。

 ソフィーに渡された布にくるまれた物は朝食にでたパンであった。流石にスープは無かったので、硬いままのそれを何度も咀嚼する。


 道中にはモンスターも当然いたのだが、御者の男が処理する前に、エルフさん達が魔法で追い払っていた。殺すでもなく、ただその場から追い払う様にしていた彼女達に感動する。


 卓越しているであろう魔法は斯くも便利なものだ。


 それを見ながら二個目のパンに手をつけようとするのだが。


「ねえ、半分頂戴」


 ロリっ子エルフがそれを邪魔する。

 だが、せっかくソフィーに貰った物を容易く渡すつもりも無い。


「貰うね」

「あっ」


 渋っている俺を気にせず、食べやすいように割られたパンを取り上げられる。

 何か言う間も無く口に咥えられるそれを見て、怒る気も失せてくる。


「かたい……」

「お子様には早かったな。返せ」

「んー……」


 何やら唸った後、彼女は魔法でパンをふやけさせていた。


「うん、美味しい」 


 卓越した魔法は卑怯だ。


「なんで魔法使わないの?」


 こっちのほうが美味しいよ、と言葉を付けたした彼女の返答に困る。

 使わないんじゃなくて使えないんだよ!

 だが癪に障るその物言いに、俺は維持をはってしまう。


「素材の味がわからないとは……やはりお子様」

「むむ」


 どうやら勝ってしまったようだ。


「交換して!」


 そう言い今度は魔法が掛かっていないパンを取り上げられる。

 代わりに先程の物を手渡され、彼女の表情は満足気だ。


「ああ……もういいや。両方食べな」


 その表情にいたたまれなくなった俺は食欲を無くす。


 嗚呼……やはりこの子に関わるといけなかったのだ。目的地はまだか……。

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