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「良樹、2日とも休み取れたよ。それでね、交換条件みたいで悪いんだけど…、お願いがあるの。」
昨日よりも少し早めに帰ってきた美海が、改稿をしている僕のところまで来てそう言い放った。はてさて、その交換条件とやらを聞かねばなるまい。
「うん、何?」
「そのね、お父さんとお母さんが、そろそろ一回旦那と実家に帰ってこいって連絡があったのわそれで、次の休みにドレス買ってから一緒に行きたいんだけど…ダメかな?」
美海の両親に会うのは、結婚式で挨拶をして以来だな。美海単体でなら時たま帰っていたが、俺も一緒に召喚されるのは初めてだ。
「ん、わかった。でも、あんまり話したこともないし、急に呼び出されたら緊張するね。」
「ごめんね。なんか、急に言い出して…。でも、最近あんまり実家に帰れてなかったし、断るに断れなくて。」
シュンとした姿に、まるで責め立てているような気持ちになって、その話を続けるという選択肢が俺の中からなくなった。
「さて、今日は美海の好きなハンバーグ作ったよ。食べよ。」
「え、やった。ありがと。」
俺たちは、あまり外では食事をしない。
外を二人では歩かないし、必要最低限の送り迎えしかしていない。
だからか、気が付けば料理が上手くなっていたし、美海のために美味しい料理を作りたかった。
俺は、幼い頃から料理が好きだった。
小学生の頃の俺の夢が調理師だった事からもわかるくらい、料理が好きだった。
作った料理を食べてくれた人の笑顔が見たくて、食べてくれた人を笑顔にしたくて。今は美海の笑顔のために。
「美味し♪」
そう言って笑う君の笑顔を見る瞬間が俺にとって一番幸せな瞬間なんだって事を、美海は知らないんだろうな。
いつも、君の笑顔が見たいから料理を作ってる事も。
「知らないんだろうな。」
「ん?何が?」
俺は、自分の作ったハンバーグを少し大きめに箸で切って口に放り込む。
うん、いい出来だ。
「なんでもない。」
「気になるじゃん。どうしたの?」
そうだ、たまには美海に伝えようか。
俺の気持ち。
「いや、可愛いなって思っただけ。ただ、美海を好きになって良かったって、思っただけ。」
「なにそれ、急にどうしたの?」
多分、君が俺には言わない言葉。
『好きだよ』は、この家では俺の専売特許だ。