転移しちゃう!
ガリガリというHDDの音が暗い部屋に鳴り響く。
――うるさい。
光が入らないように閉め切ったはずのカーテンからは車の走行音やクラクションの音が届いてくる。
――うるさいうるさい。
高鳴る心臓からドクドクという鼓動が伝わってくる。
「うるせー! 静かに……って俺じゃん」
自身の鼓動にすら憤りを感じる自分に少し恥じらいを持つがそれもすぐに切り替える。
今集中すべきはこの部屋唯一の光源であるパソコンのモニターだ。
「よし! いいぞこのまま伸びろ!」
目の前のモニターにはポイントが続々と追加されていく様が表示されている。
俺は今、大会百連勝がかかっている集計に目が釘付けだ。
そもそも何の大会かと言われればネットゲーム、タイトルはVCだ。
世界を作っていくこのゲームは成果により評価ポイントをユーザーから貰える。
その順位を競うのがこの大会の趣旨である。
月に一度あるこの大会を俺は九十九連覇中。
どれだけ人生を賭けているかが分かるだろう。
だがそれも今日で終わる。終わってしまう。
ゲーム自体のサービスがこの大会を以て終了してしまうからだ。
その最後の時を勝利して百連覇という偉業を達成して幕を閉じたい。
俺にとってどれだけ今が大事な時か分かってもらえただろう。
「頼む! 頼む!」
誰に聞かれる事も無い台詞ももう慣れたものだ。今更気にすることも無いだろう。
願いを呟きながらモニターに向かって祈りを捧げる事数分、ついにその時がやってきた。
結果は……優勝!
「うおお! やってやったぜ!」
椅子から飛び跳ね喜びを露にしていると下の階からドンドンと叩かれる音が響き、少し冷静さを取り戻す。
有終の美を飾っている所に水を差しやがって……と思うが俺にそれ以上何かをする事はできない。
「しかし、よく勝ち続けられたな」
気分を取り直し、モニターに目線を戻す。
その中には俺が作った世界が広がっている。
異世界風の世界。
それが俺が作り続けた世界。
剣と魔法のファンタジーを基礎として作ったこのゲームには沢山の都市があり、住人の種族も種類が多い。
自分が作り上げた世界を見て周り、今まで築き上げてきた成果を確認する。
「…もう少し続けていたかったな」
一通り見終わると画面端に点滅している部分を見つける。
「メールメッセージが大量にきてるな」
メールボックスの中にはユーザーからの賞賛の手紙が大量に届いていた。
その一つ一つを確認し、時に涙を流しながら読む。
そしてその中の二通だけ目立つように囲いができ色が濃くなっているメッセージを見つける。
運営からのお知らせメッセージだ。
その一つ目の内容は大会勝者へ送られる所謂テンプレメッセージ。
そしてもう一つは百連勝した者のみに送られる特別なメッセージ。
「これは……初めてみるメッセージだな」
そもそも百連勝した者は俺だけで、しかも初なのだから当たり前であるが。
驚きつつもそれに目を向ける。
仰々しい台詞が長々と書かれているので省略するが、要約すると自身が作った世界に行けるということらしい。
「馬鹿らしい」
そんな事を呟きながらも、どこか期待している自分がいる。
そしてメッセージに添付されていた【転移の門】というアイテムを自分の世界に設置する。
最後に記念アイテムを飾ってこのゲームを終わろう。
そう思った時、暗く閉ざされた部屋が光で埋め尽くされる。
「うお! まさか!」
真っ白な光に意識が溶かされていく中、俺は確かにそう言った。
「て、転移しちゃうう!」