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「そういえば、お願いしたい事があるんだけど…。」
出版社から送られてきた招待状をテーブルの上に置きながら、美海がご飯を食べ終わる頃を見計らって話しかけた。
「ん?何?」
最後の一つの唐揚げを口にいれた美海が、こちらを向いて首を傾げる。こういう、一つ一つの仕草が可愛くて、いつも俺を虜にする。
「これなんだけどね…。僕の本を出してる出版社から、少し遅めの新年会の招待状なんだ。それで、美海にも一緒に来て欲しいみたいなんだ。どう…かな?」
先日、担当から電話が来て、今回は奥様にも出席してもらいたい旨を伝えられてしまったのだ。
今までは、なんとなく黙認してくれていたのだが…、何かあったのか?
「去年もあったけど、一人で行ったよね?今年は私も行った方がいいの?」
「うん…。今年も一人で行こうと思ってたんだけど…、担当に奥様も連れて来てくださいね?って念を押されてね。」
見せかけの夫婦である俺たちに、夫婦として出ろというのは酷だと思う。でも、担当は俺たち夫婦の関係など知らないのだからしょうがない。
「うん…。いいよ。後で同僚に連絡しておやすみを代わってもらえるか相談してみるね。いつまでに解ればいいかな?」
美海は手元にあったスマートフォンを片手に、代わってもらえる人を探し始めた。
「明日くらいまでに解ると嬉しいかな。ドレスなんかも買わなきゃいけないし、準備には時間かかるからなぁ…。」
もう少し渋られるかと思っていたら、意外とトントン拍子に話が進んでしまった。と、内心驚きながら、缶チューハイの残りをひと息に空ける。
「あ、ドレス必要なんだ。て事は、どっかのホテルとか?」
手に持っていた携帯から目を離して、美海は俺の方を見た。
「うん、そこそこ有名なホテルだけど、丸々貸しきってるから、そこまで気にしなくてもいいけどね。」
ドレスコードはあるが、別段気張った格好をしなくても問題はない。
とはいえ、私服で行けば叩き出されるけどね。
「あれ、車?徒歩?それとも、バスとか?」
「いや、自分の車。」
多分、殆どの人が自分の車で行くと思う。
出版社の本社まで行けば、そこからバスが出ているけど、そこまで行くのとホテルに行くのとは殆ど変わらない距離なのだ。
「あれ、お酒飲まないの?そういうところだと、いいお酒も出るんじゃない?」
「そのぅ…、ごめんね?実は、夫婦で一室借りてるんだ。借りてるというか、使っていいって事になってるんだけど…。せっかくだから、泊まってきたいんだけど、ダメかな?」
あそこまで高級なホテルに泊まれる機会はあまりないので、小説の設定に使えるかもと思った。
「最初から言ってよ。別にいいよ。てことは、次の日は休みか遅番かなぁー。」