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「久しぶりだね、二人でデートするの。」
美海がコーディネートした服装で、玄関で携帯を触っている俺に美海が声をかけてきた。
ふと振り向き美海を視界に捉えた瞬間に、気付けば俺は美海を抱きしめていた。
「可愛い。可愛すぎて、手放したくない。」
「そんな、冗談ばっかり。急にどうしたの?」
こんな事で簡単に理性を失ってしまうとは情けないとも思うが、それくらい可愛い姿をしている美海もズルいと思う。
「あのさ、冗談だと思う?」
背の小さい美海は俺の腕の中に埋まっているような状態だが、それでも見上げていた顔を俺の胸の中に埋めてモゴモゴと呟いた。
「思…わない。」
美海を離した俺もまた、ボソリと呟いた。
「あんま、好きにさせないでよ。」
手元にあった靴を素早く履いて、玄関からそそくさと出る。
美海の事を一瞥もする事が出来なかった。
美海が、どんな表情をしているのかを見るのが怖かったから。
「ばか、好きになって欲しいからだよ。」
美海がまた何かを呟いたような気がしたが、俺の耳がその音を拾うことはなかった。
俺が車のエンジンをかけて、自分の座席の調整をしていると、いつもは誰も座らない助手席のドアが開いた。
そこにはさっきの格好に更に一枚羽織った美海がいた。
「今日は、こっちに乗るの?」
美海は小さくコクンと頷いた。
「今日は、デートだから。」
珍しく乗られた助手席が心なしか幸せそうに見えるし、俺もそこに美海がいることがとても嬉しい。
「デートだからな。それなら仕方ない。」
俺は、それだけ言うと車を発進させた。
車の中には美海の好きなバンドの歌が流れていて、隣には助手席見える景色を物珍しそうに見る美海がいる。
嬉しそうに鼻歌なんて歌っているのが、僕の心を掴んで放さない。
「どこでドレスなんか買うの?買った事ないんだけど。」
「知り合いの所。小説の取材に言った時に仲良くなったんだよね。それからは、いつもそこで作ってるし、買ってるんだ。」
取材で行った際に良くして貰った上にオーダーメイドのスーツまで作ってプレゼントしてくれたのだ。そのスーツがまた良くて、何度もお世話になっている。
先日、スーツの件で電話した時についでにドレスについても聞いてみたら、10日あればオーダーメイドで作れると言っていたので、そこに向かっている。
「へぇ…。楽しみ。可愛いのあるかなぁ…。」
「ごめん、美海。実はそのお店には数点しかドレスは置いてないんだ。基本全部オーダーメイドで作るから…。あんまりね。」
「そう、なんだ。でも、何着かあるんでしょ?それに、二人でお買い物だし。」