7
「いらっしゃいませ、奥山様。今回はスーツのご試着とドレスのご注文でお間違いはないでしょうか?」
店に入るとほぼ同時に俺たちは老執事のような人物に声をかけられた。
いつもの事なのだが、どうやって来ることを知ったのだろうと思うのだ、決して言わないけど。
「はい、間違いないです。ドレスの方はサイズを測ってもらって、後は笹山さんのセンスと美海の好みに合わせていただければ。」
この店に通う人達は笹山さんの事を老執事と呼んでいるらしい。
確かにと思う容姿だし、逆にそれに合わせるような服装をしているから、このアダ名も意外と気に入っているのかもしれない。
「では、まずは奥山様のスーツの試着から参りましょうか。こちらの方は少し来ていただくだけで終わりますから。こちらへどうぞ。」
俺は導かれるがままに試着室に入り、渡されたスーツに袖を通し、いくつかの質問の後に体のフィット感等を確認してもらって俺のスーツの確認は終わった。
さて、美海と笹山さんの打ち合わせが始まったところで、俺は暇を持て余すことになった。
正直に言えば、出来上がりが全然想像できないし、何が流行っているのかもわからない。
ただの役立たず、それが今の俺だ。
そして、なぜだろう。
小説のネタを思いつくから、書きたくて仕方ないのだが、美海がデートと言ってくれたこれを無下にして携帯で小説を書くなんて以ての外だ。
しかし、ふと、頭をよぎる。
担当と今月は約束したのだ。
俺の頼みを聞いてくれる代わりに出された条件の一つに、いくつか持っているコラムや雑誌に載せる短編小説を期限に間に合わせると。
「良樹?小説書きたいなら書いててもいいよ。後30分くらいはかかりそうだから。」
「いや、でも…。」
反論しようと思ったが、確かにその言葉を喜んでしまったのは確かだ。
都合がいいと思ってしまう俺は、本当に嫌な奴だ。
「気にしないで。でも、私が出来たドレスを着たら、一番に良樹が似合ってるって言って?」
「任せろ。」
それだけ言って、俺は携帯に触れる。
最近、さっぱり筆が進まなかった短編小説が音を立てて形をなしていくような錯覚に陥りながらも指を動かすを
今なら、最高に面白い作品を書けるような気がした。
だって、今の俺は幸せなのだ。
ふと、後ろでクスリと笑った気がした。
毎週更新でも、意外とキツイものですね。
ただ、続けられる限り、続けていきますが。
しかし、読者も少ないですし、なんだか寂しい気もします。
でも、たった一人でも楽しみにしてくれるなら、書き続けたい。
そう思います。