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この世界を作ったのは俺なのに!  作者: T.O
この世界は俺に厳しい
10/17

自尊心は腰を折る

 荷馬車から降りた俺は、導かれるように木製の扉を開く。

 本来、ギィという音が鳴り響くであろうそれがこちらに届く事は無い。

 宿の中――食事処となっているという場所――は既に喧騒の渦に飲み込まれていた。


「「かんぱーい!」」


 酒を浴びるように飲む者、愉快そうに肩を組み歌う者、表現は違えど彼等は何かを祝っている様だ。


「おう! おせーぞ旦那! 早く出してくれ!」

「やあ、遅れてしまいました」


 こちらに気付いた一人が急かすように声を張り上げ、何かを求めるように歩み寄る。

 それに気付かされ、他の者達もお父様ことアランを待ちわびていたように次々と声をあげる。


「あぁ~? なんだこのガキは?」


 トコトコと歩いてくる彼は俺に気付き、(いぶか)しむようにこちらを見上げる

 その態度に俺は若干たじろいでしまうが、決してびびっている訳では無いのですぐに表情を改める。


(ふっ。凡夫め)


 ドワーフ族

 力強く、それでいて手先が器用で鍛冶屋や工芸家を主な仕事にしている種族。

 実際に見る彼等は確かに設定通り背が低く、少々威圧感に欠けている。


 そんな彼等の見た目が俺の判断を鈍らせる原因の一つ。

 更に言えば彼の言った台詞に反感を買ったからだ。というかこの原因が判断材料の九割を占めている。


――俺はガキじゃない!


 そう、俺は既に成人を済ませている。

 凡眼な彼を見下ろす俺の表情は、きっと余裕に満ち溢れているのだろう。


「おおっと! それよりもあれだ!」

「そうですね。良ければ荷台から降ろすのを手伝ってくれますか? お礼にサービスしますよ」

「よし来た任せやがれ!」


 一体何を運んできたのだろう。

 その疑問を解決すべく俺は彼等に着いて行き再び扉の外にでる。


「あ、お父さん! 荷物は大体おろしたけどこの樽だけは持ち上げられなくて」

「ご苦労様、充分助かったよ。後はこっちでやるからお母さんの手伝いをしてきてね」

「うん!」


 外では荷台から荷物を降ろしている最中のソフィーの姿があった。

 シュンと縮こまっている彼女の姿は耳を伏せ、尾が下がっている。

 だがアランの労いの言葉を聞き、表情を明るくさせると宿の中へ入っていった。


「じゃあお願いします」

「おうよ!」


 アランが一個づつ樽を荷台から降ろし地面に置き、ドワーフの彼が樽を担ぎ上げる。

 小柄な彼でも軽々と両手に一個づつ持ち上げる様を見て、ソフィーの非力さを可愛らしく思う。

 そして残る樽は一個。ここは俺の出番であろう。


「俺も持ちます」

「あっ……無理しないでね」


 手伝いをするという名目の上泊めてもらう以上はやっておくべきだろう。

 だがアランはやけに心配した表情をしている。

 一個ぐらいなら出来ると言い、持ち上げようとするのだが……


「ぐぬぬぬぬ」


 数センチはあがるのだが、それ以上持ち上げることはできない。

 息む俺、見守るアラン、そして……


「おうガキ無理すんなよ」


 俺を見下ろし、心配するようなドワーフ。

 その言葉を聞き、俺は激情に駆られる。


「俺はガキじゃねー!」


 己のプライドを賭けた全力のその思いは……グキリという腰の音と共に砕け散った。





「ドワーフ恐るべし……」


 その後、皆の食事が終わる頃に清掃を手伝うということで一足先に休ませて貰っている俺。

 割り振ってもらった客室のベッドはフカフカとまでは言わないが、馬車の荷台に比べれば休むには充分だ。


「それにしても……」


 窓から見える二個の月を見て、改めてここが元の世界とは違う世界だと感じ取る。

 未だ鳴り響く一階からの喧騒を耳に捉えながらも、意識はだんだんと落ちていく。変化した日常に心が疲弊していたのだろう。


 ああ、飯食ってみたかったな等と思いながらも、束の間の休息を求めるように俺は眠りにつく。





「……て」


 んん? なにかフサフサとしたものが俺の腹を撫でている感触に、ぼんやりと意識が戻ってくる。おぼろげな視界が捉えたそれは狐の尻尾のようだ。

 

「おきてください」


 ふと視線を声がする方に向けるとそこにはソフィーの姿があった。だが何かが違う。

 それはまるで数年の時を経た様。可愛らしい顔つきは美しいと思わせるように変化していた。


 これは狐につままれるというやつだろうか。

 からかわれるのを嫌った俺は、敢えてこちらから攻勢にでることにする。


「綺麗だよソフィー」


 歯が浮くような台詞も絶賛寝ぼけている俺にとっては軽々と口にできる。

 ソフィーは驚きの表情を一瞬とるが、何かを察すようにクスクスと笑い始める。

 冗談が通じたようで何よりだ。


 だが違和感。

 確かにそこに成長したソフィーがいるのだが、よく見ると扉の付近に今までどおりのソフィーがいる。


「あれ、どういうこと」

「はぁ……寝ぼけてないで早く仕事にきて」


 思わず言った台詞に溜息をつき走り去っていく初代ソフィー。もとい本物のソフィー。


「えっと、つまり……?」


 答えを求めるよう、未だに傍らで起きるのを待っている二代目ソフィーに問いかける。


「はい、ソフィーの母クフィーです」


 お母様でした。

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