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この世界を作ったのは俺なのに!  作者: T.O
この世界は俺に厳しい
13/17

鳴り響く警鐘

 駆ける。


 昨晩とは違い、人や馬車が往来している大通りを、駅に向かって駆ける。

 その生活観溢れる町並みも、よく見れば丁寧に石畳で舗装された道路も、今の俺にはただ走る為だけのコースだ。

 普段通りであればこれらに意識し、感動していただろう。

 だが今に限ってその余裕は無い。

 嗚呼、転移の門は無事だろうか。その思いを糧に体を前へ進ませる。


 下手に路地裏に入る事は無い。

 確かに近道になるであろう場所は存在するのだが、実際にそれを経験した事が無い俺には些か分が悪い賭けであった。

 ワーウルフの時とは違い、今の俺には確実に勝てる道……もとい実際に通ってきた道がある。こちらを通るのが正解であろう。


 急ぐ中でも冷静な自分を感じ、少し安心する。


――大丈夫。きっと無事だ。


 何度したかわからないその自問自答。その本当の答えを知るのは少し後……。





 城門を視界に入れる頃には息が絶え絶え(たえだえ)であった。

 アランの言葉を聞き入れて正解だ。この(ざま)であの場所まで走り続けるのは無理であったただろう。

 転移の門の無事を確認し、戻ってきたら精一杯のお礼をしよう。

 どれだけの時間が掛かるか分からないが、サスペンション等を作り馬車にでも付けてあげれば喜ぶかもしれない。

 あの馬車は揺れが気になって寝ることもできなかったからな……今から彼の喜ぶ顔が楽しみだ。


 やがて駅馬車があるであろう場所に辿り着き、辺りを見渡す。


(設定した場所通りならこの辺に……あった)


 俺は急ぎその場に向かい、御者の男に声をかける。


「平原のほうまで行きたいんですけど」

「んん? っていうとエルフの里行きですか?」


 主要都市の場所は明確に覚えていて方向性は合っている。

 それにソフィーはエルフの里で聖水を買ってきたと言っていた、一般的な行き方としても、俺が馬車で向かうのは問題ないだろう。

 わざわざこの聞き方をしたのは、平原のあの場所までの、直通の駅馬車があるかどうかの確認であった。


「はい」

「なら、この駅であってますよ。次に出発するのは……十分後です」


 あれ程急ぐ必要は無かったが、まぁいい。確認もできたし。


 少し休もう――そう思った時、不意に後ろから声を掛けられる。


「ね! エルフの里に何しに行くの?」


 振り向くとそこに居たのは……あれ? 誰もいない。


「ちょっと! こっちこっち!」


 視線を下げると確かにいる。俺の腹の辺りまでしか背がない女の子。耳を見る限りはエルフだろう。


「いや、平原まで行ければいいんだ。途中で降りるよ」

「ふーん。へー」


 何やら値踏みされてるみたいで不快である。

 更に言えば、何故このような小さい子が一人なのだろうか? 保護者はどこだ?

 色々な疑問が頭に浮かぶがこれも口に出すことはない。俺の頭の中で警鐘(けいしょう)が鳴り響いてるからだ。

 

――フラグが立ちまくってる!


 このロリっ子エルフの見た目はそれだが、実は百年以上生きてるとか、どこかのお姫様だとかそういうのだろう。

 俺はソフィー親子の一件で、見た目に騙されない男になったのだ。


 それに後数分も待てば駅馬車は出発する。彼女の事よりも今は転移の門の事だ。

 憐れ世界の刺客、俺の志は折れない。


「じー」

「え、な、なに?」

「なんか変な事考えてそうだったから」

「そんなことないよ。じゃあ俺はあっち行くから」


 面倒になるのを避けた俺は、少し離れた場所に備えられている木製のベンチに腰掛ける。

 背もたれも肘掛も無いが休める分有り難い。駅馬車を見逃すことも無いその場所に満足する。するのだが……。


「よいしょ!」

「…………」


 トコトコと歩いてきた彼女はポフッという擬音が付きそうなほど軽やかに隣に座った。


「……なにしてんの?」

「私も同じ駅馬車に乗るの! よろしくね」


 そして、そう宣言するのであった。

 考えてみれば至極当然である。

 彼女はエルフで、俺はエルフの里行きの馬車に乗る。

 そこには何もおかしなことは無いのだが、何故同伴するみたいになっているのだろうか。


「俺は途中で降りるから……他をあたってね」


 拒否の反応を示すと同時に辺りを見渡す。

 無論、生贄探し……ではなくて親御さんを探す為だ。


 そして大人バージョンのエルフを見つける。

 確かに見つけたのだが……意識するまでは気付かなかったが、この付近にはエルフさんがいっぱいいる。


「あの……君のお母さんはどれ?」

「どれだろうねー」


 自己解決はできないと判断して問いかけるのだが、彼女はどこ吹く風。

 ニコニコと笑顔を浮かべ、浮かせた足を揺らしている。


「もういいや」

「ありがとう!」


 俺の諦めの言葉を肯定と取ったのか、彼女は嬉しげだ。

 後数分。それだけの我慢をすれば、同じ馬車に乗るであろう彼女の保護者を探し、引き渡す。

 完璧な作戦であったはずのそれは……


「私一人だったから寂しくて」


 笑顔のまま告げる彼女の言葉に潰えてしまった。

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